駅前の首吊りスポット
最近、通勤が憂鬱になった。
仕事で疲れて電車に揺られて、駅を出たらだいたい人が死んでいるからだ。
ここ日本では様々な自殺対策がされて来たが、なくなる気配は全くない。そんな現状に痺れを切らした国はある日、「ならば逆に彼らの死を利用してしまおう」というトチ狂った結論に至り、駅前に首吊りスポットなるものを設置した。
それは大型駅の入口付近の外壁に作られ、壁以外の三面がガラス張りにされた小さな個室になっていた。それがだいたい1駅に5〜8個ずつ並んでいる。
自殺者たちは全国中継されているカメラに向かって最期の言葉を発して個室に入り、壁側を向いて用意されたロープを首にかける。
彼らが死を選ぶ理由は様々だ。
いじめを苦にした自殺、貧困によるもの、人間関係、なんとなく、など、事実を一切曲げられることなく報道できる。
その証言によって悪事をはたらいた者は捕まったり、取り調べを受けたりし、彼らをいじめた者などには最低限の復讐が約束される。
世論はこれを「いいことずくめ」だと言う。
彼らの自殺において、いつも甚大な被害を受けてきた鉄道会社、いじめを隠蔽されてきた学生、詐欺で金を騙し取られたものの、本格的に捜査をしてもらえなかった被害者など全員が得をし、彼らが泣き寝入りしたり無駄死にしたりすることがなくなったからだそうだ。
それにより、彼らの自殺は「有意義な死」とまで言われた。
俺はここを通る時、いつも目を背ける。
背を向けて浮いている死体たちが哀しいからだ。
まるで吊り革のように並んでいるその死体たちは、明日の朝には片付けられて代わりに新しいロープが用意されるんだ。
俺もいつかそんなふうになるんじゃないかと思うと、本当に憂鬱になる。