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選ぶ  作者: 雨宮朋夜
14/14

霧人の過去

 ———七年前

「ヒロ!」

「キリト」

 その日はいつもと変わらない日だった。

「帰ろうぜ」

 キリトが早く早くと急かす。

「分かったからちょっと待てよ」

 机に散乱していた教科書を鞄に詰め込み、抽斗に入っているプリントを取り出す。

「ヒロは進路決まった?」

 プリントを見ながらキリトが言った。

「いや、まだかな。キリトは?」

「俺は教師かな」

「初耳、いつから?」

「考えはじめたのは最近かな。学校ってさ、人生の岐路だろ?今の俺たちが考えてるのもそうだけど、人の将来に関わる仕事ってかっこいいなって。あと、学生にとって学校は家の次に長くいる場所だろ?だから少しでも心地いい場所にしたい。それで救われる人もいるからな」

 いつもバカばっかりやっている友人が大人びて見えた。

 それに比べ、俺は何もなく少しばかりの劣等感があった。

「……おまえって、ちゃんと考えてるんだな」

「まあな」

 ニシシ、とキリトが笑う。

 その頬にはひっかき傷があった。

「親には話したのか?」

「んーん。でも俺のことなんて興味ないだろうから」

 少しばかりの劣等感が俺を突き動かした。

「でも、将来のことだから話した方がいいよ。お金のこともあるだろうし」

「だよなー、あー、んー、でも話したくないんだよなー」

「先延ばしにしても仕方ないだろ」

「やっぱ、そうだよな。よっしゃ!頑張って親に言ってみる」

 太陽のような笑顔で俺に言った。

 がんばれ、とエールを送ったが小さな罪悪感には気づかないふりをした。


 次の日、キリトは学校に来なかった。

 昼休みにメールをしても、電話をしても音沙汰なかった。

 二日後、就任一年目の担任の先生から、キリトが死んだことを告げられた。

 自宅の階段から落ちて頭を強く打ち、亡くなったそうだ。

 先生は終始泣きながら事の顛末を述べていた。



「キリト……なのか?」

「なんだよ、たった五年で親友の顔忘れちまったのか?」

 先生の表情とは対照的に先輩は太陽のような笑顔だった。

「ヒロ、元気にしてたか?」

「……」

「教師、楽しいか?相変わらずサッカーうまいよな」

「……」

「それとも、つらいか?」

「……ごめん」

 先生の瞳から堰を切ったように涙が溢れてくる。

「キリト、本当にごめん、俺があのとき話し合えなんて言ったから」

「ちげーよ、ばーか」

 先輩の髪が風に靡く。

「確かにあのとき話し合えって言ったのはヒロだけど、最終的に決めたのは俺だから。それに、ヒロが俺と同じ道を進んでくれたのは嬉しかった」

 先輩が先生を一瞥する。

教師(これ)はキリトみたいにきれいな理由じゃない。ただの、罪悪感と罪滅ぼしでなっただけ」

「それでも、ヒロはその道を選択しただろ?」

「……ああ、選んだよ」

 先生が真っすぐと親友を見る。

「ありがとう。ヒロが親友でよかったよ」

 相変わらずの笑顔で答えると、昼休みが終わるチャイムが鳴った。



 人はそれぞれ、人生がある。

 自分の力ではどうにもならないことがあるかもしれない。

 そう決めざるを得ないことがあるかもしれない。

 諦めなければいけないときがあるかもしれない。

 八方塞がりの時があるかもしれない。

 それでも、辛くて俯きそうになりそうなときほど、顔を上げて深呼吸をしようと思う。

 綺麗な空気を逃してしまわないように。



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