僕の運命が決まる一週間の物語
はじまり
「僕は何のために生きているのだろう」
そんなことを毎日考えながら、ごく普通の毎日を僕は過ごす。
母:「千夏ちゃん、今日もお留守番よろしくね。ママ、今日も遅くなるから。」
千夏(僕):「はーい。いってらっしゃい。」
ママはいつも帰りが遅い。最近は朝帰りが増えたようだ…新しい彼氏でもできたかな。
僕には関係ないことだけど。一人が基本的に好きだから。
ママが出かけた後は家事をして、勉強をして、今期のアニメをみて、自分だけの時間が始まる。
僕は学校は不登校、父親はいない、母親は彼氏に夢中、自分は体は女だけど中身は男だ。
なんなら発達障害だってあると思う。…こんなことを話すと大抵の人間に同情の目でみられる。
「ああ、かわいそうに」
そうだろうか。人間は結局運命を選べない。しかたのないことだ。
僕は僕で今の人生を楽しんでいる。
何が良いといえば!現代の日本のアニメは素晴らしい。作画の良さ、声優さんの演技、アニソン、ゲームのクオリティ…最高である。親が常に監視している家では自由にアニメやゲームは堪能できないではないか。
おっとよだれが。
-AM2:00-
(コンコン)玄関のドアを叩く音
…?こんな夜中にお客さん?ママかな?
??:「おじゃましまーす。」
?!
いかにも怪しい白い学ラン姿の金髪リーゼントの男が玄関の壁をすり抜けて入ってきた。
僕はどこから突っ込めばいいか頭が追い付かず腰を抜かして、魚のように口をパクパクしていた。
怪しい男はしばらくキョロキョロと玄関から家の中を見渡し、僕と目があった。
??:「おーおまえが来週死ぬ予定の千夏かあ!かわいい顔なのにもったいないのう!」
千夏:「え。」
??:「…え?」
男は僕がじっと自分を見ながら言葉を発したことに驚き、2、3歩引いた。
??:「…信じらんねえ!!俺様の姿がみえているのか?」
千夏:「え?は?」
ガシッ
いつの間にか僕は男に高い高いされていた。男は嬉しそうにニコニコだ。
??:「俺は死神の白石 和香虎ってんだ。千夏、お前はこれから俺の嫁だ!」
千夏:「え?!は?!」
なにいってんだこいつ?!
和香虎:「おっとすまない!お前はこれからおれの弟子になってもらうぞ!」
千夏:「と、とりあえず僕をおろしてもらえますか?!」
頭が混乱して、話についてこれなくてだいぶ大きな声が出た。
和香虎という男は僕の声で我に返ったのか「おっと。すまん」と僕をおろしてくれた。
僕の足が地面にようやくついたとき、久しぶり出した大きな声のせいか、変な人が現れてびっくりしたせいか頭がクラクラして貧血をおこした。
よろけてバランスを崩してしまった僕の体をがっしりとした腕が支える。
「だいじょうぶか?」と優しい声に顔を見上げると和香虎の顔は近くて
「!」
近くでみると長いまつ毛に宝石のように綺麗で大きな目。赤いラインのメイク(狐のお面で見るようなメイク)、鼻筋は通っていて、シュッとした輪郭で小顔でリーゼントが少し崩れて綺麗な金髪が色気を増して本当に綺麗なお顔をしている。女装をしたら完全に美しい女性にみえるだろう。
僕は思わず見惚れてしまった。そしてすぐに我に返る。
千夏:「あ、すみません。ありがとうございます。もう大丈夫です。」
和香虎は「それはよかった!」と離れる。
さ、さて、頭の整理をしようかな…。
千夏:「あのう、白石さん?すみません。いくつか質問よろしいでしょうか。」
和香虎:「お?和香虎でいいぞ。なんでも聞いてくれ。」
千夏:「わ、和香虎さんは、げ、玄関をすり抜けて入って来られましたが…人間ではないのでしょうか?」
ごくり…
和香虎:「あっはっはっは!人間が玄関のドアをすり抜けてくるわけないだろう!」
千夏:「で、ですよねえー…ははははは」
ピキ…
千夏:「ん?ピキ?」
和香虎:「千夏、頭下げろ。」
パリーン!!
千夏:「え?」
窓が割れる音がした瞬間、急に和香虎に抱え込まれたと思ったらいつの間にか外にいた。
しかも空を飛んでいる。
和香虎:「千夏、大丈夫か?」
もう一度気絶しそうになっているところに丁度声をかけられて現実に僕は戻された。
千夏:「え?はあ…こ、これは夢ですよね…空に浮いてる」
和香虎:「夢か、そうだといいけどな。怖かったら目をつぶっててくれ。こいつらをすぐ片づけるからな」
千夏:「へ…こいつら?」
周りを見渡すとアニメでみるような鬼のような悪魔のような怪物、がリアルな姿で回りに20、30匹ほど飛んでいる。ガーゴイルにもみえる
千夏:「ひい?!」
僕は思わず声を上げて本能で逃げようと足をばたつかせてしまうが、すぐに和香虎に体全体をぎゅっと抱き寄せられた。恐怖で震えた体も不思議とすぐに落ち着いた。
和香虎:「こいつらもみえるのだな!やはり本物だな!はっはっはっはっは」
千夏:「なななな、なんなんですか?こいつら…!?」
和香虎:「こいつらは死者の魂を食らう鬼だ。悪魔ともいうか!おそらく、千夏、君を狙ってきたんだろう!」
千夏:「え?!ああああ悪魔?!私まだ死んでないですよ?!」
和香虎:「はっはっはっそうだよなあ!君は来週の予定だ!腹をすかせた悪魔が待てなくなって襲いにきたってとこだろう!」
千夏:「え?は?来週ってどういうこと!?ってうわ?!」
鬼:「きえええええええええええええ」
鬼の一匹が叫びながら僕めがけてすごい勢いで飛んできた。
その瞬間
和香虎さんの拳がすごい勢いで悪魔の顔を殴り飛ばしていた。
その気迫で2、3匹吹っ飛ばされて消えてしまった。
つ、つよいかも…このひと…
鬼:「がああああああああああ」
すぐに他の鬼たちも襲い掛かってきた。
和香虎:「はっはっはっ数がいても俺様には勝てんぞ!いくぞー!●ーんぱーんち!!」
ドカーン
千夏:「あああ和香虎さんそれ多分ダメなやつですー!!!!」
鬼:「ぎゃああああああああ」
何十匹といたはずの鬼たちは吹き飛ばされ、消えてしまった。
すごい…全部この和香虎って人が倒してしまったのか。アニメの世界みたいだ。
まさに●ンパンマンだ…。あ、ワン●ンマンってもあったな…。どっちにしろダメだな。
和香虎:「もういないみたいだな!千夏!ケガはないか?」
千夏:「はい。大丈夫です。ありがとうございました。これは…夢ではないみたいですね。改めて…お話を聞いてもいいですか?あなたは本当に死神ですか?そして…僕は来週には死ぬの?」
和香虎:「そうだな。夢ではない。俺は死神で、千夏、君は来週には死ぬ。俺は死神だから君を迎えに行く準備をしにきたのだ。」
千夏:「…そっか。思ったより僕の命って短かったんだなあ。16歳かあ。まあ、20歳には死のうと思っててそんなに長生きするつもりなかったけど。あ、どーせなら今季アニメも終わったしもうこの世に未練もないから、来週と言わず、もうこの命引き取ってもらってもいいですよ?」
和香虎:「え?千夏は少しでも長生きしてえとか思わないのか?」
千夏:「思わないよ。私なんて長生きしたところでたいした人生積まないだろうし、生きてる意味もない」
和香虎:「…そんなこというなよ。」
千夏:「え?」
急に低い声になった和香虎にびっくりした。
和香虎は一瞬怖い顔にみえたが、すぐに優しく笑った。
和香虎:「千夏はさ、生まれ変わったら何になりたいとかあるのか?」
千夏:「え?あー転生ものかあ。そうですねえ、とりあえず、ファンタジー系の世界にいっちゃうと魔力が強いスライムとかが無難そう!いや、ひたすら防御が高いのもいいかなあ?」
和香虎:「て、てんせいもの?ふぁんたじー?そうかそうか!よくわからんがいいじゃねーか?」
千夏:「え?!転生させてくれるんですか?」
和香虎:「喜べ!千夏!君にはチャンスが与えられた!これから来週の千夏の命日まで俺様と死神として働き、死神になるか、人間に生まれ変わるか選ぶことができるぞ!」
千夏:「え?!死神か人間?!」
和香虎:「そうだ!普通の人間は死後、幽霊となりそのまま死後の世界に送られるが…選ばれた人間は死神か人間にすぐ生まれ変われるチャンスが与えられるのだ!」
千夏:「選ばれた…僕が…なぜ」
和香虎:「選ばれた人間は俺様死神や、悪魔がみえるのだ!そして、選ばれた人間をみつけた死神はその者を育てる権利が与えられる!俺は嬉しいぞ!」
千夏:「あのう、このままファンタジーな世界でスライムになれる未来がないのであればこのままこの魂消滅するという選択肢は…」
和香虎:「一緒に死神になれるようにがんばろうなー!千夏!はっはっは」
千夏:「だめだこいつ…話聞かないタイプだ」
こうして、和香虎と僕は出会ってしまい(勝手に)死神を目指す方向になってしまった。
部屋に送ってもらい布団に入った瞬間、和香虎の力なのかすぐに眠りについた。
アニメの世界のような一日がやっと終わった。
疲れた。これがやっぱり夢でしたという夢落ちであることを願う。
月の光だけが照らす静かな部屋
眠る千夏を見つめる和香虎。
和香虎:「…今度こそ守ってみせるよ。」
つづく