卯は辰の初夢を見る
誰かの温かさを覚えてしまえばその温かさを失った時、寂しくて死んでしまうかもしれない。
卯はそう思って生きてきた。
だから誰かを好きになっても、陰から見守るだけで自分から行動を起こそうなんて思ってもいなかった。
そんな時に、辰から一緒になって欲しいと言われ、舞い上がった。
けれどももし失ってしまったら?辰の気が変わってしまったら?と思って何年も受け入れられずにいた。
卯は夢を見ていた。
自分が幸せそうに笑っている。誰かを信じ抜くことができなくて、1人で生きていこうとしていた自分を包み込むように、辰がそばにいて誰かと共にいる温かさを教えてくれている。
卯は頬に伝う涙の感触で目覚めた。
「怖い夢でも見たのか?」
隣で辰が優しく声をかけてくれる。
「いいえ、とても幸せな夢よ。」
卯は辰の気持ちを受け入れ、一緒にいる選択をしたのだ。
何をあんなに怖がっていたのだろう。
こんなに温かくて優しくて幸せな場所を何年も拒んでいたなんて。
「辰はどんな初夢を見たの?」
そこに私がいればな、などという期待を抱きながら。
「我輩はいつも同じ夢だ。世界中を飛び回り、困っている人を見つけては助け、祭りがあれば祝いに行く。そうして自分の居場所へと戻ってくるのだ。」
辰らしい力強く逞しい夢だ。
「壮大ね。」
「いつものことさ。」
辰は人々に勇気や希望を与える。
その姿に惚れ、影で見守ってきたのだ。
知っている、わかっている。
けれども自分がちっぽけに思えてしまう。
しょんぼりとしそうになった卯に辰は話を続けた。
「今年はその夢に、其方がでてきたのだ。そばにいて一緒に世界を回ってくれていた。現実でも我輩の隣で、世界を回ってくれるか?」
「もちろん!」
こんな私を必要としてくれる辰を心から大切にしよう、そう思う卯であった。