映画館
「今度の休み、みんなで映画いかね?」
龍が俺の机の上に映画のチケットを並べた。
「これ、どうしたんだ?」
隼人が尋ねる。
「俺の母さんがくれた」
「それは悪いよ」
俺も裕司と同意見だった。
「いや、気にしなくていいよ。どっかの店のポイントが貯まってたらしくて、有効期限がもうすぐだったらしいんだけど、ほしいものがないからチケットに交換しただけって言ってたし。それに母さん興味ない映画だからって押し付けられただけだから」
そういうことなら、とひとりずつチケットを受け取る。
龍はサンキューと笑顔で言った。
「今度の休み、友達と映画行ってくる」
「あら、珍しい。別にいいよ」
母さんが夕飯を並べる。今晩は肉じゃがだ。
父さんが新聞から目線をこちらに向ける。
「なに?」
「……いや」
そう言って、目線を新聞に戻した。
「友達ができて良かったって思っているのよ、父さんは」
全く、不器用なんだから、と母さんが呟く。
「そうなの?」
「友達はできた方がいいだろ。大事にしろよ」
「そんなの言われなくたって分かってるよ」
「それもそうだな」
会話の間もずっと新聞を読んでいた。
「ほら、夕飯食べるよ」
母さんがそう言うと、父さんはやっと新聞を畳んだ。
「咲、ご飯食べたらお風呂入りなさい」
「はーい」
食器を片して風呂場に行く。
「母さん、咲にはあのこと話したのか?」
「今日話そうと思ったんだけど、あんなに楽しそうな顔見たの久しぶりだったから」
「そうか」
そう言うと、再び新聞を広げた。