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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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54 人質

 塔の内部は外観よりもずっと広かった。思ったより広い、という段階ではなく物理的に間違えているという程の広さだ。内装も普通の塔にあり得べきものとはかなり異なっている。上階へと続く階段は不規則な形で伸びていて、まるで迷路の様である。

「ここに雲雀さん達がいるんですよね」

「ええ、どうやら三条蓬子、八十谷惣也、神津深雪もここに来ているようです」

 明神の問いかけに、環は目を瞑り、額に指先を当てながら答えた。例の式による遠見を今行っているのだろうか。

 八十谷惣也は奥山雲雀の協力者で、名前を呼ばれて返事をしたものを小さくする異能と、水で出来た式神を使うのだったか。水の式は厄介かもしれないが、異能の件は種が知れればさしたる脅威では無いはずだ。

 半ばほどまで昇っただろうか。その辺りの地点にある扉の前で、環は立ち止まった。

「この先に、惣也と深雪さん、蓬子さんがいるようです」

「そうか」

 花房は短く答える。八十谷惣也はもとより、神津深雪の精神状態もいかほどのものか。

 この扉を開けば無事には済まないかもしれないが、そうしなければ何も始まらない。花房は事務所のそれと同じ手付きで扉を開いた。

「やあ、こんにちは環お姉ちゃん。そろそろ来る頃だと思ってたよ」

 広間は所々瓦礫に埋もれていて視界は悪い。しかし二人の人影は直ぐに眼に止まった。一人は神津深雪、俯いていて表情は窺い知れない。

 予想していた事ではあるが、昨日の様子とは大分違っている。良い兆候ではない。そしてもう一人、にこやかに花房達を迎えたのは、水兵の様にセーラー服を着た十代前半程の少年だった。彼が八十谷惣也だろう。花房が目を奪われたのは惣也が右手に抱えている金魚鉢だ。その中に、小人の様に小さな少女が入っている。黒いセーラー服は桜ヶ崎女学院の物だ。彼女が三条蓬子、か。

「雲雀お姉ちゃんを止めに来たんだよね? でもそうはさせないよ。ここは通さないから」

「惣也――そこをどきなさい」

 環の影がざわり、と蠢く。しかし惣也に動じる様子は無く、むしろ小馬鹿にした様に笑う。

「あはは。僕知ってるよ。今お姉ちゃんの式は雲雀姉ちゃんに結界ごと壊されてボロボロなんでしょ? 万全ならいざ知らず、そんな状態で僕らに勝てるのかな?」

 惣也の言葉に環は悔しげに歯噛みする。こいつらのやり取りはさておき、と花房は深雪に目を向ける。

「やあ、深雪さん。奇妙な場所で会いましたね」

「探偵様――」

 深雪が顔を上げる。その瞳は絶望に染まっている。

「もう、全てお気づきなのですね――」

「間違いであって欲しいと願いながらここまで来たのですが、どうやら叶わなかった様です」

「探偵様、どうかお引き取り下さい。私は貴方達を傷つけたくない」

 深雪は暗い目で、しかし決然としていった。花房は黙って首を振る。どうやら、説得は難しそうだ。

 その間も、環と惣也は睨み合っている。惣也の余裕は、環の式が弱っている事もあるだろうが、もう一つある。金魚鉢の中の三条蓬子。

「おい、ガキ。その金魚鉢の中に入っているのは三条蓬子だな? 今すぐ解放しろ」

「誰がガキだよおっさん。お断りだね。やなこった」

「人質ってわけか?」

 花房が口の端を歪める。

「そういう事。おかしな動きをしたら――」

 瞬間、銃声が響く。惣也が言い終える前に。惣也の眉間に穴が開き、一瞬呆然とした顔をした後、その場に倒れる。

「おかしな動きをしたら――何だって?」


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