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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
55/180

52 蓬子と深雪

「音楽の魔法?」


「私の異能ですよ。織川苑緒と同じ様な、ね。私はそれによって、楽器を演奏する事で人の心を操れる様になった。もっとも、私の異能は織川苑緒の様な生まれ持っての物ではなく、雲雀から貰ったものでしかありませんが」


 異能――音楽の魔法、か。それならばあの演奏の感動が一過性に終わったのも理解出来る気がした。別に、あの演奏そのものが素晴らしかったわけではないのだ。


「父、神津直は奥山雲雀を帝都の裏側から連れて来る時に、雲雀とある契約をしました。雲雀の脱出に協力し、衣食住を提供する代わりに、私に音楽の才能を与える事、と。父は昔から音楽で名を為したいという夢を持っていました。しかしいつしか自分自身の楽才には限界を感じる様になった。だから父は私に、自分の夢を代わりに叶えさせようと音楽を仕込んだのですけど――」


 ――私の才能も、たかがしれていたようです。と、深雪はどこか壊れた様な笑顔で続ける。


「だから雲雀との契約は父には僥倖でした。私は音楽の魔法を手に入れて、天才ヴァイオリニストとしてデビューしました。私も嬉しかったですよ。これでようやく父の期待に応える事が出来ると、思いましたから。でも――」


「異能で人の心を操っているだけで、あんたの演奏そのものに光るものがあるわけじゃあない。まともな感性があるなら、罪悪感を覚えても仕方ないさ。それで? もうこんな事はやめにしようとお父上に提案したら却下されて、カッとなって殺したのか?」


 蓬子の冷たい追求に深雪は無言で首を振る。


「そんな事は私には言えない。今更ヴァイオリニストの神津深雪を殺すなんて私にはとても出来ない。でも、私の中にある疑問と罪悪感は破裂しそうなくらいに膨らんで、もう限界だった」


 天才少女を辞められず、といってこれ以上続ける事も耐えられず、進む事も戻る事も出来ない状態に陥って、深雪の精神は限界を迎えた、という事か。


「ある時から、庭先の得体の知れない影が立つ様になります。雲雀は自分が瀬川環に見つかったのだろう、と言いました。屋敷から外に出られなくなった雲雀の頼みで、父と私は裏側への扉にある、瀬川環の結界の状態を調べに行きました。そこは人通りの無い川沿いの道でした。久しぶりに二人きりになった。他に誰もいないな、とそう思いました。――ねえ蓬子さん、私は父を、雲雀を、憎んでいるのでしょうか? 私を偽物の力で輝く舞台に引っ張り上げ、降りる事を出来なくした二人を」


 ある意味では、彼女も犠牲者と言えなくもない。確かに、音楽の魔法がなければ深雪はヴァイオリニストとしてデビューする事は出来なかっただろう。父の期待に応えられず、自らの夢も叶える事は出来なかった。


 しかし、それは普通の事なのだ。人生の内に誰もが必ず通る挫折体験の一つに過ぎない。その時は確かに辛く苦しいだろうけど、いつかそれを自らの糧にすればよい。


 異能の力で叶わぬ夢を強引に叶える方が、異常なのだ。


 いや――


 ――他人事だからそう思えるけど、我が身を鑑みれば私も人の事は言えない、か。


 蓬子は、苑緒に対する自分自身を顧みて、自嘲気味にそう思った。


 深雪が傍らに置かれたヴァイオリンを撫でる。


「気が付くと、私は持ってきていたフルートを奏でていました。そして、父の自殺衝動を駆り立てるよう音楽の魔法を使った。驚くほどあっさりと、父は死にました。これが――私の、父の求めた音楽だったのでしょうか? でも、これだけははっきりと言えます」


 ――異能は人を歪ませる。


 凍り付く程に冷たい声で、深雪は言った。

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