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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第二部 たそがれ異界
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17 殺意

「なら、この女の子は出来損ないじゃあないのね」


 そう言ってケースの中の少女をちらりと見る。思案げにやや俯いていた男が初瀬の言葉に顔を上げた。


「これを獣か化け物だとは、思わないだろう?」


 そう呟いて、無造作に初瀬の元に歩み寄ってくる。初瀬は反射的に鋏に手を掛けそうになったが、堪えた。男の視線は、初瀬の後ろの少女に向いている。


 まだだ。まだ早い。真正面から挑みかかる形になっては駄目だ。男の死角から、出来ればさらに何かに気を取られた瞬間に。


 間違いなく、黒衣の男は初瀬を侮っている。用心棒の牛之助を虫の息にした時点で、初瀬達に手段はないと楽観している。


「まだ未完成だが、世界を変える可能性を持っている」


 男は初瀬の傍らにまで歩み寄り、ケースの中の少女を見つめながら言った。


 近づいてきた男の背丈は思ったよりも高い。牛之助程の高さではないが、鋏で目を突こうとすれば多少無理な体勢を強いられる。それに今は初瀬の方を向いていない。ならば、首か?


 ――私はこの人を殺そうとしてる?


 非日常の異様な状況がそうせているとはいえ、今まで考えた事もないような恐ろしい行為を企てている自分に怖気が走る。


「アダムの肋骨から生まれたイヴ――と言っていたわね」


 頭の芯が痺れた様になっている。心臓が破裂しそうな勢いで脈打つ。


「なら、この人は――貴方が朋惠さんから盗んだ肋骨から生まれたのかしら?」


 ぴくり、と男が初瀬の言葉に反応する。


 ――今だ。


 素早くポケットの中の鋏を握りしめる。親指のあたりの感触から逆手に持っているらしいと認識、そのまま居合いの様に鋏を抜き打ち、男の青白い首筋目掛けて突き立てた。


 男は初瀬が最後に放った言葉に一瞬気を取られ、初めて動きを見せた初瀬への反応がほんの少しだけ遅れた。男が振り返り初瀬の方を見る。しかし振り下ろされた鋏は、寸分過たず、既に男の首筋まで迫っていた。


 鋭い刃先が男の首にめり込み、突き刺さる。やった、と思った瞬間に、しかし鋏が刺さった感触が初瀬には伝わらなかった。男の首に刺さった鋏は何の触覚も残さぬまま肩口まで突き抜け、そして空を切った。


 まるで蜃気楼に鋏を突き立てようとしたかの様に、初瀬の一撃は空振りした。


 ――と、通り抜けた?


 勢い余ってつんのめり、男の姿を見失う。


「そんなものを隠していたとはな。油断も隙もない。まあいい、もう死ね」


 背後から男の冷えた声が聞こえた。


 失敗した。何が何だか分からないがそれだけははっきり分かる。


 勢いが止まらずそのまま床に倒れこんだ瞬間、今度は凄まじい咆哮が聞こえた。


 それは初瀬のよく知る声だった。


 ――牛之助さん!


 振り返ると牛之助が唸りをあげながら鬼の形相で、こちらに突っ込んで来ていた。初瀬の一撃が外れたのを潮に、残る力を振り絞ったのだ。


 男がちらりと牛之助に目を向ける。


「駄目よっ!」


 初瀬が叫ぶとの牛之助が殴りかかるのが同時だった。


 牛之助の拳が男の額をすり抜けた。今度ははっきりと見た。驚愕と勢い余った牛之助は初瀬と同様に体勢を崩し前方に倒れ込みそうになる。


「なかなか頑強だ。ふむ、この男の身体は使い道がありそうだ」


 そう言った瞬間、男の足下から影が放射状に伸びた。

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