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●ぽんぽこ13-45 風はまだ流れて

 真剣な表情のトナカイ。向かい合っているのはフラミンゴとヘビクイワシ。

「どうすれば、もっと偵察役としてうまく動けますかね。上達したいんです。ご指導ご鞭撻べんたつのほどよろしくおねがいいたします」

「これはわたしの持論だけど」と、フラミンゴ。「部外者にならないように意識することだね。情報を持ち帰るためとはいえ、戦闘に参加せずに観察にてっしてる機会も多いから」

「勉強になります」腰を低くしながら「伝達順だとか、偵察時の踏み込み具合だとかを、おふたりはどうやって見極めていますか」

「慣れだね。回数を重ねたらちょうどいいラインが分かってくる」

 ばっさりと言うフラミンゴの横からくちばしを出して、ヘビクイワシがフォローを入れる。

「偵察はお相手の種族の構成や地形によって変わるので知識が必要ですね。伝達順に関しては、情報の集積具合を大きさでとらえると分かりやすいかもしれません。情報は常に流動的で、個別に所有されているものです。誰がどの大きさの情報を持っているかを意識して、小さな情報しかないところには積極的に運び入れる。それと同時に、自分が持っている情報を大きく育てる、という具合です。あとは、自分以外の仲間同士で伝わる情報の流れを予測しながら動けるとよりよいかと」

「なるほど……。分かるような、分からないような」

 うなりながらもトナカイは今回の戦でよほど向上心が芽生えたらしく、熱心に質問を重ねる。

 フラミンゴはトナカイの体格であれば偵察役ではなく、戦闘要員のほうが活躍できるのではないかと思ったが、どうにも気質が後方寄りらしいので、やっぱり適役かもしれないと考え直した。

 そうして話し込んでいる一頭と二羽のところに飛び込んできたイタチたち。

「こっちくんなよ。くさいのがうつる。しっ、しっ」

 尻尾をふり乱して逃げているのはフェレット。白黄の細長い毛衣もういが草原のなかでぬるぬると走る。

「いいじゃーん。遊ぼうよー」

 追いかけるゾリラはじゃれつこうとしているらしく、スカンクに似た白黒の毛衣もういはずませている。

「きゃっ」ヘビクイワシがすらりと伸びた脚をたたんで後ずさる。フラミンゴも、「おっと」と、足元をぐるぐると回るイタチたちに体をぐらつかせた。

「元気ですねえ」

 トナカイが子供たちがはしゃぐ姿にほっこりとほほえんでいると、フェレットは冗談じゃないというように、そばにあった岩をのぼって、フラミンゴの背中に飛び乗った。

「飛んで!」

「なんでわたしが……」

「あんたのとこの仲間だろっ」

「分かったよ」

 しぶしぶというように、フェレットを乗せたフラミンゴが羽ばたいて空に飛びあがる。

「あーん」

 悲しげな瞳のゾリラがなげきながら、遠のいていくピンク色の翼を見送った。

「また遊ぶ機会はありますよ」

 ヘビクイワシがなぐさめる。泣き声に胸を痛めたトナカイが、

「私でよかったらお付き合いしますよ」

 言って枝角を下げると、沈みかけていたゾリラの顔が明るくなって、嬉しそうに角をよじのぼった。


 大河のように風が流れる中立地帯の草原の一角で、激しいいざこざ。

「いい加減かげんにしてよっ!」

 声を荒げているのは黒豚のアグー。

 鼻を突き合わせているのはペッカリー。

「決着がつかないままだとお互い気持ち悪いだろ」

 戦の終盤。ふたりがもつれ合っているうちに勝敗が決まっていた。

「お互い、って、そっちだけだろ」

 アグーが鼻を鳴らして、離れようとするが、

「じゃあ、おれの不戦勝だな」

 と、言われるとしゃくになって顔を戻す。

「押し合いで勝負するなら僕が勝つにきまってるだろ」

 体格は似ていても、体重で比較するとアグーのほうが倍以上は重い。

 群れ戦クランバトル中でなければ、お互いにダメージを与えることはできないので、勝負となれば押し合いしかない。純粋な力比べだ。重いほうが有利。

 ふたりのやり取りを横で見ていたアヒルとガチョウが止めにはいる。

副長サブリーダー。やめときなよ」

 バネのようなブタのしっぽをくちばしが引っ張る。仲間の声にアグーがすこし力を抜くと、隙ありとばかりにペッカリーが突きあげてきた。

「汚いぞ!」アグーの抗議の声。

「真剣勝負に汚いもなにもない!」

 というのがペッカリーの主張。見かねたピューマとカラカルが飛んできて、ペッカリーを引きはがしにかかる。そうして駄々だだをこねるみたいに暴れるペッカリーを二頭がかりで押さえつけた。

「落ち着かせとくから、いまのうちに向こうへ」

 ピューマが言うと、アヒルは「ありがとう!」と、ガチョウと一緒にアグーを引っ張っていく。アグーはちらりとペッカリーに目を向けたが、すぐに草原を駆けて去っていった。

 鼻息の荒いペッカリーに、ピューマとカラカルがのしかかる。

「頭に血がのぼりすぎ」

 カラカルがペッカリーのほほをざらついた猫舌でめる。つっぱっていたペッカリーの四肢しし徐々じょじょにやわらかくなり、草の上でだらんと伸びた。

「あいつはブタだ」と、けわしい表情のペッカリー。

「そりゃそうでしょ」

 カラカルは夜の闇に溶け込んでいる黒豚の肉体アバターに目を向ける。

「おれはブタじゃない」

「ペッカリーはイノシシ科じゃないんだっけか」

 大型のネコ科のピューマがペッカリーの頭の上で前足を交差させる。

「イノシシ科じゃないが、同じ猪豚ちょとんもくだから先祖は近い」

「なにが言いたいんだ?」

 夜に輝くネコたちの瞳がペッカリーのとんがった鼻づらに集まる。次の言葉を待つが、

「別に……」

 すっかりおとなしくなったペッカリーは黙りこくってしまった。ネコたちは顔を見合わせ、ブタでもイノシシでもないペッカリーの体を敷布団にして横になる。

 ――家畜、か。

 ペッカリーはぽつりと思い、ネコたちの毛衣もういを風よけにして、冷たい夜風に鼻先をこごえさせた。


 アグーたちが移動していると、ニワトリのブロイラーがいた。そばにはボブキャットとオジロヌー。

 黒豚が走り寄って、アヒルとガチョウも着地する。

「どもども。はじめまして。オイラはボブキャット。気軽にボブって呼んでね」

 気づいたボブキャットが真っ先に挨拶。

 試合で顔を合わせていない者同士が種族を名乗る。それが終わって輪になると、

「ブロイラーと邪眼談義してたんだ」

 ヌーが言うと、アグーが鼻にしわを寄せて、

「なにその怪しげな談義」

「戦闘内容をふり返るのに付き合わされていただけだ」

 迷惑そうな目つきのブロイラーが黄色いくちばしをとがらせて、赤い肉垂にくすいをぶるんとゆらした。

「それだけじゃなく、戦闘中のことを謝ったりとかもね」と、ヌー。

 初対面でバジリスクだのコカトリスだのとあおるようなことを言ってしまった。隠れている仲間オセロットに情報を渡さないと勝ち目がないと思ったからなのだが、死体状態で考えているうちに、だいぶ失礼だったな、という後悔が沸々ふつふついてきた。

「俺に比べれば、よっぽどお上品だったから、気にするな」

 律儀りちぎなやつだな、と思いながらブロイラーは長い尾羽を風にそよがせる。気遣きづかいに感謝して、ヌーは蒸し返さないことにすると、次は勉強熱心に立ち回りなどを聞いてきた。同じ邪眼使いとして興味津々という態度。

 あまり外との交流がないブロイラーは、教えをわれることなどいままでになかったので、若干当惑とうわくしながらもぽつぽつと答える。

 他の者も合宿のような雰囲気で話に加わり、意見をわした。

「ヴィゾフニルのスキルのほうは使わずじまいになっちまったな」ブロイラー。

 世界樹ユグドラシルのいただきむ世界を照らす雄鶏おんどり。その尾羽から武器レーヴァテインがつくられるが、レーヴァテインでしかヴィゾフニルが殺せないという矛盾をかかえていると言われている。

「もうひとつスキルを持ってたの?」ボブキャット。

「ああ」

「教えちゃうんだ」

 横からアグーが言うと、ブロイラーは無言でうつむいた。機嫌がいいんだな、とアグーは思う。

 ひと通り話をすると、次に遊ぶ約束をして、ヌーとボブキャットは同じ群れクランの仲間たちのところへと帰っていく。白い尻尾と短い尻尾がふられると、ブロイラーはツンと鶏冠とさかを高くかかげた。

 ホルスタインの群れクランの一頭と三羽が残ると、

「聞いてたけど、だいぶ活躍したみたいじゃん」

 アヒルが言ってブロイラーの羽をつっついた。

「ぼくなんて出オチだよ。電気銃ユルルングル強すぎ。初見であんなのかわせるわけがないよ」

「だが、アヒルがシロサイをほうむったんだろ。それだけでおつりがくる活躍だ」

 ブロイラーは他の仲間たちを見回して、

「お前らもよくやったみたいだな」

「まあね」ブウとアグーがほこらしげに鳴く。

 ガチョウはにやりと笑って、満足そうに夜に騒いだ。

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