表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/466

●ぽんぽこ13-31 藪のネコ

 そろりそろりと身を低くして野原を横切るボブキャット。ネコ科らしい静かな歩きで、ヌーの死体を横目に見て、悲しげな表情で通り過ぎる。

 夕日と夜とが混ざり合って、マーブル模様に染まる大地。ひらべったい禿げた草原に、イボのように点在するやぶ。そのひとつに頭を突っ込み、目当ての顔を見つけると、泣き笑いのような表情。

「よく無事だったね。よかった」

 そこにいたのはオセロット。体力(HP)が減りすぎて動けない状態だったので、やぶのなかで待機して、ヌーとボブキャットがピスタチオの植物族ドリュアスを見つけてくれるのを待っていたのだった。

「ボブ。そっちこそよく見つからずにすんだね」

「ヌーのいななきが聞こえたから、すごく用心して戻ってきたんだ」

「わたしのほうもヌーが気をそらしていてくれたから助かった」

 ボブキャットの口にはピスタチオの枝がくわえられていた。ほのかに赤に染まったエメラルド色。親指の先ほどの果実が鈴なりにぶら下がっている。

 やぶのなかからオセロットがい出る。オセロットよりほんのすこし小さな体のボブキャットがやぶのはじっこを前足で押さえて、出やすいようにと手伝った。

 ネコ科のふたり。ボブキャットのほうがふっさりとしてまるっこく、オセロットはしなやかな印象のある体つき。模様はオセロットははっきりとした美しいヒョウ柄で、ボブキャットはあわいブチ模様。耳はボブキャットのほうがとんがっており、こちらにだけ耳の先に筆のような飾り毛がついている。

「もらってきたんだ」

 ピスタチオの枝が差し出される。受け取ったオセロットはさっそく果実をカリコリと食べて体力を回復。全快とはいかないが、それなりに動けるぐらいには持ち直した。ただし、レッドゴーストとの戦いで付与された打撲だぼくの状態異常が尾を引いており、肉体アバターの操作にはぎこちない部分が残っている。

「なにがあったの?」

 ボブキャットの短い尻尾と、オセロットの長い尻尾が横に並ぶ。

 オセロットはやぶに隠れてすべてを見ていた。ヌーが色々と聞き出して、大声でしゃべってくれていたおかげで、敵のおおまかな情報を知ることもできている。

 相手はブロイラーと、偵察役のガチョウ。そしてブロイラーが使う神聖スキルの正体はバジリスク。

「バジリスクって?」

 初耳というようにぽかんとするボブキャット。オセロットも神話、伝承に詳しくないので、バジリスクという怪物についてここで知った以上のことは分からない。

 やぶに乱された毛並みを舌でめて整えながら、

「だいたいニワトリのままなんだけど、コウモリのを分厚くしたみたいな羽に、ヘビみたいな尻尾をしてた。ヌーによると、カトブレパスと同じで目を合わせると発動する効果があって、目を合わせている相手にダメージを与えるみたい」

「目を合わせなければ大丈夫?」

「たぶんね。カトブレパスみたいな行動阻害はないけど、遠距離攻撃できるって感じのスキルなんじゃない?」

「ふーん。似たスキル。相互そうご互換ごかんってやつかあ」

 ボブキャットは頭を働かせて顔をくしゃくしゃにしながら、

「ブロイラーたちはピスタチオのところにいったんだよね」

「そう。ピスタチオを処理するってさ」

「助けにいく? 勝てそうな気がする」

 ほほの毛をふくらませたボブキャットにオセロットが驚く。

「あんたがそんなことを言うなんて。嵐でもくるんじゃない?」

「どういう意味だよう」

 ふんっ、と鼻息も荒く、

「目を合わせなけりゃいいだけなんでしょ。オイラたちふたりがかりだったらニワトリの一羽ぐらい……」

「ニワトリじゃなくてバジリスクって考えておいたほうがいい。敵を甘く見ちゃいけないよ」

 妙にいきり立っているボブキャットをいさめながらも、確かに一理あるとオセロットは思った。

 ヌーが負けたのは相性が悪すぎたからだ。己のスキルの条件を満たすために、わざわざ自分から相手の瞳をのぞきにいってしまった。飛んで火にいる夏の虫。夏も虫もよく知らないが、そんな言葉があるらしい。まさしくカトブレパスとバジリスクの戦闘をあらわすような言葉。

「ボブ。あんたやれるの? わたしは本調子じゃないから、あんたが頑張らなきゃいけなくなるよ」

「やるよ。やる。やらなきゃね。バジリスクを倒して、ピスタチオを助けて、オセロットをもっとちゃんと回復させなきゃ。枝一本しかもらってこなかったし」

 なんだ心配してくれてるのか、とオセロットはすこし笑って、それからボブキャットの視線の先にヌーの死体を見つける。ヌーがやられたのを気に病んでもいるのだろう。ボブとヌーはよく一緒にいる仲。オジロヌーの白い尻尾を猫じゃらしがわりにして遊んでいる、というか遊んでもらっている。

「うん。よく言った。やろう」

 ばしん、と背中にネコパンチを受けると、ボブキャットは「へへへ」と照れたように首を引っ込める。

 オセロットは傷んでいる肉体アバターの具合を確かめるように、背中をそらして尻尾の先までをピンと伸ばした。

「ああいう感じに視線に効果判定があるスキルはゴール地点に居座られるとめちゃくちゃうざったいから、ここにいるうちに倒しちゃうのは結構大事かもしれない。ピスタチオのところに案内して」

「ようし。やるぞ」

 気合を何重にも入れてボブキャットが早足に歩き出す。

 けれど平原を横切る途中、ヌーの死体のそばで一度立ち止まり、悲しそうににおいを確かめた。体力(HP)ゼロのにおい、ただよってくるのは死臭。くよくよしかけてると、オセロットの頭で肩で押されて、またしっかりと足を動かす。

 夜は近いようで遠い。じっくりともったいぶるように夕日が地平線に沈みこんでいく。

 二頭のネコは影を長く長く伸ばしながら、敵を討つため道を急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ