31 独力
「そう、言われました」
「特別な才能がある、ですか」
微妙な言い回しである。先程の深雪の言い方だと、何の才能も無い人間に能力を授ける、という印象を受けたが、これだと元々深雪にある程度の素養があるからこそ目をつけられたのではないかとも思える。
「それで音楽の魔法を与えられた、と」
「はい。特別な儀式も何も無く、拍子抜けするほどあっさりと。これで結果が出ていなければ、きっとただの冗談だと思ったでしょう。でも確かに、私は音楽の魔法を手に入れていました。私はその能力を使ってヴァイオリニストとしてデビューし、今に至ります」
「先程はヴァイオリンでなく、フルートを吹いていましたね。楽器は何でもいいのですか?」
「はい。一応一番得意なヴァイオリンが、一番効果がありますが、楽器であるならば何でも大丈夫です。もしもの時の為の護身用として能力は使えるから、何か楽器を持っておけと言われていました。でもヴァイオリンは持ち歩くのが大変なので、フルートです」
天才ヴァイオリニストの口から出るには何とも情緒のない話である。こうしてみると、音楽の魔法とは、音楽家の才能とは無関係なのだろうと思わされる。
「そうですね」
花房がそう言うと、深雪は悲しげに目を伏せた。
「多分、音楽というよりは催眠術みたいなものに近いんだと思います。それでも私の演奏で人の心を癒やす事が出来るなら、と思って今までやってきましたけど、やはり何だかイカサマをしているみたいで、後ろめたいです」
能力無しに、純粋に音楽の力で人々を感動させられないのでは駄目だ、という事なのだろう。花房の様ないい加減な人間は、使えるものならば何でも使ってしまえと臆面もなく考えるし、多分後ろめたさも覚えないだろう。
しかし、深雪はきっと花房よりも真面目で、音楽が好きなのだ。
「音楽の事は仕方ないですよ。能力無しで音楽家をやっていけるかどうか。それはこれから深雪さん自身が考えるべきことです」
明神がつれなく言った言葉に、深雪の瞳が悲しげにぶれる。
――今更能力無しで、か。
広い世界を知ってしまった以上、もう元には戻れないのだろう。それでも自身の能力に疑問を抱いているなら――そんな事は花房が気にする事では無いが。
ふと花房の脳裏にある疑問が引っかかった。
「ところで明神、お前は式神で瀬川環の影を探知して追いかけたよな?」
「はい。それがどうしました?」
「深雪さんの音楽の魔法でも同じ事が出来るのか?」
さてどうなのだろうかと思ったら、明神は首を横に振った。
「試してみないと確かな事は言えないですけど――多分、出来ないと思います」
「ふうん? 何故だ?」
「僕の探知式はあくまで式神の探知を行うためのもので、異能を使った痕跡を探るためのものではないからです。あの影は、おそらく帝都の裏側流の式神の形で、だから僕の式でも探索出来たんですよ。それと、式というのは技術であって、音楽の魔法やなんかといった異能の類いとは少し違います」
そうなのか。てっきり同じだと思っていた。と、いうか花房の視点から見たら完全に同じである。そんな事を考えている花房の表情を読み取ったのか、明神は苦笑する。




