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●ぽんぽこ16-3 直通トンネル

 遺跡の入り口に集まる全員が天を仰いで唖然あぜんとしていた。

 刻一刻と迫りくるのは、見たことも聞いたこともないような超々巨大生物。

 逃げようとする心はあったが、激しい振動で身動きができない。

 それに、あまりの迫力に足がすくんでしまってもいた。

「山ぁ!?」

 ボブキャットが叫んだのも無理はなかった。その生物は、まさしく山と見まごうおおきさ。

 もはやこれまでと目を閉じて、頭を抱え込む者が数名。

 地の底から響いてくる、猛獣がうなっているかのごとき地鳴り。

 その音に、耳をそばだてていたペッカリーが、

「……聞こえるぞ」

 他の動物たちも、耳を突き立て、集中する。

 すると、

植物族ドリュアスと鳥はどいてろ!」

 巨獣の方角から届いてきたのは、聞き覚えのある仲間の声。

「シロサイ……?」

 オカピが目をらす。

 意識すると、仲間の面影が見て取れる。がっちりとした体格と、額と鼻のあたりから生える二本角はシロサイのもの。

 ただし、反り返った大牙はカバのようであり、長い鼻はゾウのようでもある。

 声の指示のままにヘビクイワシが飛び去って、クルミ、ピスタチオ、イチジクの植物族ドリュアスたちはできるだけ遠くにある予備の肉体アバターに操作を移した。

 黄金の輝きを薄衣のようにまとった巨獣が、あっという間に遺跡に到来。

 巨獣が急停止した衝撃で巻き起こった嵐のような風に小柄なゾリラやフェネックが吹き飛ばされた。小麦色の草原が一斉に舞い散って、禿げた野だけが残される。岩山が崩れ去り、遺跡の入り口がすっかり埋もれてしまった。

 壮大すぎる動物たち(ベヒモス)の影が、足元で見上げる動物たちを包み込む。

「全員きてもらうぞ!」

 シロサイの声が響くと、動物たち(ベヒモス)の長い鼻が曲がりくねり、洞窟よりもおおきな鼻のあなが皆におおいかぶさった。

「ちょっと……まさか……」

 と、オセロットの言葉は途中で途切れて、激しい吸引に連れ去られた。超強力な掃除機のように、ゾウみたいな鼻が仲間たちを一頭残らず吸い込んでいく。

 次々に動物たち(ベヒモス)へと同化。

 巨体がさらなる成長をげる。

 頭数が増えるたびに、肉体アバターが巨大化。能力ステータスが急上昇。

 元々、融合していたのは九頭。

 シロサイを中核として、ブチハイエナ、リカオン、オジロヌー、シマウマ、マーゲイ、チワワ、ヒグマ、オオアナコンダ。

 それに十一頭が加わる。

 ペッカリー、ピューマ、オセロット、ボブキャット、サーバルキャット、カラカル、オカピ、ボンゴ、シタツンガ、ゾリラ、フェネック。

 倍以上、二十頭もの動物が一体化。

 動物たち(ベヒモス)肉体アバターは、もはや天と地の狭間はざまには、収まりきらないほどの図体。

 角は宇宙にまで届き、超重量が支えきれなくなった大地がひび割れる。

 彗星のごとく、シロサイは動物たち(ベヒモス)肉体アバター疾駆しっくさせた。

 黄金の果実(アムブロシア)の強化効果はまだかろうじて健在。

 遺跡から離れ、大回りして戻ってくる。

 低く、低く、頭をせる。

 あごの下を小高い林になでられる。

 角の切っ先が、大地を削り、貫いた。

 地中へと角をねじ込んでいく。

 深く、深く、さらに深く。

 地層を串刺しに。

 岩盤を超える。

 底に届いた。

 金属の感触に到達したのと同時に黄金の果実(アムブロシア)の効果切れ。

 シロサイはスキルを解いて、融合を解除。

 動物たちがばらばらと、地に穿うがたれたトンネルの周辺に散らばった。

 遺跡最下層への直通トンネル。

 幅や天井はこの場の全員を余裕を持って受け入れられるぐらいに広く、傾斜角度は滑り台ほど。

「やっぱりシロサイだったか」とピューマが「サルとやらは……」たずねようとしたそのとき、動物たちの輪を抜けて、ブチハイエナがトンネルにとびこんだ。

 思わずピューマが追いかける。他の動物たちも続く。オセロットがゾリラをくわえて走り、ヌーの背中にマーゲイがとび乗る。オオアナコンダはシロサイの足に巻きついて、ひきずられていく。フェネックもついていこうとしたが、それはリカオンに止められた。

「だれかが残って状況を知らせなきゃならない。フェネックはその役を頼む」

 一時的に場を離れたクルミなどの植物族ドリュアスやヘビクイワシ。ここにくるまでに見かけたフラミンゴ。他の者にも。

 とはいえ、これは半分建前。これから向かう危険な領域に、戦闘力の低いフェネックを連れていくのは難しいという判断。

「うん。わかった」

 おおきな耳のちいさなイヌ科がうなずくと、リカオンもブチハイエナを追って、暗いトンネルを駆け下りていった。


 陽も届かないような奥底を目指してブチハイエナが坂を下る。

 急ぐ理由が把握ができていないまま、その背に続くひづめや爪の音が、深々と地に染み入って、トンネル内に反響した。

「どうした副長ブチハイエナ。ちょっとあせりすぎじゃないか。らしくない」

 横に並んだピューマが問いかける。うっかり滑り落ちないよう、精密な肉体アバター操作での足運び。もしも足を踏み外したりすれば、ノンストップで転がり続けて、底に激突してしまいかねない。

「らしくない、か。そうかもしれませんね」そっけない返事。

「もしかして、先に遺跡に入ったやつらと関係あるか?」

 ふたつの足跡。おおきなネコ科と、ちいさなイヌ科。

 闇のなかで、かすかにふり向いた鋭い瞳が鈍く光る。

 外で発見したものをピューマが報告すると、

「やはり」ブチハイエナはうなずいて、ますます速度を上げながら「それはマレーバクとキツネですよ」

「キツネ、ってイヌ科のあれか。しかし、マレーバクの足跡ならひづめなんじゃ……」

「彼はばくという怪物の肉体アバター変貌へんぼうするスキルを持っています。その四肢ししはトラ」

「なるほど」

 と、ピューマは納得する。しかし、納得できないこともある。

 それをたずねようとしたとき、背後で騒ぎ。

「ペッカリーが転んだ!」

 危惧きぐしていたこと。まるい体が転がる音と、ペッカリーの悲鳴とがトンネル内で増幅されて響き、土のにおいが濃く香り立つ。

 足を止めた動物たちが一斉にふり仰いだ。

「俺を使え!」

 叫んだのはオオアナコンダ。ヒグマが応じる。大柄な獣が闇のなかで動く気配。

 シロサイの足に巻きついているオオアナコンダの一端をヒグマがくわえて、ゴールテープみたいにひっぱった。長大な太いヘビの肉体アバターが道の端から端までをふさいで、ペッカリーを受け止める。

 全員がほっと息をつく。

「すまん。足が滑った」

 と、ペッカリーが身を起こす。ペッカリーならセーフリームニルのスキルで無限回復が可能なので、落下死することはなかっただろうが、はぐれないに越したことはない。

 空を横切る太陽の輝きが、ちょうど勾配こうばいと同じ角度でそそぎ込まれた。

 闇が払われ、はるか遠い地の底がぼんやりと灰色に浮かびあがる。

「ブチハイエナ待て!」

 追いついてきたリカオンの声に、先頭をゆくブチハイエナがしぶしぶというふうに足を止めた。

 照らし出された仲間たちをピューマが見回して、

「どうなってる?」

 疑問がいくつもある。なぜチワワやヒグマといった他の群れクランの者が同行しているのか。オオアナコンダもトーナメントが終わるまでの関係と聞いていた。

 そして、なにより、

リーダーは?」

 ライオンが合流していないのに、敵性NPC(オートマタ)の巣窟におもむこうというのは、あまりにも独断が過ぎるように感じる。

 一足遅れてくるにしても、それを待って、一致団結して行動すべきだ。

 ブチハイエナは陽に背を向けて、幾分かゆっくりと歩きはじめる。

 だれとも目を合わせることなく、

ライオンは死にました」

 てついた静寂に、いくつもの心が締めつけられ、危うく窒息寸前になる。

 まるで葬列のように、死の香りがする穴の奥へと、動物たちが導かれていった。

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