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●ぽんぽこ13-39 思わぬ横やり

「死んでる」

 敵の本拠地近くに到着して早々、ダチョウがブチハイエナとリカオンの死体を見つけた。広々とした草原を渡った先にある小山のふもと。門柱のようなふたつの大きな岩それぞれに、よりかかるようにして体力(HP)が尽きた二頭の死体が置かれている。

 ライオンは渋い顔。オポッサムは同じような渋い顔に加えて、胸がつぶれたような表情をした。

狛犬こまいぬみたいに整えられてる。わざと見えるように置いたんだ。性格悪いよ」

 と、オセロットがけんのある声を出したが、まさしくそれは見せびらかすために配置されていた。


 ホルスタインから指示を受けたアグーは思わず聞き返した。

 死体を本拠地の入り口にかざる?

 地獄門じゃあるまいし。

 けれどホルスタインはやるべきだと主張する。

 最大の敵であるライオンを待たず、ブチハイエナとリカオンに対してテンジクネズミの子鼠玉こねずみだまの自爆を使わせたのも、かなり思い切った決断だった。だが、ジェヴォーダンの獣のスキルの強さをかんがみれば理解はできる。あとで使っておけば、なんて後悔があってはならない状況。

 威嚇いかく行為。戦意を削ぐための作戦。にしても残酷ざんこくに思える。特に片方の死体、リカオンはホルスタインの知り合い。時折、牧草地帯の近くにやってきて、ふたりで話し込んでいた。

 勝利に向けてホルスタインがたぎらせる並々ならぬ決意に、アグー、フェレット、ガチョウは全員、異議を差しはさむことなどできなかった。

 決意の前で情など不要。敵への威嚇ということだったが、むしろ味方の覚悟かくごうながす効果を期待していたのかもしれない。

 とにかくそれは実行された。敵二頭の死体を本拠地のふもとに運ぶ。その作業が終わったあたりで、新たな敵の襲来をガチョウが告げた。

 大物を仕留めたばかりだというのに、さらに大物。とはいえ次にくるのはこの相手だろうと分かってはいた。

 敵のリーダーライオン。

 それからダチョウ、オセロットもいる。

 おそろしいのは、この相手を倒せたとしても、まだ後続がいるということ。ずいぶん前にボーダーコリーが遭遇そうぐうしたというハイイロオオカミの足取りがまったくつかめておらず、いつ介入してきてもおかしくはない。

 心が休まるひまがない。

 ブウとブタの肉体アバターに気合を込める。バネのような尻尾をびよよんと跳ねさせる。

「いくよ」

「やっちゃおう」フェレットの無鉄砲さがいまはありがたい。

 ホルスタインがモーと鳴いたのを合図にして、アグーとフェレットはゴールから離れて小山のふもとへと駆け下りていった。


副長サブリーダーたちがやられるなんて」

 信じられないという響きのオセロットの声。

「ダチョウ。敵はどうだ」

 ライオンに言われて、大きな瞳がゴールの光柱あたりへと向けられる。

「ゴール前にホルスタイン。アグーとフェレットがこっちにきてる。あとは空にガチョウ」

 ということはテンジクネズミ一体を倒しただけで、ふたりは返り討ちにあったということだろうか。

「なかなかやる相手のようだ」

 態度は余裕たっぷりにしながら、キツネはあせりを感じる。

「やるかい?」

 ダチョウに言われて、まだだ、と答えそうになったが、それをこらえて「いくぞ」とうなずく。時間稼ぎで事態が好転するとは思えない。こうなればダチョウ、もしくはオセロットに早急にゴールを踏んでもらおう。

「ぼくはどうすればいい」

 そういえばオポッサムの役割をきちんと決めていなかった。

「ダチョウの背中に乗ったまま草原を越えたら、あの小山の岩や植物にまぎれ込め。迂回うかいしながらゴールを目指すんだ」

「分かった」

 小動物の小回りのよさが勝負を決めることもある。

 ライオンが号令の咆哮ほうこうを響かせようと口を開ける。

 喉奥がふるる直前、前足が前へ。右、左。

 肉体アバターが勝手に動き出したライオンは、しゃっくりみたいに空気をみ込む。

 地団太じだんだを踏んで草をひっかくが、前進は止まらない。

 ライオンの横を通り抜けて、ダチョウが草原を駆け出した。その背中ではオセロットとオポッサムが身を寄せ合って、白黒の羽衣ういにしがみつく。

既視きし感だ」

 と、ダチョウがこぼす。オポッサムにも覚えがあった。スイセンの植物族ドリュアスのスキル。黄色い花にいざなわれてダチョウがきつけられていたとき、その背中にはちょうどいまみたいにオポッサムが乗っていた。

 小山を駆け下りたアグーとフェレットが草原のなかに飛び込んだ。

「ダチョウ。狙われてるぞ」

 オセロットが爪をいかり代わりにして踏ん張りながら足元に目を光らせる。

 黒豚アグーとフェレットは、片耳豚カタキラウワとかまの手を持つ疾風妖怪、鎌鼬かまいたちの姿になっている。いずれも目指すのはダチョウの元。

 疾風のごとき速さで草を寸断しながら野を駆ける切り込み隊長の鎌鼬かまいたちが、早速ダチョウと接敵。

 居合抜きのようなするどい一太刀。カマキリのように両手がかまになったイタチ。刃を浴びせた敵に裂傷の状態異常を付与する効果。正面からくる敵を、ダチョウは跳躍ちょうやくして回避。鳥類最大級の肉体アバターを陸上動物屈指の速度で走らせる脚は非常に強靭きょうじん。幅跳びだってお手の物。

 鎌鼬かまいたちの頭上をやすやすと飛び越える。かと思われたが、その瞬間、フェレットの体が膨張ぼうちょう。ワイバーンのスキルに肉体アバターを切り替える。翼を持つ巨大フェレット。

 急に背が高くなったハードルにダチョウの足がひっかけられる。けれども太い二本指を、ぐっ、と押し込んで、ワイバーンの毛衣もういを蹴りつけ、二段ジャンプ。

 ワイバーンはあごから地面に押しつけられる。ダチョウはカンガルーのような見事な跳躍ちょうやく。そうして着地を決めようとしたが、そこにはアグーが待っていた。片耳豚カタキラウワが股の下をくぐろうと狙っている。

 オセロットが飛び降りて応戦しようと体を浮かせる。

 けれど、ダチョウの背中から離れる寸前、横から飛び出してきた影を見て踏みとどまった。

 アグーではないブタがもう一頭。それは、よく見るとイノシシのようだ。だが、イノシシとは別の種であることをオセロットやダチョウたちはよく知っていた。

 横やりの突撃を受けた黒豚の体が吹き飛ばされる。

 上空からガチョウがその存在を知らせてはいたのだが、目の前の戦いに集中していたみなの耳には届いていなかった。

 ダチョウが駆け抜ける。背中にオセロットとオポッサムを乗せて。フェレットは再び鎌鼬かまいたちのスキルを使って加速すると、巨大な鳥の後を追う。

「ペッカリー!」転がっていたアグーが身を起こした。「どうやって脱出を!?」

「教えてやる必要があるか?」

 いどみかかる。ブタ鼻同士がこすれあう。ほぼ同等の体長のふたり。けれどアグーのほうがでっぷりとしていて、重量がある。押し合いにおいては重いほうが有利。しかしペッカリーは重量差など関係ないと言わんばかりの、不屈ふくつの暴れっぷり。

 アグーがのがれようとするが、どうやっても絡みついてくる。

「しつこいよ!」

 みついてやるが、ペッカリーは平気な顔。再生肉セーフリームニルのスキルで自己再生し続けている。死なない肉体アバター。股をくぐって即死させられれば倒せるかもしれないが、イノシシより四肢ししが長めのペッカリーとはいえ、ブタ一頭が通るにはその股下は狭すぎる。

「あのときはよくもやってくれたな!」ペッカリーがえる。

「戦いの結果はお互い様だろ!」

「おれをコケにしやがって!」

「してない! コケコッコーなら間に合ってるよ!」


 ペッカリーは仲間たちと一丸いちがんとなってフタコブラクダのレッドゴーストと戦った地で、味方のジャイアントイランドの死体に下敷きにされて身動きがとれなくなっていた。巨大鷲フレスベルグのスキルを使うイヌワシが空からイランドを落としてきたのだ。

 セーフリームニルのスキルによって体力(HP)が尽きないペッカリーはそのまま敵に放置された。

 じっと仲間の死肉の下で身をせながら、怒りをコトコトと熟成させる。こんな扱いを受けて放置されるのは侮辱ぶじょく以外のなにものでもない。相手からすれば死なない敵の相手などしていられないのだが、そんなことは想像もしなかった。

 鳴き声のように、くそう、くそう、と、くり返していると、夜も近くなった頃になって、乾いた奇岩地帯の赤茶けた草原に、ハイイロオオカミと林檎りんご植物族ドリュアスがやってきた。

 助けを求めると、ハイイロオオカミは骨折などの重篤じゅうとくな状態異常におかされた肉体アバターでフェンリルのスキルを使い、ライオン四頭分ほどの超重量を持つジャイアントイランドの死体を苦労しながらもどけてくれた。

 同行しないかと誘われたが、ペッカリーは断って走り出した。

 全速力でもってゴールまで駆けた。

 途中でヘビクイワシに状況を教えてもらった。そこでアグーが敵本拠地にいることを知った。イヌワシやボーダーコリーはすでに倒されていて、それはすこし残念な情報であった。

 ビスカッチャにも会ったが無視してやった。

 そうして到着したのが、ちょうどライオンやダチョウが動き出したタイミング。ペッカリーはホルスタインのスキルで誘引されつつも、斜めに走ってアグーに向かってぶつかっていったのだった。

 いまもクレタの牡牛のスキル効果で肉体アバターが引っ張られてはいる。しかし、アグーよりもペッカリーのほうが本拠地に近い位置。アグーはダチョウを追いたいが、その前方をペッカリーがふさいでいる。

「通さん!」

 殿しんがりの位置で張り切っているペッカリーに、アグーはブウと溜息。

「やばい奴に粘着されちゃったなあ」

 通す通さないの関係性が逆転している。自分の本拠地に戻るのを、敵にはばまれている。

 こうなればペッカリーの相手をしてやるしかない。疲れ知らずの子供の相手をするようなものだが仕方がない。自分は戻れないが、なんとかゴールを守り切ってくれ、とアグーはホルスタインに気持ちをたくすことしかできなかった

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