裕司の兄
「咲!もう並んでる!早く行こうぜ!」
玉入れは体育祭の第一種目で、入場行進が終わったら即座に並ばないと全体の進行が遅れてしまう。入場行進でヘロヘロのなか、みんな急いで列になる。
「咲!龍!」
声の方を見ると隼人たちが手を振っていた。
がんばれよーと裕司が言った。
俺と龍はグーサインとガッツポーズで返事をした。
赤組入場します、アナウンスとピストルが響き渡った。
ビーズの入ったお手玉ボールは柔らかかったが、大量に頭に当たると結構痛かった。こんな大人数の
競技だといつもの俺なら省エネモードでそこそこ頑張って終わるのに、柄にもなく全力で挑んでしまった。
「裕司!」
昼休みに入り、裕司たちと合流すると、背後から男の声がした。
振り返ると三年生が二人こっちに向かってくる。
「兄さん」
「箸、家に忘れただろ」
「あ、ごめん」
「裕司のお兄さん、ちわっす」
龍が挨拶する。
「こんにちは、裕司の友達?」
「はい!神崎龍って言います!」
龍に続いて、隼人と俺も挨拶する。
「俺は本庄拓斗。これからも裕司をよろしくな。こっちは俺の友達の井上裕介」
笑った顔が裕司とそっくりだった。
井上さんはよろしくと挨拶する。
「兄さんいいからそういうの」
裕司が恥ずかしそうにする。
「なんだよ、せっかく箸を届けてやったのにその言い方はないだろ」
「それとこれとは別だろ」
友人としての裕司は知っていたが、弟としての裕司は見ていて新鮮だった。
「咲、あのこと聞いてみたら?」
隼人が俺に耳打ちする。
「あの、拓斗先輩、早田霧人って人知ってますか?」
「ハヤタキリト……いや、知らないな。祐介は?」
「俺も知らない」
「もしかしたら、違うクラスかも。三年生って九組あるから、知らない人も結構多いんだ」
「そうですか、ありがとうございます」
それぞれ自分たちの教室に向かおうとしたところ、咲?と先輩たちの後ろから懐かしい声がした。
「……翔太」
そこには井上翔太がいた。