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●ぽんぽこ9-17 トラの……

 ナツメヤシの作る木陰の下。緑の原と砂の野が入り混じるオアシスの湖畔こはん。ムササビを頭に乗せて水辺に浮かぶイリエワニとその脇に咲く黄色いスイセン、それからムカシトカゲを頭に乗せたコモドオオトカゲ、といった五名が初戦について話し合っていた。

「いきなりあたるとはな。群れ戦クランバトルしようだなんて約束したばっかりだってのに」

 と、コモドオオトカゲ。

「それはそれでまたやればいいだろ。それより、せっかくこっちが防衛側なんだからさ、先輩はこの機会にうちの縄張りをゆっくり見てってくれよ。ぶっとい川が真ん中を横断してて、気持ちいいんだぜ」

 聞いたムカシトカゲが、

「君……、それ縄張りのなかの本拠地の位置バラしてない? そんなこと言うと川沿いに攻め込むよ」

「そういった単調な攻めは僕が対策しますのでご心配なく」

 頼もしいスイセンの言葉に、コモドオオトカゲが嬉しそうに太い尻尾を振って、

「しっかりした副長サブリーダーがいてよかったなあ」

 それに対して自分のことのようにムササビが「そうでしょ」と、胸を張る。

 爬虫類が大半を占める集まりの頭上に、ピーヒョロロという鳴き声と共にトンビがやってきて、

「イリエワニ。頑張れよ。優勝してくれよな」

 と、声をかけて去っていった。

「なんだ?」イリエワニは首をかしげて、

「他の奴にも言われたんだが、どうしてだろう」

「賭け事さ」ムカシトカゲが背中に並ぶトゲを揺らしながら嘆息たんそくする。

「どうにも一部のプレイヤーたちが、どこが優勝するかをけてるらしい」

「危機感が足りてないぜ」と、コモドオオトカゲもあきれ声。

「オートマタの出現にかたよりがあるので、まだ実感がない者もいるんでしょうね」

「サバンナから離れていて、しかも間に強豪の群れクランの縄張りがあったりすると、壁になってオートマタが自分たちのところに到達する前にはじかれるからね」

「縄張りをオートマタから防衛するのに手いっぱいで会議に参加する余裕がないだとか、リーダー副長サブリーダーがオートマタの襲撃で消滅ロストして解散に追い込まれてしまったという話をいくつか伝え聞きましたが、それをおいても僕は会議にはもっとたくさんの群れクランが集まると思ってました。それで会議の出席に応じた群れクランが案外少ないのが気になってたんですが、実のところ、そういった事情が関わっていたわけですね」

「うん。参加数についてはぼくも不思議に思ってたんだ。でもサバンナを中心に発生してるって聞いてちょっと納得したな。会議を取り巻いてたひとたちのなかにはさ、いまさら実情を知って度肝を抜かれたって顔がいくつかあったよ。あんまり自分の縄張りにこもりきってるのはよくないね」

 スイセンとムカシトカゲが意気投合した様子で話し込んでいると、

「そろそろ縄張りに戻るぞ。時間も時間だ」

 コモドオオトカゲがぐるりと体を反転させる。

「じゃあ戦でな」

 手の代わりに尻尾が振られると、イリエワニも同じようにしてオアシスの水面を波立たせた。そうして二頭を見送ると、スイセンは速やかに「僕は先に縄張りに戻って待っていますね」と、枯れて朽ち果てる。

 散り散りになったスイセンのグラフィックを、ふっ、と鼻先で吹いて、

「俺たちも帰ろう」

「うん」

 イリエワニはムササビを頭に乗せたままオアシスからざぶりざぶりと体を上げると、大きな大きな体をゆすって、縄張りへの帰路を歩き出した。


 ブチハイエナが戻ってきた時、ちょうどオアシスから出てきたトラの一行と鉢合わせした。しかしトラの群れクランのプレイヤーたちはブチハイエナを意にも介さず、その脇をぞろぞろと通り過ぎていく。そんななか、マレーバクだけが立ち止まってブチハイエナと鼻先を突き合わせた。

「なにか忘れ物ですか」

「そんなところです。お疲れさまでした」

 すぐにすれ違おうとしたが、ふと思い出して、

「そういえばアフリカゾウはどうしています?」

 聞くと、マレーバクの眉間に、ぎゅっ、ぎゅっ、としわが寄せられた。

「彼なら元気にしてますよ」

 嘘だ、という直感。もうアフリカゾウは所属していないに違いない。ブチハイエナにはなぜがそれがよくわかった。

 用心深くマレーバクに耳を向けて、

「そういえば今日のトラは落ち着いた印象でしたが、やはり彼なりに責任を感じていたんでしょうか」

 言いながら、遠くの起伏の上からこちらを振り返っている縞模様の獣を横目に見る。

「会議で申し上げた通りこれは避けられない事態。我々にはなんの責任もありませんよ。そういった物言いはやめてもらいましょうか」

「……そうですね」ブチハイエナはマレーバクの言い分を素直に認めて「では、私は急ぎますので」と、だいぶんプレイヤーも減って閑散かんさんとしはじめたオアシスの野原へと駆けていく。

 ブチ模様の獣の背中をしばらく眺めていたマレーバクだったが、それがキリンの頭と林檎の枝ぶりが突き出している方角に消えると、縄張りである密林山地へ体を向けた。

 道のずっと先にはトラが一頭立ち止まって、様子をうかがうようにマレーバクを見つめている。それを見たマレーバクは思わずおかしみがこみ上げたが、じっくりと呑み込むようにこらえて、ラッパ状の耳をぐるりと回転させた。

 しかし、歩き出した途端に、噛みつぶした笑いがほんのすこしこぼれて、砂混じりの風にまぎれて、ちいさなつぶやきとなってあふれる。

「トラのる……」

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