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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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34 奥山雲雀

「私の事を探していた――と言いましたね?」



「ええ、そうよ」


 彼女はそう答えて、苑緒の目をじっと見た。苑緒は怯まずにその目を見返す。


「あら、さっきまで鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してたのに、急にいい目になったわね。獲物を狙う鷹みたい」


 そう言ってまたころころと笑う。語り口は何となく蓬子のそれと似ている。そういえば、と苑緒は思い返す。苑緒は蓬子が笑ったのをあまり見た事がなかった。


 蓬子は普段、快活で話好きだが、あまり笑わない。


 飄々とした態度の裏に、暗い感情があるのだ。それが時々、不意に言葉として出てきて苑緒を戸惑わせたのも一度や二度では無い。だから蓬子の快活な振る舞いは殆ど全てが意識的に行われていると言っていい。


 蓬子は自分の世界の限界を知ってしまっているのだ。


 その原因は、おそらく彼女の生まれにあって、きっと蓬子は自分の将来がその家柄によってほとんど定められている事に閉塞感を覚えている。しかし、同時に今の自分が如何に家柄の恩恵を得ているのかも理解出来る程度には利口でもある。


 本当は、自分がどれだけ豊かで恵まれているかに思い至らないくらいに鈍感で、わがままであっても別に構わないのかもしれない。しかし、持って生まれた性格は仕方ない。


 三条蓬子とはそういう人間であるのだ。


 苑緒はあえて避けていた、蓬子の性格の分析を今行った。


 苑緒は蓬子の事を分からないと思っていた。が、それは違う。苑緒は蓬子の事を、分かろうとしなかったのだ。分かろうとする事に罪深さすら感じていた。


 それをあえて行った理由。


 目の前の彼女と比較するためである。


 彼女の性質を、性格を、本質を分析する必要がある。それを元に突破口を見出す。


 それが今生き残るために、ひいては蓬子を助けるために苑緒に出来る唯一の手段なのだ。


 蓬子は何かを諦めている。では、蓬子と少しだけ似ている彼女はどうだろうか?


「あ、そうだ。自己紹介まだだったね」


 きっと彼女に蓬子の様な諦観はない。

 自分の世界の広さを考えた事もないし、その限界を思った事もない。


 鳥はどこまでも飛べる、自らの可能性の広さを疑ってはいない。


 人は大人になっていくうちにいつしかその気持ちを失う。


 自分の空の広さを知るのだ。それが大人になる事だと言っていいのかも知れない。蓬子がそうである様に。苑緒もまたそうである様に。


 だから、見た目は苑緒と同じくらいの年齢である彼女が、まるで幼い子供であるかの様に、苑緒には見えた。


「私の名前は奥山雲雀。雲雀って呼んでね」


 意味ありげな微笑みと共に、彼女はそう名乗った。

 これも、嘘ではない。


「貴女の名前は?」


「えっと――」


 雲雀の問いに苑緒は口ごもる。先程の惣也の能力の事が念頭にあった。


 蓬子は名前を呼ばれて、それに応えた途端に小さくなった。しかもその呼び方は前後の会話の流れとは関係のない、唐突なものであった。


 まるで名前を呼ぶ事そのものが目的であったかの様に。


 もしかすると、名を呼ばれてそれに応える事が、惣也の能力が発動する鍵になっていたのではないだろうか。


 あくまで推測に過ぎないが、疑いがある以上、自分の名前でもおいそれとは教えづらい。咄嗟に偽名を名乗ろうかとも思ったが、それよりもこうやって口ごもる事で雲雀の反応を見る事を苑緒は選ん

だ。


「あはは、警戒してる? 別に私に名乗ってもどうこうなったりはしないわよ。そういう能力じゃないからね」


 雲雀は苑緒の心の内を読んだかの様に言った。嘘ではない。


「――織川苑緒」


「苑緒ちゃん、ね。良い名前じゃないの」


 雲雀は楽しげに言う。

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