屋上の先客2
あれから、俺は毎日屋上に行くようになった。
先輩は転校生の俺にも普通に話してくれるからそれがうれしかった。
「でも、この時期に転校ってサクも大変だな」
今は六月、入学してまだ二カ月しかたっていない。
「俺んち親の仕事柄、転校することが多くてもう慣れちゃいました」
「そっか。慣れちゃったか」
屋上は日差しが柔らかく照らしていて風が心地いい。
弁当の卵焼きがほんのり甘く出汁がきいて美味しい。
「そういえばサクはいつもここに来てるけど、友達はいないの?」
「っ、ゲホゲホ!」
予想外の質問に盛大にむせた。
「ともだち?」
「え、ごめん冗談のつもりだったけど図星だった?」
先輩が笑いながら聞く。
「べ、別にいないわけじゃないです。作ろうと思えば作れます」
「それいないってことじゃん。何で作らないの?」
「なんでって、別にいなくても困らないから」
「困らないんだ」
「困りませんよ。別に」
先輩がふーんと言うと二人の間に沈黙が流れた。
「それより先輩こそ友達いないんですか。ここいつも先輩しかいないじゃないですか」
「俺は誰かさんとは違ってちゃんと友達いるし、青春したもんね」
先輩は相変わらずグラウンドを眺めていた。
グラウンドでは今日も学生と先生が一人混じってサッカーをしていた。
「先輩っていつもグラウンドを見てますけどサッカー部とかだったんですか?」
「いや、俺じゃなくて親友がそうだったんだ。俺も昼休みにああやって一緒にプレーしてて、めちゃくちゃ楽しかった」
懐かしむように笑みを浮かべる。
「先輩の青春はサッカーだったんですね」
「……」
「先輩?」
「いや、そうかもな、サクもきちんと青春しなよ。青春はひとりじゃできないから。それに五月はうってつけのイベントがあるから頑張れよ」