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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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59 「知ったことか」

 脇目も振らずに駆け上っていく蓬子を、明神と環が追いかけた。花房は深雪の様子を見るために、まだ下の階に残っている。花房を下に残すのは少し心細いものがあるが、深雪の事も放っておくわけにはいかない。


 明神と環は息を切らしながら階段を登っていく。


「もうすぐ――最上階です!」


 蓬子に続いて明神と環も最上階の扉の中に飛び込んだ。


「え、何ですかこれ」


 塔の中にいたのに、急に宇宙空間らしき場所に入り込んで明神は戸惑う。ようやく追いついた三条蓬子は辺りを見回している。織川苑緒を探しているのだろう。


「あら、とうとうここまで来たのね」


 不意に届いた声の方に、明神と蓬子は同時に振り向く。


 視線の先には、メイド服を着た少女、奥山雲雀。そしてその後方に、半透明の卵型の球が浮かんでいる。明神はそれが揺り籠であるような印象を受けた。そしてその中に、真っ白な少女が眠っているのが見えた。


 ――彼女が、アマネか?


「久しぶりですね雲雀」


 環が剣呑な声音で言う。


「環、こちらこそお久しぶり。探偵様方もまさかここまで来るとは、初めて見た時からただ者ではないとは思っていましたが、想像を遙かに超えていましたわ」


 雲雀が明神を見て愉快そうに言った。


 雲雀の言葉を無視して明神は周囲を観察する。まずい、あるべきものが足りない。


 状況を把握すると同時に明神の胸中にざらりとした不安がよぎる。


 ――織川苑緒の、姿が見えない。


「苑緒はどうした?」


 蓬子が唸る様な声で尋ねる。雲雀は黙って、アマネの方に目をやり、小さく微笑む。


「く――」


 間に合わなかった、か。


「そんな――」


 環が悔しげに唇を噛む。


「雲雀、貴女は自分が何をしているか分かっているの?」


 勿論、と雲雀は頷く。


「私はずっと疑問だった。どうしてこの裏側の世界は表の変化に同調しているんだろう? 全能と言っていいアマネがどうして人間なんかを守るために戦っていただろう? 何故人と人ならざる者の間を取り持とうなんてしたのか? ねえ、環。彼女は人間になりたかったのではないかしら? それをただ、異能を持つばかりに世界から弾き出された」


 アマネの異能。そう、彼女は強すぎたのだ。表の世界で人として生きるには。


「私も表に出て改めて分かったわ。世界は広い。こんな裏側より、ずっと広い世界が表には広がっている。だけど、私達は――異能を持つばかりに外で生きる事は出来ない。私と環の五年間も、所詮例外的に潜り込んだだけに過ぎないわ。私の異能を与える異能も駄目ね。深雪もまた、表から弾かれただけだった。これでは世界の構造は変わらない。異能を持つ者は表では生きていけないの。それなら――」


 ――それなら表も裏もひっくり返してしまえばいい。


 それが雲雀の目的、か。アマネを目覚めさせる事で、想像を現実に変える力を解放し、世界を反転させようとしている。表に居場所がないのなら、裏も表も混ぜ込んで境界をなくしてしまえばいい、と。


 そして、アマネの心の中に入れる織川苑緒を送り込んだ事で半ば達成されようとしている。


「織川苑緒がアマネを起こそうとしたとして、それでもアマネが起きなかったらどうするのですか?」


「それが彼女の意思なら仕方ないわ。今はそれに従う。いずれ別のやり方で叩き起こすかも知れないけど。でも私は、苑緒さんの事を信じているわ」


 雲雀の猫の様な瞳が鋭く光る。


「あー、ちょっといいかな」


 ずっと黙っていた蓬子が挙手をして話に割り込む。


「悪いけど、私は世界とか異能とか、あまり興味がないんだ。今はそれよりも聞きたい事がある。――苑緒はあそこにいるのかい?」


 蓬子がアマネを指差す。


「ええ、苑緒さんは今、アマネの夢の中に入っているはずです」


 答える環に、蓬子が軽く頭を下げる。


「ありがとう先輩。これのお礼に昨日の事は水に流してあげる。――じゃあ、行ってくるよ」


 まるで通学するような足取りで、何でもないかの様に自然に、蓬子はアマネに近づく。その目的に気づいた明神が叫ぶ。


「駄目です蓬子さん! 彼女に触れてはいけない!」


 しかし蓬子は止まらない。明神の声などまるで無視して、蓬子はアマネの傍らに立った。明神は駆け寄ろうとするが、とても間に合いそうにない。


「止めた方がいいわよ。貴女ではアマネの奥には入れない。きっと戻って来られなくなる」

 アマネのすぐ側にいる雲雀が囁く様な声で忠告をする。しかし、無理に止めようとしている風でもない。ただ事実を言っただけ、そんな態度だ。


「ああ、そんなの――」


 蓬子がアマネに向かって手を伸ばす。


「――知った事か」


 指先が触れた瞬間、世界に光が弾けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく拝読しております。 これからの展開に期待してます。
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