▽こんこん2 オートマタのいる日常
第一衛星が天頂で輝く。しかしその光には太陽がもたらしてくれるような温かさはない。ひたすらに無味乾燥としていて、暗くないというだけの明るさ。
情報閲覧施設の窓の外を見て、やや混雑した休日の道を眺めながら、リヒュは一息つくことにした。大量の通行人。外出者が多いので、それに合わせて巡回オートマタの数も増員されている。見える範囲だと、人間とオートマタが十対一ほどの割合。人々が歩く頭上に、乗り物が通るチューブ状の道があり、人間を乗せた自動操縦の箱が次々と流れていく。乗り物には窓がなく、まるで梱包されてどこかへと出荷されていく商品のようでもあった。
リヒュはピュシスでの戦いに備えて、地球のことを調べていた。個人端末からの検索には限界がある。地球などといった古めかしい情報を知るには、情報閲覧施設に出向いて、そこにある端末と接続する必要があった。
施設内は混雑している。個人用のブースに座って、じっと椅子に背を預けた灰色の人々。情報を検索している間の、その虚ろな表情は死人のようにも見えた。さながら遺体安置所だな、とリヒュはその一員になりながら考えたりする。
動物、植物についての知識はピュシスでの力になる。地球にあった自然とピュシスの自然は完全に同一ではないが、かなり高い類似性がある。野生値などの概念で多少揺らぎがあったり、動かしているのは人間の頭脳であるという点も考慮しなければならないが、プレイヤーのアバターである動物の基本的な視力、聴力、嗅覚、大きさや重さ、特性などを知るのは有効。植物においても同様だ。機動力、索敵能力、樹に登れるか、泳げるかなどの情報は、対峙した際に実力を測る重要な指標になる。
検索を再開する。
ブタは体の構造の問題で空を見上げられないらしい。上方から奇襲するのがいいかもしれない。もっともブタのプレイヤーもそれを警戒して樹の近くや鳥類には一層注意を払っているに違いない。
サイの視力は非常に低い、ということは聴覚、嗅覚への働きかけでかく乱するのが効果的。逆に味方にサイがいるなら視力の優れた動物、例えば猛禽類などと組ませると力を発揮しそうだ。
マンチニールは林檎に似た実をつけるが非常に強い毒性を持つ。地球でもっとも危険ともされた植物。その樹から滴った雨水に触れるだけでも激痛が走るという。だが植物族は性急な移動が困難なので、こちらから接近しなければ大丈夫だ。その姿を知っておき、避けることができれば問題ない。
ラフレシア、正式な名前でいうとラフレシア・アルノルディイの植物族にはリヒュも会ったことがある。ヘビの群れの一員だったのだ。地球で最大の花とも言われており、人の背丈ほどある花は圧巻。だが、あまりにもひどい腐肉の臭いがして、近寄るだけ鼻が曲がりそうだった。嗅覚頼りの敵の妨害をするのに一役買っていたが、それ以上に味方への被害も大きかったように感じる。ラフレシアは寄生植物なので、寄生対象であるミツバカズラを見かけるたびに、どこかから匂いがするのではないかと思ったものだった。ミツバカズラの方はプレイヤーではない。ピュシスにおけるあらゆる動物はプレイヤーだが、植物に関しては自生しているものと、プレイヤーの植物族が勢力を広げて繁っているものの二種類がある。ミツバカズラは前者にあたる。ピュシスには湖や沼、川はあるが海はなく、海洋生物や魚などもいない。昆虫もいない。実物の昆虫を見たことはないが、情報として閲覧するその姿はまるで機械のようだと、リヒュは感じる。もしこんな手足が多い体になったら、きっと全然うまく動けないだろう。
そしてゾウ。特にアフリカゾウという種は陸生動物で最大、最重量かつ、単一個体同士の戦いであれば最強と目される動物。ピュシスのどこかにゾウのプレイヤーがいるらしいという話は聞いたことがあった。どの群れにも所属していないソロプレイヤー。群れないプレイが可能という事実は、ピュシスにおいて強大な力を有していることを示している。ゾウの走る速さはキリンに一歩譲るぐらいだが、それでも人間に比べれば速い。いざ戦うことになった場合、鈍足のプレイヤーは逃げられないだろう。更に足の裏で振動を読み取り、音を聞く能力がある。ゾウを見かけたら静かに移動する必要がありそうだ、とリヒュは考えたが、よくよく調べると目視できる範囲を越えて、遥か遠方の振動までも感知できるらしかった。しかも嗅覚、正確には嗅覚受容体の数がイヌの二倍、人間の五倍ほどときている。強力な探知能力と、最強の肉体。区分は草食動物だが、ピュシスでの相性システムで上をいくはずの肉食動物でも御せる相手ではなさそうだ。象牙だけでライオンの体長を越え、体重は超重量級のカバやサイよりも重たい。この巨獣の体当たりを受けてしまえば、相性不利の植物族は木っ端微塵になり、肉食動物も吹き飛んで息絶えるに違いない。そんな相手が群れ戦で攻めてくることを想像すると、悪夢以外のなにものでもなかった。ピュシスで最強のプレイヤーと言えば多くの者がライオンの名を挙げるが、いざ流浪のソロプレイヤーであるゾウとぶつかるような機会が訪れた場合、勝ち目があるのかどうかは分からない。
最後にリヒュは、まん丸くて明るい茶色の毛衣に被われた獣の姿を探す。タヌキ。リヒュが探し求めている相手。タヌキとの日々は真に心地良いものだった。同じ傷を心に持っていたが、それを舐め合う関係ではなく、妙に気があったし、信頼できる存在だった。ピュシスにいると己の本性を度々自覚させられることになる。衝動に身を任せてしまう場面が多々あった。あの自然に溢れた世界、動物の姿がそうさせるのだ。そんななかで通わせた絆は、現実世界で得たものよりも純度の高い宝石のように思えた。
己の体にキングコブラの牙が突き刺さり、群れを追放される瞬間、シシバナヘビに化けているタヌキが身をわななかせているのをリヒュは見ていた。この身一つでタヌキが守れるなら、それで十分だと思った。オウムに見咎められたのは己の油断が招いたことであるし、変に責任を感じて欲しくはなかったが、タヌキを慰める言葉をかける時間はなかった。ただ、あのワタリガラスの神聖スキルは気がかりとして引っかかっている。疑り深いキングコブラのことだから、群れ員のことを調べるだろう。タヌキはコブラの群れにいられなくなっているかもしれない。もしそんな事態になっていれば、タヌキと再会するのはかなり困難であると言わざるを得ない。
リヒュは閲覧を終えると履歴を消去しておく。しかし惑星コンピューターが本気で調べようとすれば、全施設使用者の閲覧記録を即座に丸裸にできてしまうだろう。他のプレイヤーたちも多くが地球の自然について調べているに違いない。ピュシスで生き残るため。それを辿れば簡単にプレイヤーを特定できそうなものだが、そうはなっていない。ピュシスによって守られていると、リヒュは感じる。もしくはピュシスを作った何者かによって。カリスの捜査を妨害し、ピュシスプレイヤーの存在を隠蔽している。情報閲覧施設で捕まったピュセスプレイヤーがいないことを知っているので、リヒュはこうしてやや大胆とも言える行動をとることができていた。
外に出ると、風もなく匂いもない淀んだ空気がリヒュを出迎えた。道の向こう側にメョコの姿が見える。
「リヒュ。きぐうー」と、メョコが駆け寄ってくる。一緒にいたロロシーと、ロロシーに手を引かれているプパタンもやって来る。プパタンは相変わらず首を上に曲げて、第一衛星の冷たい輝きを眺めていた。
「三人で買い物してたんだ。一緒にいかない?」
彼女たちが持つ金属繊維の鞄に収められた服にちらと目をやって、ひらひらした服を着るのは趣味ではないと、リヒュは断る口実を考えはじめている。
「ギーミーミと約束してるんだ。公園で」
休日に必ずと言っていいほどギーミーミが公園で運動しているのをリヒュは知っていた。メョコが公園の方から来たことを見てとって、ちょっとした現実味を加えた嘘だったのだが、メョコは目を微かに丸くして、
「そういや知ってる? 事故があったんだって」
と、全く別の話をしはじめた。おそらく嘘を見破っているが、ロロシーとプパタンが傍にいるので、気を使ってそれを指摘しないのだろうとリヒュは気づいて、少しだけ申し訳ない気分になる。
「オートマタが急に壊れちゃったの」
「壊れたって、壊されたんじゃなくて?」
オートマタを狙った襲撃というのは度々発生している。機械惑星にいながら機械を憎む集団というのが存在するらしいのだ。冠すら外して、自分たちは王ではなく奴隷だ、と自称しているおかしな連中。冠なしでどうやって生活しているのかリヒュには想像もできない。その行動は過激で、親カリス派の政治家が暗殺される事件も発生している。案外そういう連中がピュシスを作ったのかもしれないとも思う。しかし惑星コンピューターすら欺く高度な技術を持った者が機械を憎んでいるものだろうか、というのは大きな疑問であった。
「突然倒れてしまったらしいんです。ネットワークエラーでカリスとの繋がりが切れて操作不能に陥ったのだと聞きました」
ロロシーがメョコの大雑把な説明を継いでくれた。それに対して「そうそう」とメョコがいい加減にも思える相槌を打つ。
今日もメョコは騒がしい化粧を自分の顔に施している。ロロシーが控え目なので余計に派手な印象を与えている。ロロシーは軽く整えているだけのようだが気品すらあった。服装も襟元がきっちりしていて、肩に落ちる長い髪はナノチューブのように繊細でつややかだ。それに比べたらプパタンは、地球風に言うならば野性味に溢れている。髪はぼさぼさ、服も着崩れているが、本人は気にも留めていない様子。
まん丸く色づいているメョコの目の周りのメイクを見て、リヒュはタヌキを連想していた。もしかしたら案外タヌキは近くにいるのかもしれない。それがメョコである可能性はゼロではない。メョコとは気の置けない仲であり、彼女特有のゆるい空気感を好ましく思う。
「私たちもう行くね」
手を振って、メョコが背中を向けて去っていく。プパタンがぼんやりしているので、ロロシーが手を引いて連れていった。タヌキは「ぼく」と言っていたはずだと、リヒュは記憶を探る。ピュシス内では「僕」ではなく「わたし」という一人称を使うリヒュが言えたことではないが、やはり別人だろうと考える。リヒュがピュシスで「わたし」と言うのはメョコに憧れているからだ。ピュシスでぐらいは己が望む存在でいたかった。人を惹きつける、明るく元気なメョコのような。
一言尋ねればすぐに分かることだが、そんなことはできない。いくら冠でも思考を読み取ることはできないが、声として音にしてしまえば必ずカリスに察知される。ノモスでピュシスのことを話すのは御法度。当然通信等も危険だ。テレパシーでもあれば別であろうが、そんな非科学的なものがあるはずもない。逆にピュシスでもノモスのことを口にしてはいけないというのが暗黙の了解になっている。どんな情報から現実の己を特定されて、プレイヤーであることをカリスに通報されてしまうかも分からないのだ。それはピュシスでの命のやり取りの果てでの結果よりも残酷な、ノモスによる断罪。しかし、通報した方も追及を免れないだろうし、タダでは済まないだろう。なんにせよ、ピュシスでの諍いが現実世界に持ち出されると、ろくな結果を招かないということは確かだ。
メョコたちが行ったのと反対方向へリヒュは歩いていく。そうしていると公園が視界の端に映った。校庭よりも広い範囲を固いゴムのような弾力のある地面が覆っている。灰色の野原。運動用の器具や、スポーツができるコートがいくつか設置されており、それを使って体を動かしている人々が、息を切らして薄く汗を滲ませている。微かな熱気が立ち昇り、この空間だけはピュシスを思わせるなにかがあるようにも感じられる。
外周にあるベンチには、街中にある希少な大空間でのんびり腰掛けて休憩している者たちが並んでいた。それをぐるりと視線で追っていると、公園の一角にギーミーミの姿を発見した。やはり公園にいたようだ。ギーミーミは鼻を引くつかせるように顎を上げると、遠くに立つリヒュの姿を認めて、手を振ってきた。
「おーい。リヒュ」
「なに?」
ゆっくりと歩み寄りながらリヒュが返事すると、ギーミーミが駆け寄ってくる。
「ちょうどよかった。人数足りないんだ。入ってくれよ」
バスケットボールをしているようだった。オートマタが数人混じっている。リヒュは逡巡するが、先程メョコに嘘をついた時の小さな棘がまだ心につかえており、いっそ本当にしてしまえばいい、という気分になった。それに、開けた空間を目にすると、体を動かしたくなっていた。
「いいよ」
「よっしゃ。ありがとな。俺のチームに入ってくれよ。オートマタを一人抜くからさ」
小さな少年のように笑って、ギーミーミがリヒュをチームに迎え入れた。五対五の二チーム。相手チームにオートマタが二人。ギーミーミとリヒュのチームには一人。チームメンバーにはゴャラームの姿もあった。先日、鼻を痛めていたが、もうすっかり大丈夫そうだ。他は知らない大人たち。チームメイトの、あと一人のオートマタではない大人は、鋭い目をした抜き身のナイフのような背の高い男で、クァフ、と名乗った。横に並ぶギーミーミは学校では上から数えた方が早いぐらいには長身だが、それよりも更に大きい。
「よろしく」
「リヒュです。よろしくお願いします」
挨拶すると軽い頷きと共に、探るように全身をねめつけられる。チームメイトとして不足がないかと測っているようだった。
ノモスを代表する二つの娯楽。音楽と運動。少し前までは音楽が優勢だったが、最近になって運動に重きを置かれるようになってきていた。体を動かすのは機械によって代替できない快楽であり、より人間的な感性であるとして、政府の一部が推進しているのだ。大人も子供も関係なく、運動に取り組み、かなり真剣にのめり込んでいる者も多い。クァフもそうした一人なのだろうと、リヒュは思った。
ゴールは本物が置かれている。冠による視覚への干渉はなしで、コートの線も実際に引かれていた。オートマタの運動レベルは自動的にこの場にいる者の身体能力の情報を元に算出された平均値に設定され、強すぎず、弱すぎずになる。
試合開始。ギーミーミからの指示、左前方の相手をマークしろ。リヒュは指示に従う。リヒュがマークしている相手にボールが渡されそうになるがそれを阻止。こぼれたボールをクァフが保持。果敢に攻め入り、ギーミーミを経由してパスがゴャラームに渡る。ゴャラームはシュートを打とうとするが、当然相手は妨害してくる。小柄なゴャラームでは対戦相手の大人たちに簡単に抑えつけられてしまう。行き交う足元を縫うようにしてリヒュにパスが回る。
リヒュをマークしているのはオートマタ。広げられた手のひらは合成皮膚に覆われていて、人間と同じようにボールをキャッチすることができる。体格は平均的な大人程度。動きはリヒュよりも機敏で抜くことは難しそうだった。それはリヒュがこのメンバーのなかで平均値を下回った実力であることを示している。ギーミーミがクァフにボールを回すように言う。
投げたボールは相手のオートマタに奪われてしまったが、そこにはこちらのオートマタが待ち構えていた。相対して、互角のやり取りを展開する。ボールは相手チームの手を回り、別のオートマタへと渡る。ゴャラームが立ち塞がりブロック。足を止めたオートマタの横からクァフがボールをかっさらった。長身がピンと伸びて、そのままゴールにシュート。ボールは宙を舞い、バウンドせずにゴールリングの中央を潜る。
味方から小さな歓声が上がり、ハイタッチが交わされる。相手チームは悔しそうな表情を浮かべるが、すぐに気持ちを切り替えてボールを手にする。
試合はリヒュのいるチームが優勢で進んでいた。得点差は開く一方。エースはクァフであったが、リーダーはギーミーミだった。常に的確な指示を飛ばして、チームを勝利に導いている。ゴャラームは小柄な体ながら、精いっぱい皆の動きについてきていた。
相手の一人が焦ったのか、途中、足を捻ってしまった。どこからともなく医療用オートマタがやって来て、適切な処置を施す。腫れていて、試合を続けるのは難しそうだった。オートマタを二、二にするか、欠けたメンバーにオートマタを入れて三、一のバランスにするかでしばし協議がなされたが、結局後者に決まった。リヒュは三体のオートマタと人間が二人というチームと向かい合う。
相手のオートマタはチームメイトの人間たちよりも優れた能力を発揮していた。つまりそれはこちらのメンバー、おそらくは特にギーミーミとクァフが飛び抜けて優秀な選手であるということ。三体のオートマタの連携にリヒュは手を焼く。ギーミーミも苦戦しはじめた。
リヒュはふと、本当に知らなくてはならないのは自然のことよりもオートマタたちのことかもしれない、と考える。ピュシスにおけるキャラクター消滅の最大にしてほぼ唯一の要因。敵性NPCであるオートマタ。地球の動植物とピュシスの動植物に類似性があるように、ノモスのオートマタとピュシスのオートマタにもまた類似性がある。オートマタの弱点はなんだ、と思考を巡らせる。金属のフレームは爆発にも耐えうる強度。倒壊した建物の瓦礫を簡単に除去できる腕力。センサーはピュシスの動物たちを上回る性能。唯一、弱点に思えるのはヒト型であること。それによって動作が制限されている。しかし機械であれば、すぐに克服可能な弱点に思える。当然、ヒト型でないロボットもいるにはいる。ただし街中やピュシス内で見かけるのはヒト型のオートマタがほとんどだった。
そこまで考えたリヒュは、先程路上で聞いたロロシーの話を思い出す。オートマタは惑星コンピューターと常にネットワークで繋がり、その指示の元で動作している。カリスという脳にとっての手足。ネットワークの攻撃に脆いのかもしれない。しかし、そうだとして現状のバスケットボールの試合にはなんら関係はない。リヒュにはそんなことができる技術はないし、ネットワークへの攻撃は重大な犯罪行為だ。
試合は一進一退の攻防になり、やや点数を追い上げられたが、なんとか勝利を収めることができた。大人たちは汗を拭って帰っていき、オートマタも巡回経路に戻っていく。
残った三人で沈んでいく第一衛星を見ながら今日の試合の駆け引きについてしばし話したが、ゴャラームはそれもほどほどに帰っていった。
「リヒュは練習すればもっとうまくなるよ。いつでも来いよ。俺は大抵ここでバスケしてるからさ」
ギーミーミがリヒュの肩を叩く。
「暇なの?」
ちょっと気安くなった距離感でリヒュが言うと、
「貧乏一家の三男坊だからさ。外で遊ぶのが義務みたいなところがあるんだよ。選手を目指せば親も楽できるしな」
親元を離れて長いリヒュには家族というものがあまりピンとこない。ノモスにおいては親元を早く離れて一人暮らしするのが一般的。ギーミーミのように家族みんなで暮らすなどというのは特殊だ。とは言えやはり貧富の差というものはあるし、親の収入が乏しければ、そうせざるを得ない家族もいるというのは理解できた。
「まあ、考えとくよ」
「いい連携だったぞ」
ギーミーミは気持ちのいい笑顔を浮かべて空を見上げた。仄暗く輝く第二衛星が昇りはじめて、夜の訪れを告げている。明るくないというだけの暗さが街を覆っていく。
ノモスの夜空に浮かぶ第二衛星に満ち欠けはない。新月がないことだけは唯一ピュシスの空に勝る点かもしれないと、リヒュは帰路につきながら考えていた。
■改稿履歴
2023/8/21 『ミズバカズラ』となっていたのを『ミツバカズラ』に修正