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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第二部 たそがれ異界
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20 有馬たつき

 有馬たつきは不思議な少女だった。


 物腰や言動はいつもどこかふわふわしていて掴み所がなく、現実的で何かとはっきりしている初瀬とはおよそ正反対の性格だったと思う。


 何を考えているのかよく分からない娘――というのが初瀬が抱いた最初の印象だ。


 目は初瀬を見ているものの、焦点がはっきりしないのだ。初瀬を見つめながら、実際は心ここにあらずというか、もっと遠くの何かを眺めているみたいな感じがする。何となく眠たそうな風にも見えるし、と思うと不意に物事の本質を突く様な鋭い指摘をする事もある。


 総合するとやっぱりよく分からない、という結論になる。


 それでも、二人は意外と気が合った。


 たつきはこんな風だからあまり友人といえる人間がいなかったので、昔から面倒見がよかった初瀬が何かと気に掛けていた。


 ある時、たつきが初瀬の顔をじいっと見つめている事があった。


「どうしたの?」


 初瀬は戸惑いながら尋ねた。


「初瀬の髪って、とっても綺麗だなあって思ったの」


「そう、かな――」


 初瀬の髪は色素が薄く、鳶色に近い。信憑性は怪しいが、母方の遠い先祖が伊太利の宣教師で、その血統によるものだとか聞いた事がある。後ろから見れば、外国人と間違えられた事すらあるこの髪を、初瀬自身はあまり好んではいなかった。


 周りの子供達と明らかに違っていて浮いているし、それがために馬鹿にされる事もあった。もっと幼い頃には自分で鋏を使って刈り上げようとした事すらある。その時は母に物凄く怒られたけれど、それ以上に、母が悲しそうにしていた事が印象に残っている。


「うん。素敵だと思う」


 たつきはあっさりと頷いた。本人にしてみれば、何の他意もなく思った事をただ口にしただけかもしれない。だけど初瀬はたつきのこの言葉で、ずっと嫌いだった自分の髪について、初めて悪くないかもしれないと、そう思えたのだ。


 たつきは嘘や世辞の言える種類の人間ではなかった。人と話をするのが嫌いなわけではないが、思った事を訥々と喋る事しか出来ないのだ。


 だからだろうか。たつきの言葉は、たどたどしくもいつも初瀬の胸に響くものがあった様に思う。この時のやりとりは、たったこれだけの事だったけど、初瀬の心に深く残っている。


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