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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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38 出来ること

「いや、ちょっと待って下さい!」


 花房と環は何かの共通認識があるらしいが、明神にはさっぱり分からない。この環が神津直を自殺に見せかけて殺したのではなかったのか?


「今朝、電話があっただろう。――神津直は間違いなく自殺だった、とな」


 昨日、出かける前に花房は知り合いの刑事に事件の再確認を依頼していた。その結果は既に出ていた。


「ええ、そうでしたね」


「争った後も抵抗した形跡も何もない。自分で川に飛び込んだ以外は有り得ない、とな」


「でも――」


 それこそ、あの得体の知れない影の力で何かをしたのではないのか?


 俺は式神とやらの専門家ではないがな、と前置きした上で花房は言った。


「あの影は物理的に作用するものだった。俺達はあれに投げ飛ばされたり楽器を弾き飛ばされたりしただろう? あれに襲われたというのなら、神津直が何も抵抗していないのはおかしい。あれは、自殺だったんだ。お前も、そう言いたいんだろう?」


「ええ、その通りです。影の式は便利ではありますけど」


 環は影を動かして珈琲カップを持ち上げた。


「人を自殺させる事は出来ません。絞め殺すのは可能ですけど」


 さらりと恐ろしい事を付け足す。


「神津氏の遺体発見現場からの探知式が環さんに辿り着いたのは?」


 探知式、という言葉に環がぴくりと反応する。


「実はあそこ、帝都の裏側への入り口があるのですよ。それを私の式で封印していました。一般人が誤って迷い込んでも困りますので。そんな地点で神津氏が亡くなったのは、きっと偶然ではないのでしょう。どういう事情があったのかまでは知りませんが」


 環は首を傾げる。


「しかし、私が殺したのではありません。さっきも言ったとおり、私の力で人を自殺させる事は出来ませんから」


 そう言って、環は昨日拾っていた明神の探知式を懐から取り出した。もうとっくに効力切れになっていて、単なる訳の分からない事が書き殴られている紙切れと化している。環はそれを大切なものでも扱う様に丁寧な手付きでテーブルの上に置いた。


「明神さんの式神も驚きましたよ。表でこういうものを使える人がまだいるとは思っていませんでしたので」


「ああ――」


 昨夜、薄月堂に帰ってから陰陽式の師匠である文に、もっと戦闘で使えそうな式はないのかと聞いてみた。

 文としては、折角の伝統技術を絶やすのが何となく勿体なかったので一応教えただけで、そんな実戦でばりばり戦うなんて事は想定してないから、そういうのはちょっと困る、とのご回答であった。


 環に通用した事が奇跡である。


 ともあれ環の言い分に容易に納得が出来ないのは事実ではあるが、一理はある様に思える。明神が式神を使えるからといって、誰かを遠くから不思議な力で呪い殺しただろうと言われても困る。


 出来る事は出来る、出来ない事は出来ない。その線は確実に存在する。


 環が何の痕跡も残さずに対象者を殺す事が出来る能力を持っているのなら、きっと昨夜明神達に使っている。


 そうすれば花房に関節を極められたりはしなかったし、悲鳴を上げて第三者に助けを求めたりする必要もなかった。


 彼女は常に悠然と振る舞ってはいたものの、それはある程度虚勢も含まれていて、昨夜は本当のところかなり追い詰められていたのだろうと思う。


 明神はちらりと環の様子を伺う。環は美味しそうに珈琲を啜っている。


「分かりました。彼女は神津直を殺してはいない、ですね」


 明神の噛んで含める様な言葉に花房は黙って頷く。


 しかし、この件において仮に無実であったとして、謎の源泉が彼女である事に変わりはない。


「それで、お前は何をしにここに来たんだ? まさか謝罪に来たわけでも、俺達に無実を訴えたいわけでもないんだろう?」

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