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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
53/180

50 特異点

「――そういう訳でね。人でありながら異能を持つ織川苑緒は、特異点なんだ。彼女なら、アマネの夢の中に入れるだろうって、雲雀姉ちゃんが言ってたよ」


 話し終えた惣也は無邪気な笑顔を蓬子に向けた。一方の蓬子は金魚鉢の中で足を組んで仏頂面をしている。


 アマネとかいうこの世界を作り上げた少女を苑緒に目覚めさせて、世界をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる、か。にわかには信じがたい話である。


「で、君もそれに協力しているわけか。その、世界をひっくり返すっていう目的に」


「まあぼくはただの興味本位だけどね。面白そうだから手伝ってるだけ」


 そんな理由で――と思ったが、今更惣也に常識的な事を言っても意味が無さそうだ。それ以前に、そもそも苑緒がそんな事に協力するとも思えない。しかし、嫌な感じがする。


「それより少年、私をここから出してくれないか?」


「駄目だよ。これの中に入れとかないと元に戻っちゃうからさ」


「そうかい」


 蓬子を金魚鉢に入れて苑緒の前から去った惣也は、常夜の通りを越え、浅草六区のような繁華街を過ぎ、そして深い森を抜け、石造りの塔の中にやって来ていた。だから今、蓬子がいるのは、アマネとかいう伝説の少女が眠っているらしい塔の中のどこか、という事になる。


 蓬子はさりげなく周囲を見回す。それなりに広い部屋だ。ただし、石造りな上に酷く殺風景なので、監獄の様な雰囲気がする。テーブルの上には蓬子が入っている金魚鉢と、鏡が立て掛けられている。その鏡の表面は硝子ではなく水で出来た水鏡なのだが、滴り落ちる様子はまるでない。そしてそれには何やら別室の、金属で出来た扉が映っている。惣也は蓬子に喋る傍ら、何度も鏡に映る映像を確認している。


――監視、しているのか?


 蓬子はそういう印象を受けた。誰かを警戒しているのだろうか。


 そして、もう一つ蓬子の興味を引いたのは、部屋の隅にぽつりと座っている少女だ。


 純白の洋装に身を包んだ麗しい深窓のご令嬢、といった風体の少女である。そんな外観にあって、彼女の織川苑緒を連想させる昏い目付きは不釣り合いに浮いて見える。しかし、苑緒とはっきり違うのは、彼女の瞳の奥には、どこか病的な輝きが垣間見える点だろう。


 しかもこの少女、どこかで見た事がある気がする。この部屋に入ってからずっと考えていた蓬子だが、ようやく思い出した。


「なあ、あんた神津深雪だろ。ヴァイオリニストの。こんな所で何をしている?」


 名を呼ばれて、少女がぴくりと反応し蓬子を見た。やはり、神津深雪である。


 以前に蓬子は母親と共に、彼女のリサイタルを聴きに行った事があったのだ。遠目で見ただけなので、少し記憶が曖昧だったが、どうやら間違いなさそうだ。


 神津深雪は今をときめく天才ヴァイオリニストと認識していた。それがどうしてこんな所にいるのか、皆目見当もつかない。


「表の世界にいられなくなったんだって」


 黙っている深雪の代わりに惣也が勝手に答えた。


「いられなくなった? どうしてまた?」


 口が軽そうな惣也の関心を引くために、とても興味を引かれた様な顔で聞き返す。惣也が何か含みがありそうな、意味ありげな目付きで深雪を見やる。


「表で人を殺したんだってさ」


「人殺しだって?」


 予想外の言葉に蓬子は驚く。蓬子の知る天才少女神津深雪と、人殺しという物騒な言葉がどうしても結びつかなかった。


「まあそんな事どうだっていいでしょ。それより、ほら、主役が来たみたいだよ」

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