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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第二部 たそがれ異界
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序章

 研ぎ澄まされた刃の先には既に血が滴っていて、それに映った私の顔も赤い色をしていた。


 私は刃先をハンカチで拭って血を払うと、傍らで眠っている少女に目を向けた。


 その少女は全てが白かった。髪も、肌も、着ている服も――この少女だけ、色という概念が存在しないかの様に、全てが褪せてしまっていた。


 呼吸をしているかどうかも怪しい。もう屍蝋になってしまった死体か、さもなければ蝋人形だと言われれば、そのまま信じてしまいそうだ。


 それくらい、この少女には生命感がなかった。 


「本当に生きてるの?」


 呟く様に尋ねるが、返事はない。


 今この場で目を覚ましているのは私一人だけなのだから、当然の事だ。


 ――生きている。


 代わりに、頭の中に声が響いた。今の私の中には、私とは別の存在が住んでいてそれが時々話しかけてくるのだ。


「そうは見えないけれど」


 ――彼女はずっと、こうなんだ。


「ずっと――」


 気の遠くなる様な年月を、白い少女はこうして眠っているのだそうだ。


 茨姫なんかよりも、もっとずっと遙かな時を。


 そんな彼女の眠りを私の都合で妨げるのは、酷く罪深い事の様に思えた。


 ――やめるのかい?


 私の躊躇いを敏感に感じ取った声が尋ねる。


 私は首を横に振る。右手のナイフを強く握って。


「ううん、やるよ。やる――」


 やらなければならない。だけど、これは義務や使命とはまるで違う。


 詰まるところ、私がやりたいから――そうするに過ぎないのだ。


 だからこれはどう弁明しようと悪い事だし、それを為す私はどうしようもなく、罪人だ。


 それでいい。


 償い切れない様な重い罪ならば、どんな罰でも甘んじて私は受けよう。


 私が私自身を失い、永遠に彷徨い続ける事になったとしても。


 刃先を少女に突き付ける。少女は今も眠っている。吐息すら立てずに、眠り続けている。


「ごめんね。痛いかもしれない」


 私は一言だけ呟いた。そして少女の胸に深く、深くナイフを突き立てた。


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