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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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終章 女学生と探偵①

 見舞いを終えた花房が街路に出ると、見覚えのある制服を着た女学生の一団とすれ違った。ちょうど下校時間らしい。桜ヶ崎女学院の生徒を見ると、自然と花房は織川苑緒と三条蓬子を思い出す。


 あれからアマネの下でしばらく待っていると、空中からいきなり女学生が二人、降ってきた。


 何が起こったのかさっぱり分からなかったが、アマネは目覚めず、帰還は困難と思われた蓬子が苑緒と共に戻ってきたのだ。


 多分、全て上手く行ったのだろうと思った。


 その後、花房、明神、苑緒、蓬子、深雪の五人は環によって帝都の表に無事送り届けられ、その後は花房が苑緒と蓬子を家に帰した。特に蓬子の父親からは多額の謝礼金を貰い、花房の機嫌はすこぶるよかった。明神が何か文句を言いたそうにしていたが、無視をした。そもそも明神だって、陰陽式を使ってみたいという動機で花房に同行したのだ。人の事をどうこう言える立場では無い。


 精神に深い傷を負った深雪は入院する事になった。


 あれから一ヶ月が経つ。苑緒と蓬子は、もう日常に帰っているだろう。


 ふと、通りの角の郵便ポストの隣に、見覚えのある少女が佇んでいるのに気付く。小柄な体躯に銀縁眼鏡の少女、瀬川環だった。


「あら、花房さん! こんなところで会うなんて奇遇ですね」


 無視しようとしたが、向こうもこちらに気づいたらしい。花房は観念して歩み寄る。


「何が奇遇だ。俺を待ち伏せしてただろ」


「待ち伏せは酷いですねえ。ポストの横に立っていれば花房さんに会えるという因果が見えていただけですよ」


 どちらにしても意図的である。


「で、何の用だ?」


「あれから色々ばたばたしていましたから、その後の事の話をしたいなと思いまして。あ、偶然にもあそこにお洒落なカフェーがありますよ。あそこでお話ししませんか?」


「偶然ねえ――」


 いちいち釈然としない花房だったが、確かに立ち話もおかしい。結局そのカフェーに入る事にした。どうも女学生御用達の店らしい、内装がいちいち可愛らしくて花房の好みには合わない。客もほとんどが女学生で、花房は身の置き所がない。入った事を早くも後悔していた。


 ――環さんが男性とカフェーに入ってきたわ!

 ――一体どういう関係なのかしら?

 ――でも、何だかダンディでかっこいいじゃない?


 ひそひそ声まで聞こえる。最悪だ。


「あらあら、仕方のない娘達ね」


 環はくすりと微笑む。


「楽しんでるだろお前――」


 注文した珈琲が届いたところで、環が真面目な顔になる。


「神津深雪のお見舞いに行っていたのですか?」


「ああ、少し様子を見に――な」


「花房さんがここの辺りに足を伸ばす理由が他にありませんから、そうじゃないかと思いました。それで、彼女の容態は?」


「容態って程の状態でもないけどな。――相変わらずだよ」


「そうですか――」


 虚栄の天才少女として舞台に立ち続ける事、終わりにしたいと思う一方で終わらせられない自分自身、そして父親を殺した事、彼女が抱え続けていたものが、環にヴァイオリンを破壊された瞬間、崩壊したのだろう。


 あの時、彼女の中の何かが決定的に切れたのだ。


 元の帝都に帰っても、深雪の心は元には戻らなかった。ずっと茫然自失の状態で、誰が何を言ってもろくに反応しない。ただ、時々小唄を口ずさむ。その旋律は、聴いた者をひどく悲しい気持ちにさせた。


「近く、軽井沢の別荘に移ってそこで療養するそうだ」


「少しでも、よくなって欲しいです」


 環は暗い顔で言った。そういえば、あの時環はヴァイオリンを破壊する寸前に「ごめんなさい」と深雪に言っていたか。常人とは違う因果を視る環の眼は、あの瞬間何を見たのだろうか。


「あの時は、ああするしかなかった。そしてお前はヴァイオリンを壊しただけだ。別に誰かを裁いたわけじゃない」


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