47 始まりの場所
――雲雀は、世界をひっくり返そうとしています。
道すがら、明神に雲雀の目的――すなわち織川苑緒と接触してどうしようとしているのか、を問われた環は、そう答えた。
明神達は再び、荒川上流の神津の遺体発見現場まで足を運んでいた。何の変哲も無い川沿いの散歩道である。変わった物と言えば昨日と同様、弔いの為に備えてある菊の花くらいだ。ここに帝都の裏側への入り口がある、らしい。
「何ですか、それ」
環はその質問には答えず、あたりをきょろきょろと見回す。裏側への入り口をやらを探しているのだろうか。それならば、質問の続きはもう少し待とう。
「ここですね」
環はそう言って足下を革靴の爪先でとんとんと叩いた。
「ここが裏側への出入り口になります。元々はここに私と雲雀の二人で二種類の結界を張っていました。お互いの結界には干渉出来ないのですが、迷い人を表に帰す時だけは同時に解除します。雲雀は神津氏を送り出した後に一緒にさようならしたわけです」
「お前も管理人なら気づいただろう? すぐに追いかけなかったのか?」
「勿論追いかけましたよ。でも雲雀は用意周到に罠を張っていて、何も知らない私は酷い目に遭いましたけども。雲雀ったら酷いんですよ。聞きます?」
「いやいい」
何というか、いい様にやられてるな、と思った。
「現在は私の結界だけですけど、雲雀には解除出来ない。それなら、もし織川苑緒を先に見つけられても、すぐに裏には戻れないので私の方が少し有利――と、思っていたんですけどね」
環は溜め息混じりに呟く。一晩で全部ぶち壊しになった話である。
「まあ過ぎた事を言っても仕方ないですよ。元気出していきましょう」
明神が励ます。自分が式で環を追跡したのが一番の原因の様な気がするが、言わないでおく。
「私の影の式、昨日の夜に雲雀に結界ごと壊されて昨日の半分の力もないのですよ。そういう意味でも明神さん達を頼りにしてますからね? ――さて、私が今立っている所まで歩いて来て下さい。そしてそこで、後ろを振り向いてみて下さい」
それでどうなるというのだろうかと思いつつも、明神と花房は言われた通りの位置まで歩き、そして振り返った。
前と後ろで何が変わるわけではない。振り返った先に見えるのは、前方と同様に人通りの少ない川沿いの散歩道であるはずだった。しかし、そうではなかった。
森だ。いつの間にか、木々が鬱蒼と茂った森の中に明神達は立っていた。
「はあ?」
まるで瞬間移動したとしか思えない。
歩いて、振り返っただけで、そこは完全なる別世界である。
「ようこそ、帝都の裏側へ。私達は皆様を歓迎致しますわ」
環が恭しく礼をする。
「ここが、帝都の裏側なのか?」
辺りを見回しながら花房が尋ねる。暗い森である。木々に遮られて光がほとんど入らない。しかしそれ以外に特筆すべき点は何も無い。ただの森である様に思われた。
「ここは眠りの森と言って、帝都の裏側の始まりの場所です」
「始まりの場所?」
「目を楽しませてくれるようなものは特にないですけどね。本当は観光案内でもして差し上げたいのですが、あいにく今は時間がありません。歩きながら説明するので付いてきて下さい」
環の先導に続いて歩みを続ける。
「雲雀が織川苑緒と接触し、それによって世界を激変させようとしている。ではその理由は?どうしてそんな事が可能なのか? という話の途中でしたよね。これには、この帝都の裏側の成り立ちから話す必要があります。まあ、半分伝説みたいなものですけどね。表のそれとは違ってそれなりに信憑性はありますよ」




