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第21話 パンづくり教室①

 先生は会場を見渡しながら、微笑みを浮かべる。


「まずは自己紹介から。私は、ミカ=ヴィジャウィンと申します。小さな頃からパンが大好きで、寝ても起きても考えるのはパンのことばかり、そうして気付けばパン職人になっていました。皆さん、どうぞよろしくお願いしますね!」


 先生が頭を下げると、パチパチという拍手が彼女を包んだ。

 私も倣って拍手しておく。


「さて、前置きは少なめにして、早速パンづくりを始めていきましょう! まずは、こちらに用意してある材料とレシピの紙を皆さんにお渡ししますね! 〈緩やかに・流れるように〉」


 先生が魔法を唱えると、前方に用意されていた数多の容器と紙がふわふわと空中を移動し始める。


「わあ〜! 先生、魔法もすっごく上手いんだねえ」


 にこにこしながら言っているリリアンに、私は心の中で(いや君の方がヤベえくらい魔法上手いじゃないですか……)と呟いた。突き抜けた食べ物愛で忘れがちだが、この子は一応勇者パーティー所属のげきつよ魔導士だったのである。


 テレザくんが、ふんっと鼻を鳴らした。


「あのていどのまほうで、まほうがすっごくうまい? わらわせてくれる! このテレザ=シャダーリアさまのほうが、ひゃくばい、まほうがうまいわ!」

「あはは、そうなの? すごいねえ、テレザくんは!」


 そう言って、リリアンはテレザくんの頭を優しく撫でた。

 明らかな子ども扱いに、テレザくんは「うがぁー!」と言ってリリアンの手を振り払う。


「きさま、ばかにしているだろうっ!」

「えっ、ええ〜!? 馬鹿にしてなんてないよ!? ただ、可愛らしいなあと思っただけで……」

「うがががぁーっ! やはり、ばかにしているじゃないかっ! おぼえておけよっ!」

「あっ、あれれっ!?」


 手をジタバタさせるテレザくんに、リリアンが目を剥いている。

 最初は一瞬相性がいいかと思ったが、どうやらこの二人相性悪そうだな……。

 そう思いつつ、私はふわふわとやってきたレシピの紙に目を通し始めた。

「超簡単」と銘打っている通り、かなりシンプルなつくり方が記載されている。所々に添えられたイラストは目と口が付いたパンが喋っているもので、先生のパン愛を感じると共に、これからパンを食べることを考えるとちょっと残酷な気がしたが、まあそこをツッコむのは野暮というものだろう。


「マルハナ、よく読み込んでいて流石だわ……!」


 隣からコハナさんの声がして、私はにこっと笑う。


「うんっ! マルハナ、パンつくるのたのしみ!」

「ふふ、私も楽しみよ。美味しいパンができあがるといいわね」

「マルハナ、パンパカパーンと、パンをつくってみせる!」

「うう……この歳でこんなに面白いギャグが言えるなんて流石だわ、マルハナ……」


 コハナさんがいつものように泣き始めた。周りに人がいるので涙腺を強く持ってほしい。


「皆さん、材料の入った容器二つとレシピは届きましたかー? まだ届いてないよーという方は、挙手をお願いします!」


 先生の声が会場に響く。

 特に手を挙げた人はいなかったので、ちゃんと全員に行き渡っているみたいだ。


「よかったです! それでは、早速始めていきましょう。まずは赤色の容器に入っている材料に、青色の容器に入っている水を注ぐのですが、この際ドライイーストと砂糖目掛けて注ぐのが大きなポイントです。そうすることで、ドライイーストによる発酵を砂糖が助けてくれるんですよー! 魔法でドライイーストと砂糖が光るようにしてあるので、それでは皆さん、注いでみてください!」


 私は頷きながら、きらきら光っているドライイーストと砂糖に水を入れる。

 ああ……スローライフを、感じる……。


「皆さん、無事注げましたかー? そうしたら、早速材料を混ぜていきましょう! 最初はお配りしてあるゴムべらで、混ざってきたら今度は手でこねていきます! 取り敢えず、まずはゴムべらで一分ほど混ぜてみてください」


 私は再び頷いて、材料たちをゴムべらで混ぜ始めようとする。



 ――――そのとき、事件は起きた。



「ふっ! ゴムべらなどというどうぐをつかわずとも、ぼくはざいりょうをまぜあわせることができるのだっ! みていろ、しょみんども!」


 テレザくんの言葉に、私は何だか嫌な予感を覚える。


「テ、テレザくん!? ゴムべらは、人類の叡智が生み出した最も材料を混ぜ合わせやすい道具だと思うよ!?」


 リリアンの何か壮大なツッコみを「うるさいっ!」と一蹴したテレザくんは、予想通り魔法を唱え始めた。


「〈すべてをはかいするかぜを〉っ!」


 それに呼応するかのように、テレザくんの前にある赤色の容器の中に小さな突風が巻き起こり――――


 ――――入っていた材料が全て、風に運ばれるようにしてあやとりメイドの前にある赤色の容器にダイブした。


(いやどうしてそうなったんですかあッ!?)


 私は大きく目を見張る。

 私も、リリアンも、コハナさんも、あやとりメイドも何も言えずにいると。


「う、ううう……ぼくの、だいじなパンがあ……」


 テレザくんが目をうるうるとさせ始める。


(いや君も涙腺弱い族なんですかいッ!)


 流石のあやとりメイドも、テレザくんの肩にポンと手を置いて口を開いた。


「テレザ様……自分はどちらかというとパンよりご飯派、何ならご飯よりうどん派なんで、この材料は全部使ってくれて大丈夫っすよ」

「いっ、いいもん……いらないもん……」

「ほらテレザ様、この麗しい『はしご』を見て元気出してくださいっす」

「あやとりとか、どうでもいいもん……」


 あやとりメイドの何かズレた励ましは、テレザくんには余り効果がないようだった。


(はあ〜……こうなったら、しょうがないですね……)


 私は皆に悟られないように、超小声で魔法を唱える。


 すると――あやとりメイドの容器から、半分の材料がテレザくんの容器へと戻っていき、しかもくるくると混ざり始めた。


 驚いている皆に向けて、私はにこにこしながら口を開く。


「わ〜、すごいっ! テレザくん、すっごくまほうじょうずだ〜!」


 その言葉に、テレザくんはぱちぱちと瞬きをしてから、ゆっくりと口角を上げていく。


「……そっ、そうだろう! みたかっ! これが、ぼくのじつりょくだっ! ふははははー!」


 元気を取り戻したテレザくんに、リリアンとコハナさんが温かな言葉を掛ける。


 私はその光景に、ほっと胸を撫で下ろした。

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