6 夢
暗い街を歩いている。赤い月が照らす暗闇の小路。周囲の建物のほとんどが壊れていて、無残な瓦礫の山と化している。余震が起こる度にがらがらと何処かで何かが崩れる音が聞こえる。
人の気配はない。先程まであった逃げ惑う人々の喧噪の響きが耳に届く事はなかった。
「ここは、何処なんだろうね」
傍らから何だか懐かしい声が聞こえて、初瀬はそちらの方を向く。
有馬たつきが不安げに辺りを見回していた。
分からないわ、と初瀬は答えた。
ついさっきまで、自分達は浅草の下町にいたはずなのだ。ちょうどお昼に何を食べようか話をしていた所、世界が揺れた。
あちこちから火の手が上がりだして、初瀬とたつきは必死で安全な場所を探して逃げた。
そして気がついたら、ここにいた。
まだ昼時だったはずなのに、辺りはすっかり暗い。
夜だ、と思うほかない。
分けが分からないけれど、そうした場所に自分達はいるのだ。
ここは帝都なのだろうか。
「皆、大丈夫かな――」
少し震える声で、たつきは言った。よく見ると声だけでなく、身体も小さく震えていた。
怯えているのだろう、と初瀬にはすぐに分かった。
無理もない事だ。自分だって怖い。
だけどこんな状況なのに、他人の心配をしているのがたつきらしいなと思ったら、気分が少しだけ落ち着いた。
だから、大丈夫よ――とだけ言った。
そして、たつきの手をぎゅっと握った。
たつきの手はひんやりと冷たかった。
離さないでね、と初瀬は言った。
「うん」
たつきは小さく頷いた。震えは止まっていた。
「離さないでね」
たつきもそう言った。
同じ言葉だけど、初瀬が言ったのとたつきが言ったのとでは少しだけ意味が違っていて、その違いが分かるから初瀬は出来る限り力強く答えた。
離さないわ。
絶対に、離さないから。
そうして二人は再び、壊れた夜の街を歩き始めた。
×××
机の上に肩肘を突いてうとうとしていた初瀬は、がくりと姿勢が崩れて白昼夢から醒めた。
――またこの夢、か。
奇妙な街角にたつきと共に迷い込む夢。二年前からずっと、初瀬はこの夢を見続けていた。とはいえ昼間から見るのは稀な事だ。
理由は分かっている。朋惠の語った奇妙な体験と、話に夢中になったあまりに易者の演技を忘れてしまった事が気になって、昨夜ろくに眠れなかったせいだろう。
初瀬は机に頬杖をついたまま、憂いげに溜め息を吐いた。隣の組にいるであろう朋惠の様子を窺いたいが、声をかければ今度こそ確実に初瀬が放課後に浅草で辻占をしている事が知られてしまう。
――まあ、もうバレているのかもしれないけど。
本来、初瀬の家庭は父が商社の社長だという事もあり、それなりに裕福ではあった。しかし先の大震災で工場が全壊してしまい、暮らし向きには一気に苦しくなってしまった。
それでも何とかこうして女学校に通わせて貰っているだけ、随分マシな方ではあるのだろうけれど、金銭面において極力家計の負担になりたくないという意識が初瀬にはあった。
そこで始めたのが自分の能力を活かした失せ物探しだったのだ。




