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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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56 最上階にて

 最上階の扉の先にあったのは、これまでの塔内とは根本的に違う、異世界だった。最果てがまるで見えない広大な闇と、散りばめられた星々の微かな光がだけがある、まるで宇宙空間のような場所。


 ――ここに、アマネが眠っているのか。


 アマネ。始まりの異能者。ならばこの空間も、彼女が想像する事によって生み出されたものなのだろう。


 雲雀の後をついて、歩く。苑緒の下も闇と星があるばかりで、足場はまるで定かではなかったが、踏み出した足はしっかりと地面を踏みしめていた。


「ここよ」


 半透明な、卵形の球体が浮いているのを苑緒は見た。


 そしてその中に、一人の少女が眠っている。


 少女はまるでモノクロフィルムの様に、服も、長い髪も、肌も、全てが真っ白であった。眠っている、と予め言われていなければ、きっと苑緒はこれを死体だと思ったに違いない。彼女の口元から吐息が漏れる様子はなく、白い顔からは生命が感じられない。まるで蝋人形の様だ。


 それでも数千年の時を経て今ここにいるとはとても信じられないくらい、彼女は美しかった。


「彼女がアマネよ」


 息を潜める様に小さな声で、雲雀は言った。


 雲雀からに裏側の成り立ちを聞いた時、思った事。アマネの理想と挫折、そして孤独が苑緒の胸中をぐるぐる回っている。


 ――彼女を、目覚めさせるのか。


 世界をひっくり返す、と雲雀は言っていた。きっとアマネが目覚めれば大変な事が起きるのだろう。


「ねえ、雲雀」


 雲雀を睨む様に見つめながら、苑緒は言う。アマネを見上げていた雲雀が苑緒に視線を移す。


「私の異能が何か、知りたいって言っていたわよね。いいわ。教えてあげる。私はね、他人の嘘が分かる――そういう異能を持って生まれてきた。だから私には一切の虚偽は通用しない。貴女が本当は蓬子を攫った事も知っている」


「ああ、なるほど。そうね――」


 自らの嘘を暴かれた雲雀に特に動揺する様子はなく、むしろ抱えていた疑問が解けて納得した様ですらあった。


「アマネの夢、心の中に入り、彼女を目覚めさせろと貴女は言ったわよね。いいわ。やってあげる。でも、先に約束しなさい。成功失敗に関わらず、蓬子は解放する――と」


 雲雀は少し驚いたような顔をした。


「あら、あの娘の事、まだ気にしていたのね」


「どうなの?」


 強い口調で、苑緒は再度問う。


「ええ、いいわよ」


「嘘」


「――参ったわね。いいわ、約束する」


 雲雀は肩を竦める。今度は嘘ではない。


 今は本当でも、もしかしたら後で気が変わる事は十分に考えられる。しかし、それは苑緒がどう行動しようが常に付き纏う危険である。


 もうこれ以上、苑緒が雲雀に対して出来る事は何も無い。


 無くなってしまった。


 ――ごめんね蓬子。一緒には帰れないわ。でも、私にしては頑張ったんじゃないかな。


 苑緒は大きく息を吐く。ほんのついさっきまで、ぐちゃぐちゃに波打っていた心は、今は不思議と落ち着いていた。


 ――この世界に、私の居場所はない。


 心中で反芻する。


 長い間、それこそ物心ついた事からずっと頭では理解しておきながら、心の奥底に追いやっていた事実。それにはっきりと向き合ってしまっては、もう自分でいられなくなってしまう危険な認識。


 千代の恐怖に満ちた顔が脳裏によぎる。


 そう、私は化け物。織川苑緒は怪物なのだ。人の世界では、生きてはいけない。


 宙に浮かぶアマネを見上げる。


 ――貴女も、そうだったの?


 吐息一つ立てず、静かに眠り続けるアマネにそう問いかける。彼女は何も答えない。


 ゆっくりと手を伸ばす。


 苑緒の指先がそっとアマネの球体に触れる。

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