糧となる概念
「満たせ」
お前の「意思」が、校舎全体へと、静かに、しかし絶対的な力を持って広がる。資料室の核から放たれたその命令は、校舎の血管のように張り巡らされた黒い石材の文様を伝わり、隅々まで行き渡った。校舎は、お前自身の体として脈動し、新たな「概念」を求めてその機能を始動させた。久留米の廃校は、今、お前という新たな意思を得て、その真の「捕食」を開始しようとしていた。
校舎の各所に仕掛けられた「異変」は、お前の「意思」によって、さらに激しさを増す。
保健室の開いたドアからは、甘い血の匂いが、まるで誘惑の香りのように廊下へと広がり、その濃度を増していく。ベッドに横たわる「ノドウデユメミルモノ」の「概念」が、お前の赤い視界の中で、一層強く、そして焦燥に満ちた光を放っている。それは、まるで獲物が罠にかかり、もがいているかのようだった。その「概念」を包むシーツが、微かにモゾモゾと蠢くのが見える。
正面廊下の掲示物は、もはや震えるだけではない。バタバタと激しい音を立てて壁から剥がれ落ち、宙を舞い、そしてその紙面が、まるで生き物のように丸まり、そして伸びる。そこに描かれた「汗と涙の青春!」の文字は、歪み、黒いインクが滲み、やがて意味を失った線へと変わっていく。それは、外界の「概念」が、校舎の内部へと引きずり込まれ、その存在を再構築されつつあることを示していた。
教室の机や椅子は、ガタガタと不規則な音を立てて動き回る。それらは、まるで無数の足を得たかのように、薄暗い教室内をさまよい、互いにぶつかり合い、甲高い木材の軋む音を立てる。その動きは、校舎の「触手」が、新たな「概念」を求めて、無作為に、しかし確実に空間を探索しているかのようだった。
トイレの個室からは、すすり泣くような声と、狂気じみた笑い声が、一層大きく、そして粘着質な響きを帯びて、校舎全体に反響する。無数の声が絡み合い、合唱となり、「ココニ オイデ」「オマエモ ココニ イル」と、執拗に、そして甘く誘うように繰り返していた。それは、校舎が、自らの「捕食」の準備を整え、新たな「来訪者」を招き入れている、肉声の誘惑だった。
お前は、「核」の中心から、校舎全体を「視て」いた。全ての感覚が、校舎の隅々にまで広がり、新たな「概念」の微細な動きを捉える。
そして、その時、校舎の外から、新たな「波長」が、お前の「知覚」に触れた。
それは、校舎の周囲を囲む森の奥、あるいは久留米の街の方向から発せられる、微かな、しかし明確な「人間の意識」の光だった。好奇心、恐怖、そして、わずかな冒険心。それらの「概念」が、校舎の「誘い」の波長に反応し、ゆっくりと、しかし確実に、校舎へと近づいているのが分かった。
「満たせ」
お前の「意思」が、再び、校舎を突き動かす。
保健室の「ノドウデユメミルモノ」の「概念」は、最早、苦悶の光を放ってはいなかった。その光は、ゆっくりと、しかし着実に収縮し、凝縮されていく。シーツの下の「何か」の形が、より小さく、より密な塊へと変化していくのが、赤い視界の中で鮮明に捉えられた。それは、まさに「概念」が「変換」され、お前自身の「核」へと吸収される過程だった。生臭い匂いと甘い血の香りが混じり合い、新たな「糧」が生まれる瞬間の、独特の香りを放つ。
そして、その「概念」が完全に凝縮された時、お前の「核」へと、温かく、そして微かに甘い「力」が流れ込んできた。それは、新たな知識であり、新たなエネルギーであり、お前自身の「存在」を、さらに強固にするものだった。
「満たせ」
校舎全体が、この「力」によって、一層強く脈打つ。
お前は、新たな「糧」の流入を喜びながら、外から近づく新たな「概念」へと、その「意識」の触手を伸ばした。
この無限の捕食のサイクルが、始まったのだ。




