7 行方不明
辻占を行っているのは両親にも内緒なので、儲けをそのまま家に入れる事は出来ないけど、その金で教科書を買ったり将来の為の貯金にしたり、好物のチョコレートを買ったりしている。
「あ、あの迎さん――ちょっといいかな?」
「あら、繭ちゃん」
友人の伏見繭子が初瀬に声を掛けてきた。長い黒髪を緩い三つ編みに結んだ、小柄な少女だ。彼女自身の背丈と同時に、物腰も誰に対してもおずおずとしていて、臆病な小動物の様な印象を周囲に与える。
見た目通りに引っ込み思案の彼女が自分から他人に声を掛けるのは珍しいので、初瀬は少し不思議に思った。
「どうしたの?」
「迎さんは今日はずっと隣のクラスが気になっているみたいだけど、どうしたのかなって」
繭子は少し頬を赤らめつつ、恐る恐ると言った風情で尋ねた。しかもその内容は初瀬が全く予期していないものだったので、思わず泡を食う。
「ちょ、ちょっと! どうしてそれを――」
「ご、ごめんなさい。休み時間の度に二組の教室の前をうろうろしているから気になって――」
「う――」
ずばり言われて初瀬は言葉に詰まる。初瀬がそういう行動を取っていたのは事実なのだが、まさか見られていたとは。この娘は暇人なのだろうか。
何か言い訳を考えようとした初瀬に、まるで秘密の話でもある様に繭子は声を潜めて言った。
「それでね、もしかして、気になるのは西村朋惠さんの事じゃないかなって」
「えっ!」
そこまで言い当てられて、初瀬は思わず素っ頓狂な声を出した。初瀬の反応に、繭子は慌てた様に人差し指を立てて「ちょ、ちょっと静かに!」と言った。
「やっぱりそうなんだね」
繭子は合点が行った様に頷くが、初瀬はわけが分からない。
「どうしてそれを――」
初瀬は半ば観念して、繭子に理由を尋ねた。しかし繭子は眉間に皺を寄せて、何だか難しい顔をしていた。
「実は今朝、警察の人に声を掛けられたのよ。迎さんも、そうなんだよね?」
警察だと?
「え、ええ。そう、そうなのよ」
そうではないし事情もまるで呑み込めないが、初瀬は何度も頷いた。わけが分からないが、これに話を合わせれば誤魔化す事だけは出来そうである。初瀬のその反応に、繭子が「やっぱり――」と憂鬱そうに溜め息を吐く。
「朋惠さんね、昨日家に帰っていないそうなの。学校から家に帰ってくるまでの間に行方知らずになったって。それで警察の人が捜査をしているみたいなの」
初瀬はまたもや声を上げそうになったが、今度は辛うじて持ちこたえた。
――朋惠さんが、家に帰っていない?
黄昏時の浅草で、初瀬は朋惠に会っている。そして立ち去る姿までしっかりと見た。五〇銭を握らされた時の掌の感触を今でも覚えている。
朋惠の語った内容は甚だ異常ではあったけど、少なくともあの時点では朋惠は元気そうにしていたし、話の流れからしてあのまま真っ直ぐ家に帰ったものとばかり思っていた。
まさか、あれから朋惠の身に何かが起こったのか?
「私は朋惠さんとお友達だから、昨日は一緒に下校したの。でも彼女、何か用事があるって言うから途中で別れたんだよ」
その用事とは、おそらく初瀬に失せ物探しを依頼しに行く事だろう。もしかすると、朋惠に最後にあったのは初瀬という事になるのかもしれない。
「夜遊びする様な娘ではないし、あれから何かあったのかもって思って――。あ、あの、迎さんは、何か心当たりとか、ないかな?」
繭子は芯から心配そうに、初瀬に尋ねた。




