表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第6話


 リビングにあるテレビゲーム機の配線を変える。キタキツネをおびき寄せる布石だ。

(今回はゲーム機が壊れた、ということでいこう)

 キッチンに行き、炊飯器の蓋を開けると、炊き込みご飯の湯気が立ち上る。

「そしてこいが、おとんの胃袋ば鷲掴みにしたちう、おかん直伝の炊き込みご飯たい。フフフ」

 チャイムが鳴る。

「はーい」

 明日花が玄関に向かいドアを開けると、スーツケースを提げた駿が立っている。

「どしたの?それ」

「あ、あ、空いてるんだよね、六畳間」

 明日花がぽかんとしていると、駿が十万円を取り出して渡した。

「足りる?」

「足りる足りる、やったああ」

 抱きつこうとする明日花を、駿が闘牛士のようにひらりと躱す。

「それと、パソコン借りていい?ネトカのじゃ漏洩の恐れがあるから」

「いいよ、あんなの。使って使って」

 また抱きつこうとするのをまた躱して、駿は六畳間にスーツケースを運んで行った。


 その日、明日花は久しぶりに古謝との作業だった。

 ゴンドラの中でパイセンに相談をする。

「え?じゃあ、同棲してるってこと?」

「また加齢臭。ルームシェアだって」

「んーと。つまりその男女の…」

 セクハラにならないよう言葉を選ぶ必要は、明日花には不要だった。

「男女どころか、人としての関係もないのよ。あいつご飯も自分の部屋で食べるし、お風呂は銭湯、会話もLINE通してだし、唯一ふたりの共同作業といえば…」


 リビングで格闘ゲームをすることぐらいだった。

「うおりゃ~!」

 画面では、明日花のアバターが駿のアバターに突進していく。

 軽く躱される。いつもだ。そして集中力が切れたところで倒される。

「また躱された!ね、合気道かなんか習ってた?」

「や。ただのオタクだけど」

 そんなはずはない。現にいまも明日花のアバターが腕を決められている。

 既視感。

「ん?今の技って、あのときの…」

 あの夜、突進してくる光臣を床に転がせたのもこの技だった。

「ああ。あの時自然に体が動いて、自分でも不思議だったんだけど…ゲームで慣れてるからかもね」

(オタクの…潜在能力?)

 恐るべし…まじまじと駿を凝視する。ふと思いつく。      

(いや待てよ。つまりゲームしながらだったら、スキンシップも学習するかも)

 試す価値はある。ゲームが再開すると、明日花は少しずつ駿との間を詰めていった。

「た、巽さん、近い…」

 ちょっと肩が触れただけで、駿の身体が硬直する。

(ち、ダメか。なんて難しい生き物なの)

 仕方なく、少しだけ距離をとる。 

「これ以上は近寄らないから。その代わり、明日花って呼んで。まず、心の距離を縮めましょ。ね、駿」

(…あ…す…)

「そう。ほら、もう一息」

 自分の頭を駿の肩に載せようとする。

「う!」

 固まったまま駿が前のめりに倒れ、肩透かしを食った明日花はテーブルの角に頭をぶつけた。


 社員食堂でパイセンに報告兼相談。最近は業務報告並みにふたりの近況を話している。

 トレイを持って席を探しながら古謝が笑う。

「ははは。前途多難のリハビリだねえ」

「ま、ネトカから引きずり出しただけでも大きな前進だけど、なんでその気になったんだろ?」

 テーブルに着くと、古謝が割りばしの上に納豆の箱をふたつ載せて言った。

「吊り橋効果って知ってる?」

「あ。聞いたことある」

「吊り橋のような危険なとこをふたりで 協力し合って渡ると、自然と恋愛感情に似た団結力が生まれるんだって」

「吊り橋‥あ、ゴンドラか」

 古謝が頷く。

「明日花ちゃんと駿君は一緒に乗る機会が多いから、心を開き始めたのかもね」

「でももし、恋愛に発展したら?」

「嫌なの?」

「あ、嫌っていうか、そりゃ向こうが私に惚れちゃうのは致し方ないっていうか…ま、こっちも受けて立つしかないっていうか…」

 明日花が照れて納豆をこねくり回す。

「そう言えば、今日彼は?休みだっけ」

「ああ、なんかサイドビジネスがあるとかって、パソコンいじってたよ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ