屋上の先客1
カラスが死んでいた。
目の前に黒い物体があった。
こんな道路のど真ん中に。
普通だったら車が来る前に飛び立つことが多そうだが、羽でもケガしていたのだろうか。
眼は最大限に見開いていて、漆黒の羽で自分の身体を隠していた。
転校初日からこんなものを見るなんて、後先不安しかない。
教室に入り自己紹介を終え愛想よく笑う。
どこから来たの?
どうして転校したの?
いつもの質問攻めにあい、模範解答で答えていく。
昼休みに入るといつものように周りに人だかりができてくる。動物園の動物ってこんな気持ちなんだろうか、適当に言い分けをして教室を後にした。
廊下に出ると冷えた空気が足元を包んだ。
階段を上へ上へと登り扉の前まで歩き、ドアノブを握る。その冷たさに反射的に手を放すが再度手をかけ扉を押した。
澄んだ空気が頬を撫でる。
はるか上空ではトンビが鳴いていた。
どこで昼食をとろうかとあたりを見渡すと一人先客がいた。フェンスの向こう側に。
弁当箱が地面に落ちるのをお構いなしに全速力で走る。
登校初日に二度も死体を見るのなんてごめんだった。
「そんなところで何してるんですか。危ないですよ」
平然を装いながら話しかけるが、俺の心臓は今にも爆発して内出血をおこしそうだった。
「……」
フェンスの向こう側にいる彼は聞こえてないのかずうっとグラウンドを眺めていた。
「あの、聞こえてますか」
しびれを切らしてもう一度聞くと茶髪の彼が振り向く。眼が合うと驚いた顔をしていた。
「え、おれ?」
「あなた以外に誰がいるんですか。そんなところにいたら危ないからこっちに来てください」
「……ああ、うん。分かった」
思いのほか素直に聞いてくれるとは、安堵の息を漏らす。グラウンドでは先生と生徒が楽しそうにサッカーをしていた
「どうしてあんなところにいたんですか?」
おかずが散乱した弁当を箸で整理しながら尋ねる。
「どうしてって言われてもなぁ。日課?みたいな?」
「いや、なんで疑問形なんですか。ていうか、落ちたら危ないからやめてくださいよ」
「ごめんごめん。とこで命の恩人くん。名前教えて?俺は早田霧人」
「坂口咲です。早田先輩は三年生ですか?」
制服の襟と袖に赤いラインのデザインが入っている。この学校では一年が青、二年が緑、三年が赤だ。ちなみに俺は青である。
「そうそう。でも俺は受験ないからここにいる。あと、教室のピリピリした空気が嫌で」
「確かに、俺もあの空気苦手です」
去年の光景を思い出すとため息がでた。
あの何とも言えない殺伐とした重苦しい空気。高校受験であれだったから大学受験となると比にならないだろうなと思うと今にも気が滅入りそうだ。
俺が頭を抱えていると、でも、と先輩が言った。
「みんな自分のことに必死なだけなんだろうな。本当に追い詰められているときは周りが見えないっていうじゃん」
先輩の視線の先にはグラウンドがあった。