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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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35 嘘を見抜く異能

「雲雀さん」


「何かな?」


 言葉の虚実から、情報を引き出そうとする場合、発言そのものの真偽も勿論重要な事だが、より大事なのは、何故嘘を吐いたのか、そして事実は何なのか――である。


 意味の無い嘘はたくさんある。ただ単純に見栄を張っていただけだったり、その場凌ぎで不正確な発言をしたり、だ。


 雲雀は先程から基本的には嘘を吐いていない。言葉に気をつけている訳ではないだろうが、際どい発言をかわしながら喋っている感じがする。


 嘘を吐かずに真実を語らない。


 苑緒の能力が相手の嘘の『言葉』に反応する性質上、昨夜の環の様に、苑緒への対策として一定の効果はある。


 そしてもう一つ重大な事がある。惣也は蓬子を攫う際、蓬子の事をペットにする、などと言っていたが、それらは全て嘘であった。


 惣也には何か確固とした別の目的がある。だから雲雀と惣也の関係性は、環とのそれよりも重要である。


 そして、ここまで会話中、雲雀は一つだけ嘘を吐いた。


 ――見つけたっ!


 嘘は時として正直な言葉よりも雄弁に真実を語る。


 先程、苑緒を「見つけた」と言った雲雀の言葉は嘘だった。つまり、彼女は既に苑緒を発見していた。雲雀がいつから苑緒達を見つけて、見張っていたのかまでは分からない。しかし間違いなく雲雀は、頃合いを見計らって、あたかも今たまたま見つけたといった態度で苑緒に抱きついたのだ。


 この事実の意味を推し量れ。


「貴女は何者ですか?」


 その問いに雲雀は少しだけ困った様に小首を傾げる。何と答えたものか、思案しているらしい。そしてゆっくりと口を開いた。


「お尋ね者――かな」


「お尋ね――者?」


 予想外の答えだ。


「ええ、本当は私、ここではお尋ね者なのよ。だからあまり堂々と歩くわけにはいかないのよね。あ、これ秘密の話ね」


 まるで悪戯っ子の様に無邪気な顔で雲雀は言う。これは意外にも嘘ではない。


 『ここでは』という言葉も本当である。ここではない所では特に問題なく出歩ける立場であるらしい。つまり、彼女は帝都の裏側という異世界において、お尋ね者であるのだ。


「何か悪い事でもしたのですか?」


「うん。まあ、ちょっと寝た子を起こそうとしたのがばれて、ね」


 自分で自分の事をお尋ね者と言うくらいなのだから、これについても特に否定はしないだろう。ただし子細は話すつもりはないらしい。


 情報が増えれば増えるほど、謎も雪だるま式に膨らんでいくようだ。とにかく分からない事、尋ねたい事が多過ぎて処理が追いつかない。


 ならば、今はいい。枝葉の話は後でいくらでも調べればいいのだ。今、苑緒にとって重要な事。絶対に確かめねばならない事がある。


「私は今、人を探しています。八十谷惣也――ご存知でしょうか?」


 どう答える?


「知っているわ。物を小さくする能力を持った悪ガキでしょう? あいつがどうかしたの?」


 そこはあっさりと、雲雀は肯定した。


「私の友人を小さくして攫っていきました」


「へえ――」


 雲雀が猫の様な瞳を丸くする。驚いている――にしては反応が薄い気もする。


 雲雀の様な性質の人間、すなわち意識的に陽気に振る舞う気性の人間は、三条蓬子がそうである様に――驚きや喜びと言った感情を、実際以上に大袈裟に表現しがちであるのだが。


「私は彼を見つけて友人――蓬子を助けなければなりません。雲雀さん、貴女は八十谷惣也がどこにいるか、心当たりはありませんか?」


 じっと雲雀の瞳を見る。


 子供の様に無邪気で、そして残酷な目だと、苑緒は思った。


「ううん、ごめんね。あいつがいる所までは、私には分からないわ」


 嘘。


 ずっと抱いていた疑念が確信に変わる。


 ――こいつだ。


 この奥山雲雀が八十谷惣也をけしかけて、蓬子を拉致させたのだ。


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