●ぽんぽこ3-1 獅子身中にて
がっくりとうなだれているオポッサムをフェネックが不思議そうに眺める。翼のように大きな耳がふわふわと風に揺れる。フェネックはフェネックギツネとも呼ばれる。確かにキツネには違いなかったが、探しているのは同じキツネでもキタキツネという種。遠目とはいえキリンの背中に乗っていたフェネックをキツネと勘違いしていた事実に、オポッサムに化けているタヌキは落胆する。
キリンがあまりにも大きすぎたので縮尺が狂って、その背にいる動物の体長を測り損ねたのだ。フェネックはイヌ科最小の動物。よく考えれば分かりそうなものだった。耳が顔に対してかなり大きいのでキタキツネとは輪郭からして違う。尻尾の先もキタキツネは白く、フェネックは黒い。キツネの姿を求めるあまりに、化かす側のタヌキが逆に化かされたような気分になる。
「キリンさんが心配してたんだよ。無事でよかったぁ。助けに行けなかったのを申し訳なさそうにしてたの」
舌っ足らずな口調でフェネックが言う。ライオンの群れの縄張りにオートマタたちが襲撃してきた時、キリンは付近の小型動物たちを連れて逃げていた。キリンがオートマタに追われていたオポッサムを待ったりしなかったのは適切な判断だったとよく分かっていたので、それについて思うところはない。
「長が助けてくれてなんとかなったよ」
「ほんとすごーい。かっこいい。流石はピュシスの王様だよね」
フェネックはキラキラと瞳を輝かせて、夢を見るような眼差しで澄み渡った空へ顔を向けた。そうして目を細めると、全身を被う非常にふさふさとした毛衣を風で膨らませる。草原がざわざわと心地良い音楽を奏で、乾いた空気が土と植物が入り混じった爽やかな香りを運んでくる。
オポッサムは開けた大地のサバンナを見渡して、遥か遠くにある本拠地の岩場へと視線を向ける。そこでは王者の威容を纏ったライオンが、玉座代わりの草の上に身を横たえながら、縄張りを温かく見守っている。そこに存在するだけで、群れに所属する者たち全員に安寧をもたらしているのだ。
オートマタの襲撃という騒動に巻き込まれ、ライオンの群れを脱退することになったタヌキは数日の間、悩んでいた。悩んだ末にオアシスに配置されているNPCの岩を通して、サバンナに本拠地を置く群れに対して加入申請を出す。が、反応はない。あんなことがあった直後であり、事後処理に追われているのだろうと気がついて、日を跨いでからもう一度申請を出してみる。するとオポッサムに化けたタヌキの元に、トムソンガゼルではなく副長のブチハイエナが直接やって来た。面談もなしに群れの証を渡されて、すぐに群れ員として復帰する。それからブチハイエナはライオンの元へ案内すると言って、強引な態度でオポッサムを連れていった。
ブチハイエナは名前の通り灰色の毛に混ざって黒色のブチ模様がある。チーターを一回り小さくしたような体格だが、それでもハイエナ科のなかでは一番大きな種だけあってがっしりとしていて大柄に見える。肩口は小山のように盛り上がっており、頭から背中にかけての長毛が作るたてがみはモヒカンを思わせる。
自分の体の二倍ほどはある獣の後にオポッサムがついていくと、到着したのは本拠地ではなく、縄張りの外。中立地帯の端っこにある洞窟のなか。足を踏み入れる前にブチハイエナが周囲を警戒して、他のプレイヤーが辺りにいないことを確認する。奥へと進むと、ひんやりと入り組んだ空洞の奥にライオンが待っていた。
「こういうところの方がお前も話しやすいんじゃないかと思ってな」
ライオンが装備しているスピーカーが密やかに振動する。
「怖がらなくていい。俺様は群れに危害を加えようとするもの以外には攻撃しない。お前はそうじゃないんだろう?」
その言葉を聞いて、オポッサムは自分が知らず知らずに震えていたことを知る。やはり王。その威厳は今まで目にしてきた他の群れ長たちとは格が違った。背後では逃げ道を塞ぐようにブチハイエナがうろうろと歩き回り、舌を垂れ下げながら、へッ、へッ、と荒い息を吐いている。
「俺様のために働け。お前をうまく使ってやる。俺様にはお前が必要だ。見返りも用意してやる」
お前が必要だ、なんて詐欺師のような文句だと思ったが、オポッサムの心にその言葉はストンと落ちてきた。ライオンの発する圧倒的なオーラが、その言葉に有無を言わさぬ説得力を持たせていた。今まで自身を利用したり、排斥しようとした群れ長たちとは異なる雰囲気をオポッサムは感じ取る。ただの勘に他ならないが、野生で磨いた己の勘を信じてみたい気にさせられてしまう。
「……どういうことですか」
オポッサムはやっと言葉を発することができた。思わず高くなった声が洞窟のなかに小さく反響してしまい、慌てて声を落とす。しばしの沈黙が訪れると、冷たく固まり苔に覆われた地面を水滴が打つ音が、ぴちゃり、ぴちゃり、と耳の奥でこだました。
「詳しい話をする前に、こちらから聞きたいんだが、お前、俺様の姿そっくりになれるか? この間は失敗していたようだが」
後ろにいるブチハイエナを振り返る。すると平然と「あなたの神聖スキルについては、もう伺いましたので、私のことは気にせずにどうぞお話をお続けください。おっと、私以外は知りませんのでご安心を」と、耳を伏せて牙を見せると、笑っているような表情をする。
「……練習すれば、できるはずです」
答えに満足したようにライオンは大きく頷く。
「じゃあ練習するんだ。お前に俺様の群れの副長になってもらう」
急な話にオポッサムが目を丸くしているのも気にせず、ライオンは説明を続ける。
「群れ長はともかく副長の存在について、ほとんどの者は気にもしない。見えない雑用係だと考えている。群れ員にはそもそも、群れの証を貰う時以外には確認する術がないからな。実際、俺様の群れには副長はそのブチハイエナだけだったが、それを気にするような者はいなかった。一つの群れに副長はふたりまで設定できるというのを知っていても、もうひとりは誰だろう、と思いつつ、まあ誰でもいいか、という感じだ。要するに、だ。お前が副長なっても、名乗り出ない限りは、誰も知らないし、気にもしないということだ。重く考えなくていい」
話が見えてこないが、オポッサムはきな臭い匂いを嗅ぎ取る。役職を与えられ、何かをさせられそうになっている。それも皆に気づかれないようにこっそりと。しかし、副長になれるというのは魅力的な提案だった。群れのなかで強固な立ち位置を確立できれば、やっと腰を落ち着けられる場所になるかもしれない。
悩んでいるのを見て取って、ライオンが優しい声で「いるだけでいいんだ」と、頭を地面に下ろして見上げるようにオポッサムの顔を覗き込む。それからしばらくツンと尖った鼻と、その周りでぴょんぴょん跳ね回っているネコのようなヒゲを眺めまわしていたが、
「お前を信用して、先に説明してやろう」
と、語り出した。
「俺様がいないときに、俺様の代わりをして欲しいんだ」
「ぼくが? どういうことです?」
「ちょっと群れで厄介なことが起きている。妙な連中が紛れ込んでてな。俺様が睨みを利かせている間は大人しくしているんだが、いつもログインしていられるわけじゃない。特にこれからちょっと、な」
ライオンが言い淀んだ理由はすぐに分かった。現実世界での用事で忙しくて、ピュシスの群れの管理に手が回らないということ。
「闇雲に大きくし過ぎたんですよ。それに良くも悪くも王の影響力がこの群れでは強すぎるのです。ナンバーツーをろくに育てなかったツケが回ってきたんですな」
ブチハイエナが諫めるように横やりを入れると、ライオンは眉間に皺を寄せた。そして拗ねてしまったのか「あとの説明は任せる」と、言って苔の上に横たわり、鼻の頭で垂れ落ちる雫を愛おしそうに受け止めはじめた。
「では、僭越ながら、私ブチハイエナが説明させていただきます」
ブチハイエナはセールスマンのような物腰の低さでオポッサムの前に歩み出ると、淀みなく喋りはじめる。
「引き抜きが起こってるんですな。特に植物族たちが狙われているのです。誰かがそそのかして、別の群れに勧誘して連れ去っている。汚いスパイ野郎が誰かは、まだ判明していませんが、獅子身中の虫、というらしいですよ、こういう輩のことをね」
ブチハイエナはケラケラと自分の言葉に笑った。
「移った先はギンドロが長をしている植物族中心の群れだと思われるのですが、確かなことはまだ調査中です」
「俺様はトラの奴が一枚噛んでると思うがね」
ライオンが意見を差し挟むと、ブチハイエナは「その可能性も捨てきれません」と、控え目な答えを返した。
「群れから植物族が減りすぎると、群れ戦において、グーとチョキしかないジャンケンをさせられるようなもの。そうやって力を削ごうとしているんでしょうな。まあ、王が率いる群れはその程度ではびくともしませんがね。しかし、放っておいて調子づかせてしまうのは好みません。増長して大胆な手を使ってくる可能性もあります。そうなったときに群れ員たちが傷つけられることがないように、事前に手を打っておきたい、と優しい我が王は考えていらっしゃるわけでございます」
怒涛のように押し寄せる言葉の洪水に呑まれてオポッサムはいささかくらくらしてしまったが、内容についてはなんとか納得できた。
「その……スパイ、というのも植物族なんですか?」
オポッサムの態度で、この話を受ける気であるのを察したブチハイエナが口を裂けさせて、満面の笑みを浮かべる。
「どうやら違うようですねえ。行動範囲が広いんです。小回りの利く動物でしょうな。これを探すのを手伝っていただきたい、というのも本題のひとつです。スパイが紛れ込んでいるなどという話を群れ員たちに大っぴらにすれば疑心暗鬼が広がるだけです。少数精鋭で解決したいのですよ」
植物族があちこち移動して話して回るなどという光景は想像できない。ブチハイエナが言う通り、走力に優れた動物の仕業だろうとオポッサムも思った。植物族は動くことができない。動物とは全く異なるシステムがピュシスから与えられている。種や株分けなどの方法で自分の分身を増やす。一本の木が二本に。するとそのどちらかを選んでプレイヤーが操作可能になる。それを三本、四本とくり返して、行動範囲を広げていく。まさしく木の精霊。地球でドライアドやドリアードとも呼ばれていたもの。森のように自らの領域を広げているプレイヤーもいるが、増殖できる限度が植物ごとに設定されていたり、所属していない群れの縄張りには根を張れないなどといった制約が数多く存在している。群れ戦であればその制約も一時的に解除されて進軍にも加われるが、戦が終わると敵地に植えられた植物は自動的に枯れ果てる。
植物には目や鼻はないが、葉や幹に受ける風、光、熱などを通して、周りの様子も分かる。スピーカーを装備すれば喋ることも可能。タヌキは植物族に化けたこともあるが、異様な感覚がして好きではなかった。
「私もあなたの力というのを一度見てみたいのですが」
大方の説明を終えたブチハイエナが恭しく言って、鼻を下げた。すると傍で見ていたライオンがのっそりと起き上がって「その前に副長の任命を済ませたいんだが、いいか」と確認する。
オポッサムは様々な感情を心中に渦巻かせながらも頷く。するとライオンはメニューを開いて視界の中央にオポッサムを捉えた。ターゲットして申請。オポッサムのメニューに申請が届き、それを受理。メニューの項目に群れが出現する。確認してみるが、他本拠地の群れとの戦の予定、群れ加入申請有無、ライオンの群れの本拠地と各拠点が示されたマップが見れるぐらいの味気ない情報。ちょっとだけがっかりしてメニューを閉じる。
「見返りを言っておけ。協力の礼として、俺様がお前の望みを叶えてやる」
当然一番に思い浮かんだのは、キツネを探して欲しい、ということだったが、あまり大がかりに探されることをキツネは望まないだろうと考える。勝手にキツネの情報を広めるのも好ましくない。それにこの時点では、まだフェネックを見間違えていた事実に気づいていないオポッサムは、ライオンに頼む前にそれを確かめたくもあった。
「探している人がいるんです。けどそれは、ぼく自身で見つけたいんです。だから、なにかあった時にちょっとした手伝いをお願いしたいかも、ぐらいです。これじゃダメですか」
「別にかまわん。むしろ他に願いはないのか」
「……ぼくが化けれることは秘密にしてください」
「わかった。ブチハイエナに言っちまったのは悪かったな。だがこいつは信用していい。俺様を裏切らん。つまり俺様の群れ員も裏切らんということだ」
「ぼくも、信用したい、とは思います」
オポッサムは首をぷるぷると振って、謝罪の必要はないことを示す。ライオンはそんなオポッサムを見て、こいつは損な性格をしている、利用されやすいが故に今まで利用されることもあっただろうと、と考える。そうしてオポッサム、タヌキが孤独な道を選ぼうとしているのを憐れに思った。探し人とやらがうまく見つかればいいが、とも。
「……それじゃあ悪いが、こいつに姿を変える技を見せてやってくれないか。どうせそのうち見せることになるんだから、早めに確認させとくのがいいだろう。スキル使用に必要な命力は俺様が分けてやる」
トレードの申請があり、高額の命力が渡されようとしたので、流石に多すぎるとオポッサムは断ろうとしたが、押し切られるような形で受け取ることになる。
「王。命力の残りは大丈夫なのですか? 先日のオートマタの襲撃で被害を受けた者たちにも気前良く振舞われていたようですが」
「平気だ。今まで稼いだ貯金がたんまりある。だがそうだな、そろそろ遺跡で装備品集めをしてもいいかもしれん。どうせスピーカー以外はろくに使わんが、換金すればいい金になる。しかし……」
ライオンはメニューをいじりはじめて、頭に被るヘルメットのような信号灯、防弾チョッキのような鎧、大きな爪のついた手甲などを装備してみせる。毛が装備品に押し込められて、水浴びした直後のように少しみすぼらしい見た目。
「ピュシスを作った奴はこんなもんを装備して戦うことを、本当に想定していたのかね。こんな格好じゃ動きづらくてただの的だ。銃やら、ナイフやら、装備不可能カテゴリも多い。どうにも解せんぜ。この世界では道具はただのゴミだって分からせるのには一役買ってるがね」
重そうにしながら頭の上で輝く信号灯の明かりを、スポットライトのようにオポッサムに向けた。眩しい光に目を細めて、舞台に立たされたような形のオポッサムはおずおずと変身を解いてみせる。ポン、と白煙がもやもやと立ち込めて、まん丸いタヌキが姿を現す。
「ほほう」
ブチハイエナが跳ねるようにタヌキの周りをぐるぐると移動して、全身を嗅ぎ回った。タヌキがむず痒そうにしていると「もう一度、俺様の姿になるのに挑戦してくれないか」と、ライオンに言われる。
逆光のなかにいるライオンの姿をまじまじと観察する。匂いを覚え、スピーカーではなく、口から漏れる、ごう、ごう、と嵐を思わせる鳴き声に耳を澄ませる。前回よりもうまく化けれる気がした。気合を込めて、えいやっ、と化ける。
また白煙が洞窟に立ち込めて、ゆるゆると消える。タヌキが化けたライオンは少しなよなよした印象だが、それでもライオンの形を保っていた。
「なるほど」
ブチハイエナがぴょんと飛び退いて、離れた位置からその全身を眺めまわす。そうして「ちょっと、私と力比べなどしていただけませんか」と、申し出た。
群れ戦中でもない上に、そもそも同士討ちはシステム的に不可能だが、じゃれ合いのようなことはできる。ライオンも「それはいい」と賛同したので、タヌキは渋りながらも了承する。
ライオン姿のタヌキは、オートマタとライオンの戦いを思い出しながら、後ろ足で上半身を起こすようにして前足を振り回してみる。左右の連続フック。ブチハイエナはボクサーのようなフットワークの軽さでそれを避ける。続けてタヌキが噛みつき攻撃を放つと、ブチハイエナは低く構えて地面を這うように急接近し、カウンター気味に噛みつき返してきた。タヌキの鼻先が噛まれてしまうがダメージはない。しかし実戦であれば大きく体力を削られていただろうとタヌキは感じる。野生の争いでは有効な一撃を加えられるかどうかが勝敗を大きく分ける。裂傷の異常状態になれば動きや感覚が鈍り、出血の状態異常になれば、程度によっては急速に体力が失われ、相手は悠々と弱りゆく獲物を眺めているだけでよくなる。
再び鋭い爪のついた前足によるパンチで反撃。ブチハイエナはわざと当たりにくる姿勢をとる。ライオンに化けているタヌキのほうが体格では倍近く勝っているが、攻撃を受けたブチハイエナはびくともしない。力はタヌキのままなので、それも当然であった。ブチハイエナは首を傾げて、素早く横に回り込むと、タヌキの脇腹を小突いた。あっけなくタヌキは転がされてしまう。
「そのぐらいにしてやれ」
ライオンが止めに入る。
「しかし弱すぎるな。流石に俺様と同じ強さになれんのは当然としてもだ、せっかく副長になったんだ。それ相応の実力は持っていてもらいたいもんだ」
底を見透かされたような気がしたタヌキは、あまり能力を見せるべきではなかったかもしれないと、今更ながら後悔の念に苛まれる。けれどこれ以上見くびられるのも癪なので、そんな様子はおくびにも出さず、変身を解いて、コロンと丸まった。
分かり易くいじけた態度をとったタヌキにライオンが微笑む。こいつは裏表がない奴だ、と考える。
「まあ今は強さのことはいい。それよりもっと、ほら、しゃんとできないのか。それだとすぐにバレてしまうぞ」
「本当ですよ。威厳の欠片もない」
ブチハイエナが慇懃な態度で毒を吐く。
「化ける相手をよく観察しないと……」
「よし、ならお前はしばらく俺様の傍を離れるな。ついでにお前を鍛えてやる」
会合を終えた一行は洞窟の出口へ向かう。外では涼やかな空気と濃い緑の香りが出迎えてくれた。太陽が傾いて、美しい夕日が自然に満ちた世界を染め上げている。
三頭は並んで、ピュシス世界の真ん中から放射状に延びている中立地帯の道を通って中央へと向かう。そこには巨大なオアシスが存在している。NPCやプレイヤーのバザーでいつでも賑わっている安らぎの場所。
「とりあえず林檎でも食うか。おごってやる」
「それはいいですな。ご相伴にあずからせていただきます」
タヌキに向けられた言葉を、横からかっさらったハイエナが笑う。ライオンはブチ模様のある毛衣を見つめて鼻を鳴らしたが、すぐに前を向くと何も言わずに歩いていく。こういったブチハイエナの飄々とした態度には慣れたものなのだろうと、タヌキは考える。ふたりの間には確かな信頼関係が感じられた。それを羨ましく思いながら、ぽっかりと空いた己の心の穴を覗き込んでいると、キツネが心の隅っこから鼻先を出して、その切れ長の目でタヌキをじっと見つめ返した。