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●ぽんぽこ14-21 強くて元気な体

「なんてこと……」

 悲しげに耳を垂らして、ゴールデンレトリバーがラブラドールレトリバーの死体を見上げた。

 ラブラドールはジャイアントイランドの死体の角に胸を刺し貫かれて、体力(HP)が尽きてしまっている。

 最後に見た状況では、完全にクー・シー側が優位。体のあちこちを負傷した白沢はくたくには、のしかかってくる緑色の妖精犬を押しのける力はなかった。その状態からどうやって相打ちにまで持ちこんだのか、まるで見当がつかない。

 死体を検分する。ラブラドールはイランドの頭におおいかぶさっている。角に刺されたというより、自ら刺されにいっているように見える。

 鼻先を近づけて死臭をたしかめていると、背中に二本指の深い爪痕つめあとがあることに気がついた。見覚えがある。さっき自分も蹴られたばかり。

 やったのはダチョウ。そうに違いない。

 おそらく、クー・シーが白沢を仕留めたあと、背後からダチョウに蹴りつけられたのだ。敵を倒した直後で気が緩んでいたのだろう。蹴りの衝撃で体が吹き飛び、イランドの死体の角に突き刺さった。というのがきっと真相。

 ダチョウが生きていたのはまったくの想定外。驚きのあまりヒグマを置いて逃げてしまった。ジャイアントホグウィードの茂みにとびこんで、毒まみれになっていたはずなのに、生きているなんてしぶとすぎる。ラブラドールの死に顔もどことなくびっくりした表情。

 戻って加勢すべきだろうか、と斜面に耳を向けて考えていると、こずえのなかからヒグマの声。

「一時撤退だ」

 青々とした大きな葉っぱが、はらりとひたいに落ちてきた。枝をかきわけて樹上から降りてきたヒグマが、どすん、と着地。チミセットのスキルを解除。鼻で縄張りの奥を示すと、やぶで隠れた道を選んで、影のなかを走り去っていく。

 仲間の死体に目を向けたゴールデンレトリバーは、ややあってヒグマの大きな背中を追った。

「ダチョウめ……」

 悔しさをにじませ、金の毛衣もういをきらめかせながら、昼であっても暗い森を駆け抜けていく。


 ここにくるまでのおおまかな経緯をダチョウから聞いたハイイロオオカミは、巨大な鳥の黒い翼を見やりながら、

「毒性植物の林を抜けてなんで無事なんだ」

「毒の状態異常にはなってたんだけどね。治った」

 あっさりと言ってのけるダチョウに、林檎りんご植物族ドリュアスが困惑の声。

「治るものなの?」

「私は、というかダチョウはね、自分で言うのもなんだけど、とっても体が強い。病気や毒への耐性があるし、怪我の自己治癒も早い」

「それは、自動で体力(HP)が回復してるっていう意味なのか。スキルもなしに」

 ハイイロオオカミの質問に、くちばしが縦にふられる。

「そうだよ。ふたりとも最近うちの群れクランにきたから、私の肉体アバターの詳しい性能なんかは話したことがなかったかな」

「初耳だ。すごいな」

「ダチョウはすごいんだよ」

 自画自賛。しかし、自分というより、ダチョウという動物そのものに対する誇らしさを感じさせる調子。

「それで、マーゲイはまだ生きてるんだな」

「別れたときは生きていた。いまがどうかは分からないけれど、樹上を移動するマーゲイに対して、木登りできないイヌはなかなか手出しできないだろうし、植物族ドリュアスに用心して進んでさえいてくれれば、まだ無事だと思うな」

 肉球をそっと林檎の木肌にあててみたりしながら、

「そうだな。あとは木登りができるヒグマに見つからなければ大丈夫か。いまから探すぐらいだったら、単独行動させておいたほうがいいな。……ダチョウは俺たちに合流してもらえるか。イランドとヌーがやられて草食が足りない」

「いいよ」

「ありがとう。しかし、だいぶ暴れられたな」

 戦闘の跡を見渡す。植物オブジェクトがまばらに破壊されて、イヌやクマの爪、ヌーやイランドのひづめの跡が地面に散乱している。

「こっちの被害はふたり。相手の被害はデン、ブル、シェパとドーベル、それからラブだな。体格差なんかを考慮すると、戦力的には妥当な結果か。事前に相手のスキルをもうちょっと把握できていれば、被害が減らせたと思うが、どいつもこいつも俺の知らないスキルを使ってきていたな」

「オオカミちゃんがリーダーをやっていたときにはなかったの?」

「ああ。時間差で実装されてるってのは聞いていたが、ダチョウが言っていたラブのクー・シーと、ゴルのかんのスキルはなかった。ヒグマの鬼熊のスキルは知ってたが、もうひとつ、長い腕の姿になるほうは初見だ」

「それはチミセットだね。悪魔という意味の未確認動物(UMA)だ」と、ダチョウ。

「物知りだな」

「イランドやブチハイエナには負けるけどね」

「シェパとドーベルに関しては、スコルとハティのスキルは前からあった。俺と同時期に実装されたんだ。それからハスキーだが……、戦っているところを見ていないから分からないな」

「とにかく用心するしかないってことね」と、林檎りんご

「そうだ。試合前の作戦会議で俺ができる範囲での情報共有はしておいたが、あまり情報としての価値はなかったと思ってもらったほうがいいな」

 言いながら、森の天井の枝の隙間から空を見上げる。くだりはじめた太陽に、ねっとりとした雲がまとわりついている。踏破ペースは悪くない。けれど余裕があるわけでもない。どこかで連絡役と接触してルートを調整したいが、目立つピンクの翼は見当たらない。フラミンゴ側から見つけてもらうためにも、伐採で道を広げておく必要がある。

「ダチョウ任せた。じっくり進もう」方向を定めて鼻先を向ける。

「任された」

 と、すぐにダチョウは大自然に立ち向かっていった。強靭きょうじんな足を使った草食属性の攻撃によって、次々と植物がとりはらわれていく。

「林檎ちゃんは樹列を固め気味で動いてくれ」

「はーい」

 ハイイロオオカミは鼻と耳をとがらせて、敵の気配をさぐりながら前に進んでいく。イヌはまだまだいるはずだ。ハスキーのことも気がかり。次に会ったときこそ問いたださなくてはならない。そして、ウルフハウンド。道を進んだ先で待ち構えているはず。言ってやりたいことは山ほどあるが、せっかくの群れ戦クランバトル。力でもってけじめをつけさせる。

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