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●ぽんぽこ13-25 御前のブタ

 太陽が地平線に触れて、反対側の地平線から月がのぞく頃。

 見通しのいい林を進んでいたライオンたちの元にヘビクイワシがやってきた。レッドゴーストとの戦闘結果を報告。撃破はしたが、敵の増援によりジャイアントイランドは倒され、ヌーたちは逃走中の模様。最後まで見届けることができない状況だったので、敵味方の被害の程度については未確定。

 フラミンゴも戻ってくる。ハイイロオオカミの現状。オオアナコンダとイヌワシが相打ちで果てている現場を確認したこと。その他、雑多な報告がなされる。これはヘビクイワシのほうにあらわれたイヌワシの動きの補足となった。

 細いこずえを透かした先の夕暮れ空には敵のトナカイ。スキルを使って空を飛び、ライオンのパーティの動向を監視し続けている。

 盗み聞きされないように声をひそめながら伝達でんたつを終えると、ふたりは長居をせずに飛び去った。空の巡回へ。鳥たちにとって厄介だったイヌワシが倒れているので、すこし大胆に姿をさらして飛んでいく。

 すみのような夕闇が雲に染み込んでいく。

 上空にいるトナカイが、一定だった高度からずれて浮上。気づいたリカオンがくしゃみをして合図。くしゃん、と響くと、ライオンとブチハイエナは視線だけをすべらせて、速度は変わらず進み続ける。リカオンの背中におんぶしてもらっているオポッサムは、ぎゅっと緊張したように体をちぢめた。

 トナカイに監視されながら、リカオンは逆に相手を観察してもいた。

 近づいてくる者の存在を察知すると、トナカイは決まって高度を上げる。視界を広く確保したいという意識のあらわれなのだろう。さきほどのヘビクイワシやフラミンゴ、見張りの交代でガチョウがきたときにも同様の行動をおこなっていた。

 だれかがくる、だれがくる、と考える。

 ヘビクイワシ、フラミンゴは立ち去ったばかり。ガチョウはすこし前にトナカイと交代して本拠地のほうへと帰っていった。それ以外。ライオンの群れクランで、いまこちらに向かっている者はいないはず。残る可能性は敵。敵がなにかを仕掛けてくる兆候ちょうこう

 伸びやかな曲線をえがく枝角の表裏に夕日と月明かりを受けるトナカイは、仲間に位置を知らせ、呼び寄せる灯台の役割を果たそうとしているかのようだ。 

 ――分かりやすいんだよな。

 と、リカオンは思う。

 トナカイからは群れ戦クランバトルに慣れていなさそうな雰囲気がひしひしと伝わってくる。敵を見るばかりで、自分がどう見られているかまでは気が回っていない。

 連絡役がもたらした情報の端々からも同様の印象を受ける。

 不利でも戦う勇気は感じる。意気込み、気持ちは、かなり強い。しかし、気持ちだけが前に出すぎていて、ざっくりと評価するなら、まとまりがない。

 サバンナの面々も今回の試合ではかなりバラけた陣形で戦ってはいるが、バラバラでありながらも、それぞれが細い糸でつながって連携れんけいをとっている。ホルスタインの群れクランの糸はこんがらがっている。戦闘要員が足りていないのだろうが、それにしても配置にムラがありすぎるのが気になる。

 ――偉そうなことばかり考えてると、足元をすくわれるな。

 相手に意識が向きすぎているのは自分も同じ、と自制して、リカオンは鼻と耳に感覚を集中させる。風上の方向から動物たちのほのかなにおいがただよってきた。加えて草を踏むちいさな足音が複数。三頭ぶん。

 ほどなくして、予想通りに敵がきた。

「そこで止まれ!」

 リカオンが先制して警告を発する。

 木陰の濃淡のうたんにぬるりと毛衣もういをなでられながら姿をあらわしたのは、黒豚アグー、牧羊犬ボーダーコリー、イタチのフェレット。中型から小型の動物たち。

 お互いの声が届くギリギリの距離で立ち止まってにらみ合う。

 ライオンを護衛ごえいするようにブチハイエナとリカオンが一歩前に出る。その直前、オポッサムがリカオンの背中から飛び降りて逃げ去ったが、それに気を払う者はだれもいなかった。

 三頭と三頭。

 頭数が同じでも、その対格差はあまりにも激しい。

 黒豚たちのパーティで最も大きな肉体アバターはアグー。次いでボーダーコリー。一番ちいさいフェレットの体長は、人間の腕のひじから指の先までぐらい。

 対して、ライオンのパーティで一番ちいさなリカオンの体長が、すでにアグーよりもすこし大きい。白黄黒のあらいブチ模様の毛衣もういに、大きな丸耳がトレードマーク。ブチ模様に丸耳なのはブチハイエナも同じだが、こちらの模様はもっとはっきりとした黒の点々。さらにはリカオンより二回りほど大きく、力強い体躯たいく

 空にいるトナカイならばブチハイエナの体格にも勝るが、それでもライオンには負ける。ライオンは立派な体に雄大ゆうだいなたてがみが相まって、より巨大かつ威風堂々として見えた。

「すご。強そう」

 と、フェレットが王の威厳いげんを前にして思わず声をもらす。

「僕もじかにライオンを見るのははじめて」

 だいぶん距離があるにも関わらず、ボーダーコリーの腰は引けている。

 あいさつ代わりの王者の咆哮ほうこう。ごおお、といさましい声が響くと、林の樹々はこうべれるように風でかしいで、萎縮いしゅくしてこずえふるわせた。

 すくんだアグーは、ぐっと足の裏に力を入れて気を落ち着ける。鼻で大きく息を吸うと、並ぶ三頭の猛獣に向かって呼びかけた。距離があるので音量を上げてスピーカーを鳴らす。大通りの向かい側の道にいる知人に話しかけるように、

「どうも、お久しぶり」

 アグーはホルスタインと一緒にオアシスの会議に出席していたので、この場の敵全員と面識がある。

「ああ」と、ライオンが応じて、

「なんの用だ? まさか俺様と一戦まじえようってつもりなのか?」

 たてがみが風におどり、あわただしい影絵が地面をいずった。

「そのまさかだよ。すこし胸を借りたいんだ」

「だいぶ活躍しているようだが調子に乗りすぎないことだ。挑発で言っているんじゃあないぞ。ひよっこへの忠告だ」

 ここが戦場だからか、オアシスで会ったときとは違う、強い圧力をライオンから感じる。

「ありがたい忠告だけど、僕はニワトリじゃない」アグーはブロイラーを思い浮かべた。ヒヨコの肉体アバターは見たことないが、赤と白のニワトリとは違って輝くような黄色らしい。

「なら、こぶたっこへの忠告だ。退け」

「そういうわけにもいかないんだ」

 がんとして動かないつもりのアグーたちに対して表情を変えることなく、ライオンは後ろに下がって、背を向けた。

「任せる」

おおせのままに」

 ブチハイエナがうやうやしく鼻先を下げて、林の樹々のあいだに消える王を見送る。

「逃げるのか!」

「どう受け取るかはご自由に」

 余裕たっぷりに笑うブチハイエナに言われると、アグーの心にはちくりとちいさなとげが刺さった。相手にもされないとは思ってもいなかった。相手は引き金に指すらかけなかった。自分たちが矮小わいしょうな動物であることを突きつけられた気分になる。

 そんななか、一番頭にきていたのはフェレットだった。細長い体をうねらせて、草をかき分け駆け出した。遠のいていくゆれる尻尾の、ふさに向かって疾走する。

 愚直な突撃。たやすく通してもらえるわけはない。

 立ち塞がるブチハイエナとリカオン。ちいさなイタチに獰猛どうもうな牙をき、爪でもって引き裂かんとする二頭が、開戦とげる甲高いの鳴き声を発した。

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