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その八 『山寺謀議』

 その八


 『山寺謀議』


 その奸計の最終的な段階へと至るための号令は、粛々と、大多数の蔵座の民が気づかぬうちに発せられた。

 最初の餌食となったのは東の館の女主こと鈴蘭。彼女は当初、陥れる側に立っていたはずである。少なくとも昨晩まで鈴蘭自身はそう思っていたはずだ。


 西の館の蝋燭の灯を消せ。


 そんな児戯のごとき行いでまさか人死にが出るなど鈴蘭は想像だにしていなかっただろうし、平素の言動とは裏腹に小心である彼女にとって、人死にの出た事実は日を追うごとに大きな負担となっていった。

 しかもひとりだけではない。二人、三人と増えていったものだから、時を追うごとに実に重く彼女に覆い被さっていった。

 そんな中での国主の訪館である。

 じわじわとはらわたを焙られるような精神的荷重を喰らっている最中での、今彼女に最も緊張を強いるであろう状況。それが自分が渇望したものであっても尚。

 相当無理をしたに相違ない。

 長年放って置かれた身だ、国主は館に来て尚、手を出さずに帰るのではという懸念は鈴蘭の脳裏にべったりと張り付いていたことだろう。


 その貴種を身に宿すための最後の機会。


 些事であれ大事であれ決意は必要である。

 決意は身を引き締め、果報を引き寄せる力となろう。しかし当然、過度の緊張など毒でしかない。

 緊張を更なる緊張で誤魔化していた鈴蘭はだから、消し去ったと安堵していた怪異を目の当たりにし、


 狂ってしまった。


 怪異とは、いや怪異なのかどうかも甚だ怪しい、提灯の灯かりと奇妙な音。

 せんぽくかんぽく。

 いったいそれのどこにそれほどまでに怯えていたのか、今の鈴蘭にそれを問うても明確な答えは返ってこない。勝手に類推するならば多分、西館の主人を追い込んだことで人死にが出てしまったという精神的な負い目が、巡り巡って自分を追い込んでいってしまったのだろう。


 実際は下男を筆頭に、西の館で人死にの出た事実は一切ない。

 皆、西の館の主の指示に従い、身を潜めていたに過ぎぬ。


 兎も角鈴蘭は、切望していた主君の胤を身に宿すことなく、最後の機会を永遠に逸してしまった。



 ※


 西に続いて東の館の女主が狂乱したとの話を、正十郎は最初誰に聞いたのだったか覚えていない。

 正十郎は正十郎で、

「なんで自分が…謀反などと」

 おのれのことに手一杯であったからだ。

 今も妻を説得しようとあれやこれや提案していた。説得といっても、要は蔵座を遁走する手筈を一方的に捲し立てていただけであるが。

 桜は存外冷やかであった。

「当然です、旦那様に叛意などなく、あらぬ嫌疑を払拭せぬまま逃げ出しては二心はまことであったかと誹りを受けましょう」

「立ち去った後に誰に何をいわれようとどうでもいいではないか。こうして愚図愚図している間にもだな」

 上意を受けた追捕役が狗賓家を囲むかも知れぬ。そう思っただけで正十郎の尻の毛はそそけ立った。まるで居た堪れぬ。

「どうでもいいから早く支度をせいッ。なにも要らぬというのなら今すぐ出立するぞ」

 つい声を荒げてしまう。それでも桜は、目線をやや上げたのみで動こうとしない。最悪の場合、妻だけでも逃がさねばと思っていた正十郎は予想していなかった事態に戸惑いを隠せない。

「いやです、逃げませぬ」

「何故だ」

 問い返す間も正十郎はそわそわと落ち着きがない。それも致し方ない事態ではあった。

「逃げねば捕縛されるやもしれんのだ、自分はもとより、お前も。この家の者皆だ」

 戸板の隙間から、主人夫婦の尋常ならざる会話を気を揉んで注視していた郎党たちの喘ぎのような感嘆符がもれ聞こえた。

 正十郎はその声を耳の端に引っ掛けつつ、

「一度自分を捕縛して後、仮に身の潔白を証明できたとしても、蔵座の上層は簡単に自分たちを解放すると思うか? 卑しくも一国の長の決断、簡単には覆すまいぞ。いやさ冤罪を実にするため虚構を捏造するかもしれん」

 桜はまさかといって大きな目を更に大きくした。

「勝手な噂が拡まっているのだ。もし本当に追捕役を派遣するような事態にまで事が及んでいたなら、もう自分の力ではどうにもできん。狗賓家は滅ぶ」

「濡れ衣を着せられておめおめと逃げ出すと旦那様はそう仰られているのですよ」

「くどい! 濡れ衣であろうがなんであろうが上に目をつけられれば終わりなのだということがどうしてわからんッ。狗賓の血筋とはそうした面倒なものなのだ。だから自分は極力目立たぬよう今まで生きてきたのだ。それをなんだ、逃げ出すことがそれほどみっともないか? 清廉潔白だといい張って首を刎ねられるほうがいいというのか? それとも追捕役に一太刀浴びせて花と散るか? 冗談ではない! くだらん意地を張るな!」

 桜は激昂する正十郎を困ったように眺めていたが、やがて俯き加減に大きな声を出さないでくださいませといった。

「どうしてわからん。自分だけの話ではないのだ、桜やほかの者たちにもかかわることなのだぞ」

「わかっております」

「わかっておらん!」

「わかっておりますよ。ただ私は、このまま逃げることがはたして良いことかと」

「やはりわかっておらんではないかッ。嗚呼どうして話が通じんッ。命の危機だぞ。抗ってどうにかなる話ではないのだ!」

 いって正十郎は地団駄を踏むような仕草を見せた。

 桜は更に困ったように眉尻を下げ、理解しております、わかっておりますと若干うんざりしているように答えた。

「もうよい」

「なにがよいのですか」

「逃げるか残るかそれを今決めろ」

 桜が何事かいい掛けるのへ、

「早よせい!」

 正十郎の眉間が朱に染まっている。

 桜は溜息を落としそうな顔だけして、わかりましたと無声音に答えた。

「私は貴方の妻に御座います」

「それはつまり共に逃げるということか? わかり難いいい回しをするな、はっきりと物をいえ!」

 さすがに桜は哀しそうな顔をする。それでも情けのない夫よりだいぶん気の強い妻は一度大きく息を吸い込むとこういった。

「私は貴方と共におります。ですがこの地から出るつもりもありません」

「…なんだと」

「狗賓に嫁して以来私は、蔵座に骨を埋める覚悟でおりました。今更それを変えるつもりはありません」

「お前は蔵座の生まれではないだろう」

 正十郎が蔵座にこだわる根拠はその理由が一番強い。であるから桜のその決意は、とても理解し得るものではなかった。

「何処の生まれとか、そうしたことは関係ありません。そう決めたのです」

「それを決めたことを、自分は知らん」

「いってはおりませんもの、当然です」

「ならばどうするのか。ここは出ない、しかし自分と共におるというのであれば」

「逃げる宛てなどないのでしょう?」

「それは」

 まるでない。正十郎には蔵座の外に寄る辺などまったくない。ただ闇雲に遁走することのみを思っていた。

「さ、桜の郷里は」

「魚里までいったいどれくらい掛かると思っておられるのです? 私は野垂れ死ぬのは厭です」

「野垂れ死ぬと決まったわけでは」

「これからもっと寒くなるのですよ? 寒さに眠ることもできず食べるものもなく、それでどうして生きていかれましょうか」

 本来その程度の想像子供にもできる。

 正十郎はそうした現実を見ぬようにしていただけである。

「しかし」

 このまま座していて、いったい何の展望があるという。正十郎が滲ませるようにそうした思いを漂わせると、桜は敏感にそれを気取ってやけに明るく返した。

「戦うのです」

「なんだと?」

「戦うのですよ。どちらを向いても進退極まっていることにかわりがないのならば、せめて前を向きましょう」

「前を向いて…しかし、犬死にだ」

「それはわかりませんよ」

「わ、わかるだろう、ふざけるな! ふざけるな…。む、謀反を唆すなど…」

 どうしておのれを含めて四人しかおらぬ狗賓家が、一国の権力を相手取って勝てるというのか。

「捕り方は訪れるでしょうか」

「今日か明日か、いつかはわからんが必ず来る。根も葉もない噂ではない。根の部分、狗賓の始祖が蔵座を建てたことは事実なのだ」

「だから、旦那様を疑って」

「真偽のほどを確かめるには当人に尋ねるのが一番だろう。誰でもそうする」

 そして追捕役がここを訪れた時点で狗賓正十郎の罪業は確定し、その命は刑場の露と消えるのだ。

 一族郎党諸共。

 桜はそっと正十郎の手を取った。

「謀反ではありませぬ」

 百年の汚辱。

「蔵座を本来の形に戻すための戦い、ではありませんか?」

 三光坊に居場所を奪われた狗賓の父祖。

「なにをさせようとしているのだ、桜。いったい何を企んでおる」

「企んでなどおりません。私はただ、旦那様がこの世にお生まれになり、そして蔵座に居続けるわけを、そろそろ明確になさってほしいと思っただけです」

「蔵座にいる理由」

 桜は正十郎を見る。

 正十郎は生ぬるい唾を嚥下し、

「自分が世間からどういわれているのか知っているのか」

 とだけ返した。


 こそこそと。


 情けない男よ。


 地虫。


 血こそ尊いが。


 二本差しが似合わぬことよ。


 あんな者は士卒に非ず。


「はい」

「…そうか」

 狗賓正十郎に対する世間の評価はそうした負の感触を伴ったものばかりである。それを正十郎本人は、世間と関わり合う煩わしさが何より苦手なのだという顔をして今まで聞かぬ振りをしてきた。


 逃避こそ狗賓正十郎のすべてであった。


 それももう限界なのだろう。

 いつかはこんな日が来るかも知れぬと夢想したことがあったが、


 まさか本当に訪れるとは思わなかった。


「自分は情けない男だろうか」

「はい」

「ならばどうして共にいる」

「幸せにしてくださると約束してくれましたから」

「それを今でも信じているというのか」

「いけませんか」

「戦っても死ぬだけだ。万が一どうにかなったとしても得るものなど何もない」

「なにも要りません」

 そう。桜とは昔から無欲な女ではあった。

「ただ私は、少なくとも生きられる可能性に賭けてみたく思います」

「生きたい、のか」

「当然です」

「当然だな」

 潔く死ぬことを一種の美学とする風潮は蔵座にもある。

 桜はやけに澄んだ目で正十郎を見つめている。

 逃げても死、立ち向かっても死、それでも僅かばかりの可能性があるならば。

 その上。

「大義は我にあり、か」

 その事実は今まで正十郎の背骨とならず、重い足枷でしかなかった。

「今まで代々平穏に暮らしてきたのだがな。よりによって自分の代でこのような憂き目に遭うとはな」

「まことに」

 正十郎は我が手に視線を落とし、ごく小さな溜め息を落した。

 何処の誰なのかは知らぬが狗賓の血統をもとに有りもしない噂話をでっち上げた奴がいる。その目的は知れず、また誰であるのかなど調べてどうにかなるものでもないだろう。

 しかし正十郎は漠然と悔しかった。

 対象が明確でないゆえ怒りを像として結べはしないが、感情の燻ぶりは否めない。その明確ではない何者かの鼻を明かすためには、やはり自分が起つしかないのだろうと思っている。

 尤もそれも、何者かの想定内であるのかもしれないが。

「桜、片手で足る郎党を従えて、はたしてどれくらいもつだろうかな」

 冗談めかしていうも、郎党共が自分に従ってくれるとは到底思えなかった。

 正十郎は戸の隙間を見た。

 どの顔も父の代から我が狗賓に随従してくれている馴染みの者たちである。

「どうだろうか」

 はっきりとは尋ねない。

 否、はっきりと、おのれと共に死んでくれとは頼めない。

「逃げてもよいのだ。お前たちだけならばそれほど厳しい追っ手はかかるまい」

 そもそもまだ、追捕役が蔵座城を発向したとの話は耳にしていない。まだ間に合う。

「戦って、万にひとつ生き残ったのだとしても、おそらくその先は何もない」

 正十郎は鼻で笑った。

 ひとり、ふたりと正十郎よりも齢を重ねた郎党たちが部屋へ入ってくる。

「儂らにゃなにがなんだかさっぱりで」

「うむ。自分にもよくわからん」

 どうして自分がこのような憂き目に晒されているのか。

「ただまあ、死ぬ死ぬと。儂ら人間ができてませんで、死ぬのは怖えです」

 死の恐怖を克服することが人として成っているというのなら、正十郎は自分など生涯半人前なのだろうと思っている。

「怖えですが、まあ」

 ほかに何もできんですしと一番老いた郎党頭はどこかはにかむようにいった。ほかに何もできぬから情けない主人と共に死を選ぶということだろうか。その安易さに思わず反論しそうになるも、正十郎は結局郎党らも自分と然して変わらぬことに気づく。

 正十郎自身、逃げる先がなく、避ける知恵もないが故の今であるからだ。

「わかった。礼はいわぬ」

「礼なんてお門違いでやす。思えば運が悪かったのでしょうや」

 決して忠誠心からではないと、郎党は素直に認めた。それでも正十郎にとってはありがたかった。

 生き残られるとは思っていない。死ぬのを少し遅らせられそうだ、と。

「兎も角支度をしよう」

「死出の支度ですかな」

 そう皮肉をいうものではないと正十郎が主人らしい口調で窘めると、郎党ら三人は歯を見せ笑った。


 嗚呼我が身のなんと不甲斐なきことよ。


 狗賓正十郎はこうして周囲に流されるままに主家と戦うことを決めた。


「しかし何からはじめればよいのか…」

 そう呻くように呟いた後、正十郎は板の間にて、胡坐に腕組みの姿勢で固まってしまった。寒気強まる時季にあって大汗を掻いている。矢鱈に粘度の高い汗が次から次へと額やら首筋やら鼻の下やらに浮いて出るも、まるで伝って落ちることがない。

 酷い脂汗である。

 眉間にこそ深い縦皺が彫られているものの目は虚ろであり、時折、唸りなのか呼気なのか喉の奥から妙な音がもれ聞こえる。

 桜は即身成仏したかのような夫を眼前に置き、膝を折り待っている。

 戦うと決めたはいいが、はたして何をどうしたものか。曲がりなりにも軍の末席を汚す身である正十郎にわからないのだから、その妻である桜などには余計にわからない。それでも気端の利く郎党などは家中を引っ掻きまわして武器になりそうな物を見つくろっていたりしたが。

 桜は不図、我がことを考える。

 男はそれでも、戦って傍目に潔死を咲かせた幕引きもできようが、はたして女はどうしたらよいのだろう。

 正十郎にはおくびにも出さないが、実際桜はおのれの死に様を模索していた。

 改めて正十郎を見るも汗みずくの石地蔵からは当然、妙案の出る気配はない。桜はひっそりと鼻から溜め息を抜き、立ち上がった。

 立ち眩みがした。

「旦那様」

 汗が一筋、正十郎の頬を伝った。

 ぱくり、と口が開いた。桜は不謹慎にも好物の味噌汁の実を想起する。

 唇は渇き罅割れ、急に口を開けたものだから端が割れて切れている。咽喉の奥から絞り出した声らしき音は矢鱈にがさがさしていて桜には何ひとつ聞き取れなかった。

「なんと仰られたのですか」

 正十郎も立ち上がった。足が痺れたのだろう二、三足を散らしてやや足を開き気味に直立すると、

「やはりお前だけでも逃げてくれんか」

 といった。

 桜は緩く首を振る。

「私はこの地に残ります。子でもおれば何としてでも逃げねばならぬと思っていたでしょうが」

「兎に角郷里に帰ってだな」

「蒸し返すのですか?」

「いや。うむ。しかしな」

 正十郎は桜の強い視線に耐えられぬように腰に提げた二本差しに目を落とした。祖父から父、そして自分へと受け継がれてきた銘もなき刀である。まだ人を斬ったことはない。自分も父も祖父も、おそらくそれ以前の父祖たちも。

「桜」

「はい」

「残るであれば、うむ。せめて、せめて自分の死に様を見ていてくれないだろうか…ああいや、実際死にたくはないのだが」

 死ぬ。

 死ね。

 死ぬ。

 元来屈暗気質である正十郎にとって妻の叱咤激励は発奮材料に繋がらず、単純に重荷でしかなかった。笑顔で死んでこいといわれているようなものである。実際桜は敏感に、正十郎が自分の言葉を穿った受け取り方をしていることに気づいていたが、敢えてそのことには触れないでいた。無意味であるからだ。

「死に様ですか」

「自分の最期を見届けてくれ」

 正十郎にしても、独りで逝くなど想像しただけで寂寥感に肝が冷える、とはいわない。安くも男児の威厳を保ちたいという欲求がそこにはあった。そんな鼻糞のような威厳とやらがあるが為に、気丈な妻を捨てひとりで遁走できないともいえるが。

「わかりました」

「そしてできれば、お前だけは生き残る道を探して欲しい」

「どのような屈辱を強いられても?」

「屈辱だと?」

 口籠り、そして、それは度合いにもよろうがと呟く。そのようにぐじゃぐじゃと余計な言葉を繋ぐのがよくないのだと、どうしても正十郎という男は学習できない。

「…だからいっている、今のうちに逃げよ」

 桜は緩やかに頬の上辺を引き上げると、

「好きに致します」

 そういった。

 そして薄く開いた障子戸の隙間から中庭を見た。その視線にどういう意味があるのか正十郎にはわからない。否、わかろうと、理解しようとしない。

「私は往生際が悪くて。未だ良策はないものかと思案しております。私の頭の中にはそうした知恵の浮かぶ場所などこれっぽっちもないのですけれど」

「自分の頭の中にもない」

「旦那様。それでしたらあの、残」

 待てと正十郎は右手のひらを桜に向けた。

「あいつか?」

 さすがにそこは素早く察して、正十郎は脳裏に銀髪の男を思い浮かべた。

「あいつは…」

 あの肚に一物持った怪人は、どんな場合に於いても何事か腹案があるような様子に見受けられる。

「知恵はあるように思えます」

「しかし、繋ぎをつけようにも何処にいるかを知らぬ」

 正十郎も隙間から外を見る。

 主家に背くことを思った時、実際最初に思い浮かんだ顔が誰あらん残雪であった。

 頼るのではない、利用するだけだ。などとおのれにいい訳をしてみてもそれは同じことである。


 皓、と山鳥が啼いた。


「まあこちらが探さずとも、あの男は用があれば勝手に」

 などと冗談めかしていうものの、それは正十郎の願望であった。溺れる者は藁をも掴むというが、今の正十郎にはその藁もない。

 狗賓正十郎にとって、自分に寛容なる愛情を以て接する妻も一応の恭順を示す郎党も、今はまだ藁以下であった。


 追捕の手は迫っているのだろうか。

 せめてみっともなくならぬようにしなくてはなるまいと正十郎は思う。尤も、みっともなくあれば助命叶うというのなら誰の足でも舐めようとも思っている。正十郎とは、諾々とであれ、生き続けることに意義があると思っている。

 ならばやはり、逃げるか。

 正十郎は桜を見た。

 桜は桜色の唇の端を左右に引き、


「逃げては確実に追わるる」


 金属質の声。

 不意に後背から聞こえた声に虚を突かれた桜は腰を抜かした。

 正十郎は短く、嗚呼ともらした。影に身をまみれさせた銀髪の男が立っていた。


 残雪。


 桜より上背はあるのに、どうして後ろに立っていたことに気づかなかったのだろう。中腰になっていたものか。否、そんなことはどうでもいいと正十郎は口調だけは荒々しくいった。

「矢張り現れおったか残雪。貴様知恵者であろう、この状況どうにかせいッ」

 残雪は姿勢よく立ち、どこを見ているものか瞼は半分以上閉じられている。

「よもや当家が置かれている状況を知らぬとはいわせん」

 すると残雪は伏し目のまま鷹揚に頷き、無論と短く返し続けて、

「条件がある。この危難を乗り切るにあたり我が提案を退けぬこと」

「条件などと。民間が生意気な」

 正十郎のその言葉に、残雪は音が出るほどの勢いで目を見開いた。

「私が民であろうがどうでもいいことだ」

「なに」

「問われたことのみに答えよ。時間がないのだろう」

 正十郎は桜を見る。これまでずっと重要なことは常に妻に相談し決めていた。

 桜は腰を落としたままの格好で、やや戸惑いがちに頷いて見せた。それを見た正十郎は残雪の喉仏の辺りを見て頷いて見せる。

「契約成立で宜しいな」

「う、うむ」

 残雪は殺した白の外套を翻し、隙間ほど開いていた障子を勢いよく左右に飛ばした。

 白んだ外界。

 赤茶けた道。

 枯れた木々。

 残雪は道を指差し、

「やがてあの道をここへ、蔵座の士卒団がやってくる」

「やはり来るのか」

「ああ。進発を見、私はここへ来た」

 そこへ正十郎がなにかをいい掛けるのへ、

「五人。しかしまずまずの手練であると推察する」

「何故だ」

「士卒をひとり捕縛するのに手間取っていては、国主の権威に関わろう」

「冤罪も甚だしいがな」

「しかし蔵座では実情、国主の意思が法である。その法に照らさば今度の件は冤罪ではない」

「む。御山様が自分の存在を疎ましく思ったから、捕らえよと?」

「そこまでは知らぬ」

 風が吹く。

 乾いて、酷く冷たい蔵座の初冬の山颪。

 残雪とはじめてあった日のことを正十郎は思い出している。

 残雪は短く、とりあえずこの家から出るといって続けて、荷物があるなら早く支度をせよと命令した。正十郎には家財のことはわからず、刀と防寒着さえあれば良かった。

 桜はすっくと立ち上がり、あれほど逃げ出すことを厭うていたわりにはさっさと支度に取り掛かった。正十郎がそんな妻に何かをいい掛けるのを、残雪は熱量のまるでない目線ひとつで制して、

「無法な意思でも通る。蔵座とはそういう国であるということよ」

 とつまらなさそうにいった。

「偶には根拠のある話をせい」

「強ち間違ってもいまい」

 正十郎ごときが突っ込んだところで残雪は揺るぎはしない。

「それで貴様、自分を騙しているのではあるまいな」

 そもそもこのような噂を拡めたのだとていいかけて、さすがに民間の者に城内に噂を拡めるような真似のできようはずもないと正十郎は思い直すこととした。

 とりあえず今は、である。

 残雪は黒目に感情を乗せず、ただ正十郎の汗まみれの顔を見返している。

 無言。

 釣られて正十郎も黙る。


 皓。


 皓、皓。


「ま…まあ、自分などを騙してもなんの得もないだろうがな」

「得はある」

「あ?」

「貴様は本来蔵座を支配する身である」

 正十郎は残雪の薄い唇を見た。

「本来とか申すな。そうしたことを考える者がおるから今回のこの騒ぎが」

「旧支配家の血に生まれたのだ、余計な勘繰りは仕方なしといい加減に諦めるがいい。それよりも狗賓、この国の情勢を理解しているか」

「情勢…とは」

「いいか。内憂外患。この国はな、このままだと中からも外からも腐れ落ちる」

「腐れる…?」

「国主は稚拙だ」

「あ、ああ」

「そして隣国は軍事国家」

 軍神の棲まう国。

「七鍵があるが故、この小さき国は更なる大国にも狙われる」

 堕府。

「堕府が侵攻してくる、とかいう。しかしそのようなこと、にわかには」

 信じられぬ。正十郎は発作的に喉の強い渇きを覚える。

「貴様が信じようと信じまいと、彼の大国が此の小国を狙っているのは事実である」

 目の色から真偽を探ろうにも残雪の瞳孔は色温度の低い部分で安定しており、つまりは正十郎などにはとても読み切れるものではなかった。

「ちょっと待て整理させてくれ」

「今更か」

 そう、今更である。今まで散々整理する時間はあったはずの、今だ。

「今更でもいい。待て。自分を利用して、どうしてこの国の憂いを払拭できる? あ、ああ今はいえんのか」

 すると残雪はふいと目だけで横を見、正十郎がその目線に釣られるのと同時に声をあげた。

「今の国主に蔵座を護る気概はなく、近侍する連中もその点を是正しようとする者はおらぬ。これは何を示していると思う」

 不意に問われ正十郎はそれでも考える振りをして見せた後、結局わからんと答えた。

「蔵座の首脳に堕府か七鍵と通じている者がいるのだ」

「通じてる?」

 といって、やや時間をかけじわじわと残雪の言葉が正十郎の脳髄に染みわたっていく。

「ん? なんだと? まさか、そのような」

「頼益は全幅の信頼を置いている側近から一方的にあがってくる虚偽の報告を鵜呑みに信じている可能性がある。加えて頼益は無類の女好きである。懸念となりそうなこの国の瑕疵があったところで、その夜に抱く女のことを考えたなら忽ちに忘却するほどのな。つまり、国主をおのれの意のままに操ろうと欲さば、国主を適度に禁欲させ、要所で適当な女を宛てがえばよいだけのこと。今のところ頼益が軍部の改変を望んでいないところを勘案するに、その側近は賢く立ち回っているようだな」

 残雪のその言葉の裏には、その程度の賢さなど自分は簡単に看破し、且つ上回っているのだという自信が見え隠れしている。

 残雪には多分奥ゆかしさという美徳は欠如しているのだろうと、正十郎は思う。

「国主を主座から引き摺り下ろすにも、替わりが必要だ」

「替わり、それがまさか自分だと」

「確認しなくてはならない話か」

 残雪の鷹揚な態度にやや慣れつつある正十郎は、残雪に少し身を寄せ改めて問うた。

「御山様の替わりを自分にさせると、貴様はそういっているのだぞ?」

 すると残雪は我が耳を指差した。

「耳触りの問題よ」

「耳障り?」

「主君の代替だ、有り触れた血脈ではつまらなかろう」

「つまらないとかそういう問題ではない」

「狗賓、お前が思う以上に人とは卑俗で下賤なものだ」

「貴様の人間観など知らぬ…」

 もしかすると残雪とは狡猾というよりも、

 正十郎は再び汗を掻く。

 残雪は淑女のような指で、す、と正十郎を指し示した。

「私が欲しいのは狗賓の血よ」

 正十郎は一歩大きく後ずさり、対抗するかのように残雪を指差すと、喉も割れよと大喝した。

「血で、血で政治はできんぞ!」

 残雪はいう。

「政治などお前に望んでおらん」

「ならばなにを」

「蔵座の民を納得させるのに、わかり易い題目が必要なのだ」

 正十郎は軽く顎を落とす。

「それだけ、か」

「それだけだ」

 飽くまで落ち着いている。要は正十郎は、頼益に替わる神輿である。頼益よりも正統な分、或いは民の目には煌びやかに映るのかも知れぬ。

 正十郎は落ち着きのない安堵と予定調和な落胆を胃の腑に落とす。


「狗賓、私はこれでも」

 残雪は今日訪れてはじめて双眸に人間らしい光りを宿し、

「この国を救いに来たのだ」

 はっきりとそういった。


「お話し中すまんけど、荷が整いました」

 残雪は行くぞと短く正十郎を促した。正十郎は一度妻を見、渋々立ち上がった。やがて銀髪の男に先導された狗賓家の面々は村の外れを更に外れ、山道へと入って行く。



 正十郎や、矢鱈に興奮している郎党たちはしかたないとして、比較的落ち着いていると認識していた桜ですら、初見時は尼僧だと思った。

 長年慣れ親しんだ狗賓の家を捨て、辿り着いた簡素な山寺にて出会った小柄な僧侶のことである。

 面相筆でも用いたがごとき細く整った眉、紅を差してもいないのに矢鱈に紅い唇、肌理の細かい白い肌。頭を丸めていても女にしか見えぬ。本当に綺麗な顔をした僧であった。

 名を叢原というらしい。

 桜は極めて純粋に、叢原の見目麗しきに嫉妬した。同時に嫉妬している自分を確認し、ああやはりわたしは落ち着いていると一層の落ち着きを取り戻したものだ。一方の正十郎は、板の間に蓆を敷いただけの急ごしらえの客間に腰を下ろし、忙しなくあたりの様子を窺っていた。痒くもないだろうに掻きむしり続けた首筋は赤切れている。

 残雪は一言暫くはここにいよと言葉を残し何処かへ出かけた切り、もう半日近くも戻ってこない。

 此処が安全であるのかは未だ知れない。

 叢原が手ずから淹れてくれた焙じ茶を飲みながら、仮にここへ逃げ込まず追捕役と一戦交えていたとすれば矢張り犬死にしていたであろうかと、半端な思考の点を額の中心におぼろに結び考えている。

 桜は横座りに流した脚を組み替え、両手で包むようにして持った湯呑茶碗に目を落とした。飾り気のない素焼の湯呑。庵主の趣味であろうか。

「いいいつまで」

「はい?」

「いつまで待たされるのだろうな」

 沈黙を続けることに限界がきたのだろう、苛立たしげに正十郎がそう呟いた。桜はごく短く、ええと応じてまた湯呑に目を戻した。

「まさかあやつ、我らをここへ置いて安心させ、自分が謀反人をひっ捕らえましたと今頃御注進に及んでいるのではあああるまいな」

 多分その手の負の状況は考えれば考えるだけ、真夏の小虫のごとくわいて出るのだ。

 端から噂を端緒にしての逃避行であるし、曖昧に曖昧を重ねて、不安を更なる不安で糊塗しての今である。

 つまりは考えるだけ無駄だ。それを踏まえての決意ではないのか。

 少なくとも桜はそういう肚の括り方をしていた。

「旦那様は残雪を信じたのではないですか」

「誰が信ずるか」

「でしたらどうしてここへ来たのです」

「…そんなものお前、なにかいい案があるのであれば、それは使わねば損であろう」

「それは信じているのとは違いますか」

「信じてはおらん。あんな怪しい者…。だから利用できるのならしてやろうと」

「そんなものですか」

 目の下に濃く隈取りがされていて正十郎は一種凄惨な顔つきであった。発する言葉も最早支離滅裂でくるくる内容が変わる。

 ここへ辿り着いて暫くは、桜もいちいち考えて正十郎の言葉に返事をしていたが、それも今は億劫になっていた。しかし、ついいい加減な返事をすると、

「なんなのだその答えは! 生き死にが掛かっておるのだぞ?」

 怒鳴る。最前よりこれの繰り返しだった。

 さすがの良妻も疲れも手伝って腹立たしさを覚えるというものだ。

 軽快に尻でも引っぱたき、しゃきっとなされませなどと快活にいえたならばどれほど溜飲が下がるものか。

 す、と障子が開き美僧が低頭して現れた。

透かさず正十郎が喰らいつく。

「残雪は? 残雪はまだ戻らんか」

 咳き込むように問う正十郎を微笑で押しやって、女のごとき僧侶は足の裏を床面からほとんど離れさせぬ独特の歩行法で滑るように室の真ん中へと至った。

 今この場にいるのは、桜、正十郎、郎党頭とその妻の四名。

 叢原は若干潤んだ瞳で狗賓家の人々を見、やがてゆっくりと口を開いた。

「御食事の御用意ができました」

 ひとり正十郎のみが声を荒げる。

「飯など喉を通るものか! 残雪を呼んで来い!」

 正直空腹感を覚えていた桜はその言葉には大いに不満だったのだが、とりあえずは何も言葉を挟まず、ただ僧叢原の顔を見た。

 叢原は微かな困惑を片頬の翳りで表わし、

「拙僧も存じ上げないもので」

 とだけ答えた。それでも何事か返そうとする正十郎の肩にそっと手を乗せ、桜は意識して優しく柔らかな口調でいった。

「旦那様。旦那様も私も、家の者も皆昨日から満足に食事を摂っておりません。折角御用意なすって下すったのですから」

 蕩けるように甘い声であったが、正十郎の肩に桜の爪が軽く喰い込んでいる。痛みを与えることで、判れと訴えている。その握力に対し口中なにかを呟きつつ正十郎は小刻みに頷いて見せた。

 腹が膨れれば少しは落ち着こう。そう桜は思っている。貧国蔵座の貧しい山寺で供される午餐に寄せる期待などないが、それでも気分転換ぐらいにはなるだろう。

 よろよろと歩く正十郎を支えるように斜め後ろに立ち、まるで介添えでもするように桜が続く。よほど桜のほうがしっかりとしている。そしてそんなことは狗賓家では暗黙の了解事項であった。

 桜の後ろを守るように郎党頭が続く。他の者も三々五々現われて、結局狗賓家一同ぞろぞろと縦に連なって歩いた。これでは施しを受ける流民である。

 庫裏に沿うように歩き、叢原が食堂と呼ぶ離れの小屋へと一団は入った。


 残雪がいた。


 正十郎は撥ね飛ぶような突発的な動きで残雪に駆け寄り、大方の予想通りその薄い胸倉をつかんだ。

「貴様はァ!」

 などと一見力強そうに大声を発しているものの、実際桜には正十郎のその姿は残雪に縋っているようにしか見えない。とはいえ桜にしても残雪の姿を見、どこか肩の荷が下りたような気になったのも偽らざるところではある。善しにつけ悪しきにつけ、残雪には他を引き摺るなにかがあるようだ。桜としてはその何かがなんであるのか、良か不良かを早急に見極めたいところである。

 それでも結局、泰然とした態度の怪人が気に入らなくて、声を投げた。

「申し訳ありません、残雪さん。これから御食事ですのよ」

「なにをいっているのだ、桜。こいつには訊かねばならぬことが山のようにあるだろう、飯など食うてる暇はない」

 どうしてこの男は自分のことですぐ頭が一杯になってしまうのか。少しでもいい、ほんの少しでもいいから共に生きる者のことを考えてほしい。桜は一度瞑目し、ごく小さな溜め息を落とした。

 残雪は正十郎に揺さぶられるまま、それでも色素のない目だけは情けない良血の末裔を見据えている。

「残雪、残雪よぅ。お願いだから、こんなところまで連れてきたのだからよぅ」

 まさか泣いているわけではあるまいと、桜はするすると我が主人の顔を窺うため移動した。


 正十郎は泣いていた。


 目を真っ赤に腫らし、あまつさえ鼻水まで垂らして。

「頼む。頼むから助けてくれ! 自分はまだ死にたくはないのだ!」

 結局そういうことか。流れのまま生き、降ってわいた危地に立ち向かうこともせず、かといって覚悟もせず。

「まるで間違っている」

 その残雪のよく通る声は誰に向けられたものか。正十郎は勿論、桜も郎党も皆きょとんとしている。

 残雪は桜を見、言葉を重ねた。

「聞こえなかったか」

 聞こえなかったわけではない。桜にはその言葉が自分に向けられたものだとは思わなかっただけだ。

 正十郎はゆっくりと手を離した。

 桜は一歩前へ出、問う。

「どういうことでしょう」

 なにが間違えていると仰るのですと、桜は必要以上に毅然とした態度を整えて残雪と正対した。

「だいたいわたくしは」

 あの時はなにも言葉を発していない。覚りの怪でもあるまいに、他人の胸のうちがわかる道理がない。

「継続のみを是としてこれまでを生きてきた者に死を決心せしめることも又、諍いを避けることこそ至高としてきた者に戦いを嗾けることも、間違っているといっている」

 心を。

「貴方は心を読むのですか」

 残雪はその問いは無視し、

「戦いを厭うことがそれほど気に入らんか」

「そ、そんなこと、わたくしは一言も」

「追い立てられ立ち向かわぬは、悪か」

「ですから」

「答えよ」

「い、今は喫緊時。そんな悠長なことはいっていられませぬ」

「そんな答えは要らん」

「何なのです、打って変わったその傲慢な態度は!」

「本性を隠していたのはお互い様だろう。なかなか好戦的な女ではないか」

「ぶ、無礼な」

「礼儀が必要な場所でもあるまい」

「わ、わたくしは好戦的なわけではありません。しかし今の状況を考えた時、狗賓の血を少しでも輝かしいものとするには、いえ、汚さぬためには」

「くだらん」

「え?」

「貴様はなにも考えない方がいい」

「な…」

「例えばもし蔵座から遣わされてきた追捕役と一戦交えて、いったい狗賓に何の得があるという」

「他国に逃亡するよりも蔵座での死を選ぶことの、いったいどこに疾しいところがあるというのです」

「訊いているのは私だ」

「尋ねているのはわたくしです」

「狗賓家すべて死して後、蔵座の上層はおのれらに都合のいい話しか語らぬ。或いは有りもしない話を捏造もしよう。狗賓を礼賛する話など後世には一切残らん」

「それは」

「当然理解していたな。誰でも想像のつく展開だ。どうして戦えなどといった」

「理解など、しておりませんっ」

「答えよ」

「わかりません」

「本当にわからんのだな」

「はい…」

「ならば余計な口を出さぬことだ」

「わ、わたくしは狗賓の嫁です!」

「その名乗りは無事生き残ってからにしろ。兎に角今は私の邪魔をするな」

「貴方のいうことを聞いておれば生き残れると、絶対大丈夫だと、そう仰るのですね」

「絶対など、稚拙な」

「先行きの保障を得ようとすることの、何がいけないとうのです」

「先行きが気になるのなら少しは具体策でも問うたらどうなのだ」

「尋ねれば答えるとでも」

 残雪は桜の問いに頷くでもなく、呆け面で成り行きを見ていた正十郎に顔を向けた。

「狗賓、この寺を根拠地としてこの先進めていく。今から貴様はこの寺の主だ」

 いつの間にか食堂に入ってきていた叢原が正十郎に向って目礼する。

「その前に最終確認だ、私に従うのならばここに居よ」

 正十郎はまばらに髭の生えた汚い顎を撫でながら、悩む振りをして見せる。中途で会話から放りだされた桜は、先ほどまでの興奮を鎮めようと深い呼吸を繰り返していた。


 正十郎は掠れて痰の絡まった声で小さく、わかったといった。

「いい答えだ」

 残雪は表情を変えず、それでも声は満足そうにそういった。


 桜は見切る。残雪のような男といい争っても無駄なのだ。なにをいおうが、どう答えようが多分、残雪の都合のいいように事は運んでいく。感情に乗せられ言葉を重ねたならば揚げ足を取られ、いいようにあしらわれるだけだろう。

 かといってだんまりを決め込むのも性に合わぬ。

 つくづく付き合いにくい男だと桜は珍しく顔を顰めた。


 矢庭に残雪の講義が始まった。

 食堂の板壁に白布を張り、その上に簡単な日輪の版図を書き込んでいく。筆は淀みなく動き、且つ文字は秀麗であった。

 正十郎はどう思っているものかと、桜はそっと横に座る主人の顔を盗み見た。

 目が血走っていた。顔全体がてらてらと光り、まるで油壺に首を突っ込んだような案配であった。血走った両の眼を以て、正十郎は徒に白布を凝視している。

 粗方書き出し終わったのだろう、残雪は筆をしまい正十郎らのほうへ向き直った。

「さて。この図にある日輪全土を人の身体と見立てよ。その身体の腰と腹のその中心辺りに位置する蔵座である。現在はいわずもがな今は頼益のものだ」

「頼益など呼び捨てになさっては…」

 いい掛けて、その国主に盾突こうとしているのだからそんなことを気にする必要もないのだと、桜は浮かせかけた腰を元に戻す。

「さて、狗賓。国主に歯向かう以上、その先にあるのは今の頼益の位置である」

「い、生き残ればな」

「生き残る術は私が持っている」

「あ、ああ」

「頼益の位置に行くに十分な素養を貴様は持ち合わせている」

「血か…」

「それ以外にあるか。狗賓家十三代当主。三光坊などより格は上である。それは記録が証明している、揺るがぬ事実だ」


「既に事ははじまっている」


 狭い村だ、一家揃って何処ぞへ出奔したことなど既に村落の隅々まで広まっていよう。


 正十郎はぼんやりと二本松家の蒟蒻の味を思い出していた。


 後戻りはできませんものねと桜が独りごとのようにいい、正十郎が大きな溜め息を落とした。残雪は僅かにも表情を変えず、淡々と続けた。

「狗賓の血は衆愚を納得させ得る大義名分としては申し分ない。蔵座の頂点から頼益を引き摺り下ろすために必要な要素だ」

「引き摺り下ろしてどうする、否どうしたいのだ」

 そこまでいう必要はあるまいと残雪は吐息と共に呟いた。

「必要なくはないだろう、自分には聞く権利があると思うが」

 すると残雪は、相変わらず平坦な口調ながら極めて微かな怒気を孕ませて、

「お前に権利などあるわけなかろう」

 そういい切った。当然正十郎は何故だ、どうしてだと喰い下がる。

「お前は蔵座から追っ手のかからぬ身になりたい、それを叶えるかわりに私は狗賓の血を利用する。それだけの関係だ。私が蔵座をどうしたいかなど今のお前に聞かせてどうなるという」

「しかし」

「今は兎に角、目の前の難局を乗り切ることに神経を集中させるが賢明だと思うが」

 残雪は細めた目を横に流した。

 食堂の入口、小柄な僧侶の背後にふたつの人影があった。

 そのふたりを、正十郎は見知っている。

 ひとりは確か東館に詰めるイフクベとかいう初老の士。今ひとりは、

 正十郎はよろけるように前へ出、

「道了尊…先生、でしたか」

 掠れた声を発した。

「残雪、これはいったい」

 伊福部福四郎しかり、道了尊しかり、蔵座に仕官する者らである。

 残雪は幾分満足そうに眉間の皺を緩め、

「揃ったな」

 といった。

 正十郎は慄然とした表情で言葉も発せずにいる。桜も郎党らにしてもそれは大差なく、矢継ぎ早に変化する周囲の状況にまるでついていけない様子であった。

 道了尊は背に、伊福部は腰に、得物を携えている。しかし正十郎は最早疲弊し果て、明らかに蔵座側に与するふたりに対して警戒することを失念していた。

 喚き散らすよりはいいと桜は横で思う。

 それにしても残雪は、いったい何を考えているものか。

「さて。徒に攪乱させるつもりはない。説明しよう」

 桜の目線の意図を瞬時に汲み取って、残雪はそういった。桜は正十郎の胡乱な意識を喚起させるべくわざと大きく咳払いして、伺いましょうと返した。

「狗賓は知っていようが、こちらが伊福部福四郎」

 初老の男は若干猫背気味だった身体をまっすぐに伸ばし、慇懃に礼をした。

 彼は東の館の、実質管理者であると残雪は補足する。桜は思わず嘆息をもらす。西の館と東の館の噂話に心奪われていた日々が随分遠い出来事に感じられたからだ。

 桜は伊福部の引き結ばれた口の端を見た。

「そして現蔵座国兵法指南役である道了尊」

 襤褸襤褸の黒衣に身を包んだ男は、背に負った長大な武器を割合粗末に床に置き、枯れた声でよろしくやってくれと片手を挙げた。

 蓬髪に青黒い顔、鉤鼻と顎髭。

 正十郎とはまるで違う種類の男。桜は暫時道了尊に見とれた。どことなく、気のせいだろうが、道了尊の端々にこの場に似つかわしくない空気感を感じつつ。

 正十郎は小刻みに震える手で、

「道了尊先生」

 声が上擦っている。緊張の連続と疲労とが平素他人との関わりを厭う正十郎の人格をやや上向きに変える。

「先生確か、銭神の手を」

 切られたよなと、それだけいうのに玉の汗である。少し休ませた方がいいのだろうが、自分のいうことなど聞くまいと桜は思う。それよりもこのまま限界まで疲弊させ、昏倒させるが得策だろうか。

 桜は不図視線を感じて正十郎から残雪に目を向けると、残雪が桜を見ていた。

 残雪はゆっくりと一度瞬きをした。

「あれには心底魂消た」

 などと繋げる正十郎だが、呂律が回っていない。

「その話はそれがしも聞き及んでおる」

 とは伊福部。

 道了尊は、おのれに侮蔑の視線(そのように桜には見える)を送る伊福部の前へ大股一歩で出ると、あの時はああするしかなかったのだと斜に構えて答えた。

 伊福部が受ける。

「しかし、なにも斬らずとも。たとえ太刀を手に群衆に向け転んだとて、皆よけていたかも知れぬ」

「いやさ。その判断の遅さが命取りになる場合もある」

 その経緯を正十郎から聞いていた桜には、ふたりのいい分はそれぞれ半分ほど理解できた。そしてこの話は、今の狗賓家にそのまま置き換えて考えることが出来る。


 剣技披露の場で、太刀を手に身体の制御が利かなくなった男。


 噂を端緒として追い詰められた、本来の蔵座支配家とその家族。


 ただ遣り過ごせば何事も起こらなかったやも知れず、放っておけば取り返しのつかぬことになるやも知れず。

 やはり狗賓としては、みっともなく生き恥を曝すよりも、潔く死を選ぶべきなのではないだろうか。


 残雪の切れ長の眼が桜を再度捉える。

 口だけが動く。


 愚か者め。


「銭神は死んでないそうだな」

 桜を見たまま、残雪は道了尊にそう声を投げた。

「ふん。知らん」

「事実がどこにあるにせよ、みだりに人を死なせてはいずれおのれの首を絞めることにもなろう」

 道了尊はどかりと腰を下ろした。

 伊福部は一歩、後ろへ下がった。

 道了尊はいい加減な胡坐を掻いて、大袈裟な身振り手振りで言葉をつなげた。

「あんまり知った風な口を利くもんじゃあないぜ」

「知った風な、ではない」

 すると道了尊はまた立ち上がり、残雪に歩み寄った。そこでやっと残雪は桜から目線を外し道了尊と対峙した。

「知った風じゃねえか。あんまり偉そうにするんじゃない、俺はあんたに使われているわけじゃないんだ」

 そうだなと珍しく簡単に折れて、今度は残雪が半歩道了尊に近づいた。

 面と面が数寸の間で向き合う。

 黒い男と白い男。

 その対比は実に鮮やかで、女である桜は無闇に脈拍が速くなった。

「その通りだ。しかし道了尊、私はお前のことならなんでも知っている。生まれから育ちから、兵法の腕前もだ」

 ふいと黒い男は身体を斜めに、残雪の正面から抜け出た。相変わらず大袈裟に両手を広げて、わかったわかったと繰り返した。

「わかったがあんまりべらべら喋るんじゃないって。あんた口は達者だが腕っ節はまるでないだろう」

 残雪はそうだなと素直に認める。

「俺だって人間だ、何もかもどうでもよくなることもあるんだぜ」

「覚えておこう」

 道了尊と残雪はどういった内容の取引をしたのだろう。桜はそれが気になったが、当然尋ねられるものではない。

 残雪は革靴でごつごつと木の床を踏み、さてここに集まった者らで蔵座を陥とすわけだがと、実に聞き取り易い速度と音量とで、とても大きなことをさらりといった。

「待て」

 伊福部が声を挟む。どうやら残雪の思惑の全容を知っているわけではないようだ。

「この寡勢で何ができる」

 東館の女主人は今、人事不省に陥っているのだという。何でもヒトならぬモノを目撃したとかしないとか。

 伊福部は何を思って、なにを望んでここにいるのか。

 家の盛衰、おのれの命脈を掛けた状況にあって尚、桜の興味は尽きない。

「兵が足りんか」

「と、当然だろう。蔵座は小国といえど兵百人は動員できるのだぞ」

「もとより数量に恃んで事を成すつもりはない。だいいち、蔵座に対抗できる頭数を揃えようとしたならば、人数が集まる前に蔵座が滅びよう」

「残雪殿の策は詳しく知らんが、もののふたる者、城を奪うにしても正面切って戦いたいものよ」

「一拍だけ考えろ。それでもわからんのであればもう口は挟むな」

「なんだその傲慢な口の利きようは! 貴様民間だろう!」

「不遜か」

「当然だろう」

「これから国主に歯向かおうとしている者とも思えぬ言葉だが。まあいい」

 なにかを見切ったように残雪は有象無象の中央に立ち、

「よいか。城は奪うが、私は戦をするつもりはない」

 大声ではないがはっきりとそう宣言した。

「それではどうやって国主を今の座から引き摺り下ろすのだ」

 当然の問いを伊福部は発する。

 残雪は正十郎を指差して、

「蔵座国建国の血脈」

 続いて質問者伊福部を見、

「国政の中枢に近く」

 最後に道了尊の頬に触れ、

「国主に近寄れる身」

 道了尊はその手を、嫌悪感をあらわにした顔つきで乱暴に払った。残雪は僅かとも気にせず続ける。

「その重要な点を繋ぐのは私だ」

 すぐさま伊福部が反駁した。

「せ、拙者は蔵座の中枢に近くなどない」

 残雪は女のような手を黒革の穿きものの隠しに突っ込み、

「蔵座の上層に兄がいるではないか」

 伊福部の顔色が変わる。残雪を凝視する双眼は暗に、何故それを知っているといっているようだ。

「精々利用させてもらおう」

 肩を落とし残雪を睨みつける伊福部に、桜は同情を禁じ得ない。いったい伊福部はどのように残雪と知り合ったのだろうか。おそらく我が家のように、隙に付け入られいつの間にか内部に喰い込まれていたのではないだろうか。

 黙ってしまった伊福部のかわりに、道了尊が億劫そうに声を出した。

「本当にうまくいくんだろうな」

「諸国を巡って、どれほど蔵座が危険な状態であるか思い知ったのだろう」

「ああ、だからこうして帰ってきた」

 道了尊は蔵座の生まれなのだろうか。

 しかしいったいどのように生国の憂いを払拭するつもりなのか。

「…」

 道了尊には何か特別な力でも備わっているのだろうか。桜は薄汚れていながらもどこか気品を感じさせるその横顔に見入る。

 残雪はすべてを承知しているのだろう。

 桜は実際問いを発する時機を計っている。

 伊福部が不意に咳き込み、仕草のみで叢原に茶を一杯所望した。

 桜は口を開い

「貴様らは余計なことは考えるな」

 残雪がそう声を発した。

 桜は口を開けたまま、直立している白面の男を睨みつけた。と、彼女同様、残雪を睨みつけている者がある。伊福部だ。恐らく伊福部にも伊福部なりの思いがあってのこの状況なのだろうが、本心は残雪のような男に従うことが不本意極まりないのだろう。


 実際伊福部福四郎は、桜が類推するよう、奥歯を噛み締め、最早痛みすら伴っている憤怒に身を焦がしつつ、どうしてこうなってしまったのかを反芻していた。

 伊福部の心情として、国主頼益は許せるものではない。

 伊福部は東館の女主人鈴蘭に対して一方ならぬ思い入れをしていた。それを恋愛感情と呼ぶのか、老いた脳髄でそれについて熟考したことはない。

 鈴蘭は国主に気に入られることを自分の生きる意味としているような女であった。伊福部の感触としてそれは愛情ではないと思っている。

 兎も角。

 伊福部の気持ちは鈴蘭へ、鈴蘭の気持ちは頼益へ、そして頼益の気持ちは今もおそらく西の女に向いている。

 伊福部は苦悶の挙句、頃合いよく蔵座を訪れていた残雪を頼った。何故頼ろうと思ったのか、そもそも知り合ったきっかけは何だったか、今はもう思い出せない。それはどうやら老齢のせいばかりではない。

 残雪は伊福部の依頼を快諾し、すぐに東の館に出入りするようになった。東の気持ちを決定的に頼益から切るために、残雪は先ず、一向に東の館を訪れなくなった頼益の顔を一度だけこちらに向けさせる必要があると説いた。顔を向けさせ、頼益と鈴蘭、双方しっかりと面と面とを向かい合わせた状態で、決定的な乖離の環境を作出するのだと。鈴蘭に対し、言葉でいってわかるものではないのであれば、身をもってわからせればよいのだと。 

 結果頼益は館を訪れそして、


 鈴蘭から逃げ出した。


 伊福部はその日の出来事の顛末を詳しくは知らぬ。館にこそ居たが、気持ちは千々に乱れ、耐え難い苦痛に何度も拳で我が太股を打ち据えていたからだ。

 そしてその日以降、鈴蘭とまともな会話が交わせなくなってしまった。鈴蘭はすっかり気が触れてしまった。どうやら伊福部の思ってた以上に鈴蘭は自分で自分を追い込んでいたようだった。

 それを思うと老僕の胸は酷く痛む。

「姫はあのままなのだろうか」

「知らん」

「もし姫があのままであるならば、晴れて事成って後、拙者は貴様を斬る!」

 伊福部の黒々とした剣幕にやや身を退いていた道了尊も即座に同意する。

「しくじれば余計に細切れにしてやる」

 それではどのみち残雪はすべてが終わってから殺されるということになる。

 桜は残雪を見た。

「好きにしろ」

 残雪は顔色ひとつ変えない。もしかすると表情筋がないのかも知れぬと桜は思う。

 桜は襟元を正し、座相を整えた。その行為に意味を与えるとするならば矢張り、伊福部や道了尊と並び、この場に集められた狗賓家の、自分は代表なのだという意識が芽生えはじめているといったところだろうか。

「わたくしもそれに賛同します」

 正十郎は虚ろな目で我が妻を見た。


 残雪は再び座の真ん前に立ち、両足を肩幅に広げ両手を軽く持ち上げ、笑いもせず怒りもせず、三者意見が揃ったななどといった。

 す、と右手のひらを自らの薄い胸に当て、

「頼益を引き摺り下ろした暁には、この命いつでもくれてやろう」

 伊福部は唸り、道了尊は笑った。

 正十郎は洟を啜り、桜は最早乱れていない居住まいを正した。

「本当に斬るぞ」

「くどい」

「くどい? 本気だぞ」

「同じことを繰り返すな。低能と判じられても構わんのなら別だが」

「好き勝手いいやがる…」

 残雪は静かに鼻から息を吸い込むと、軽く肩を張り、そのかわりと呟いた。

「それまでは私のいう通りに動いてもらう」


 良いな。


 否を述べる者はいなかった。


 ふらりと正十郎が立ち上がり、無銘だが悪いものじゃないと前置きしておのれの腰に差した脇差を残雪に差し出した。

「これを」

「要らぬ」

「いや、持っていろ。取引の証しだと思えばいい」

「後悔するなよ」

 ばさりと外套を翻し、気を緩めればすぐに死ぬぞと言葉を結んで残雪は食堂を立ち去った。

 伊福部は先の言葉をどの程度本気で吐いたのだろう。

 道了尊はどうだ。

 おのれはどうだったろうか。桜は口元を押さえた。残雪が消え去ると同時に熱に浮かされたような高揚感が沈静化していることに気づく。

 正十郎の背に手で触れ、

「狗賓家の総代は旦那様ですものね」

 といった。

 正十郎は奇妙な顔をし、当然だと返した。

 そして賢妻は思う。自分は本当に、事後残雪を殺すことに加担するのだろうかと。

 我々の一時の感情の高ぶりを、残雪は巧みに利用したのではないだろうか。底知れぬ自分の企てにそれぞれを従順に従わせるため、互いが互いの前で応と返答させる必要があったのではないか。だから残雪は我々の心を煽り、目的をぼやかし、当面の協力を口約させたのではなかろうか。


 気づけば道了尊も山椒の実でも噛み潰したような顔をしていた。


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