担任の先生
「どうだった?」
軽風が頬を撫でる。
「まあまあ楽しかったよ。同級生と話すのは久々だったから。案外悪くないかもな」
「なんだよそれ、素直じゃねーな。友達は大事にしろよ」
「そんなの、言われなくてもわかってるよ。先輩こそ友達ちゃんといるの?ずっと屋上にいるじゃん」
今まで屋上で先輩が誰かといるところを見たかとがなかった。
「俺は誰かさんと違ってちゃんと友達いたし、行事も楽しんだよ」
先輩の言葉は優越感に染まっていた。
「誰かさんって、あ、そういえば先輩この屋上に———」
ギィ
音の方を振り返る。
「坂口、こんなところにいたのか」
担任の後藤だった。
「坂口、いつもここに来てるのか?」
後藤博人(ごとう師。
この学校の卒業生で、就任五年目だ。学生の時はサッカー部に所属しており、今でも昼休みに生徒に交じってサッカーするくらいうまい。
「はい、まあよく来ます。空が好きなので」
転校初日からほぼ毎日来ているとはさすがにいえなかったので、適当にごまかしておく。
「確かに外は気持ちがいいな」
後藤が背伸びをする。
「俺に何か用ですか?」
「後藤の体操服、届いたから放課後までに職員室にとりくるよーに」
そういえば、体操服は間に合わないからって母さんが言ってたな。
「わかりました、ありがとうございます」
「いいよ。それよりクラスメイトとは馴染めたか?」
「昨日、龍たちと話しました」
「龍たちか。龍は壁がないっていうか気さくで話しやすいよな」
「少し強引なところもありますけどね」
俺の体育祭の出場種目も龍が決めたといっても過言ではない。
「まあそこは大人な坂口がうまく対応してくれ」
「大人って龍と俺、同級生ですよ?」
「坂口は高校生って感じがしないんだよな」
「……?」
「普通の高校生よりも考える機会が多かったんだろうなって感じ」
昼休み終わり十分前のチャイムが鳴った。
後藤が慌てて腕時計を確認する。
「じゃ、そういうことだから。体操服忘れるなよ。あと、よかったら龍たち以外にも話しかけてみてくれ。みんな坂口と話したいって言ってたぞ」
わかりました、と返事をする前に颯爽と出ていった。
次は確か移動教室だった気がする。
「先輩、俺も戻りますね。先輩も一緒に戻りま———」
しょう、とグラウンドの方を向くが、そこには誰もいなかった。