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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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27 対話

「なっ――はあ?」


 蓬子は思わず唖然とした。何度見直しても少年は水たまりから上半身を出して蓬子達を眺めている。少年のいる場所だけ深い穴が掘ってあって、水が貯められている様にも見えない。


 まるで水たまりの下は亜空間に繋がっているかの様だ。


 これまでも散々奇怪な物を見せられてきたが、ここまで堂々と物理法則を無視されるとどう反応すればいいものやら分からない。


 蓬子達の反応がお気に召したのか、少年は満足そうに笑った。そして、ぴょこんと跳ねるように水たまりが飛び出し蓬子達の目の前に立った。


「お姉ちゃん達、見ない顔だね! どこから来たの?」


 年の頃十歳くらいだろうか。目深に被った少し大きめのセーラーハットの下には愛らしい顔つきが覗いている。少年は、蓬子達に無邪気な笑顔を蓬子達に向けた。


「私達は――」


「あ、いやちょっと待って!」


 少年はくんくんと鼻を鳴らして蓬子のにおいを嗅いだ。


「おい、何だよいきなり――」


「ふうん――?」


 思わず引いて身構える蓬子の様子にまるで頓着する事無く、物思いにふけっている。


「分かった! お姉ちゃんは表側の人でしょ! ここに迷い込んできたんだね!」


 少年は一人納得した様に頷いた。


「なっ!」


 今の匂いで分かったというのか?

 水たまりから現れた事といい、今の様子といい、この少年は本当に人間なのだろうか。


「どう? 当たってる?」


「ああ、正解だよ。私達は帝都の表側――と君達が呼んでいる世界から、ここに来たらしい」


「へええ、やっぱりそうなんだ。ちょっと違う匂いがしたもんね」


 少年は物珍しげに蓬子達を見回す。


「君はやはりここの世界の住人なのかい?」


「そうだよ。僕の名前は八十谷惣也。よろしくねお姉ちゃん」


「私は三条蓬子、こっちは織川苑緒。こちらこそよろしく」


 先程から突飛な行為が目立つ惣也だが、それでも何とか話が通じそうなので蓬子は内心ほっとした。


「私達は表の方に帰りたいんだ」


「帰りたい? どうして?」


「そりゃあ、私達の家は表の方にあるし、多分今頃向こうでは大騒ぎしているだろうと思う」


「ええ? ずっとここにいればいいじゃん」


「そういうわけにもいかないよ」


 蓬子が苦笑する。帰った後に自分がどうなるかと思うと多少の憂鬱は禁じ得ないが、それでも蓬子の帰るべき場所は三条家であり、他にどこにもない。


 帰らなければならないのだ。自分のいるべき場所へ。


 この世界の謎だとか、環の目的はなんだとか、気になる事はいくらでもあるが、まず一番大事な事はそれである。


「それで、私達は裏側の管理人とやらに会いたいのだけど、この道を真っ直ぐ進むって事であってるかな?」


「あってるよ。ここまで来たらもうそんなに遠くはないよ。そろそろ夜も明ける頃だしね」


「そうか、ありがとう」


 惣也は蓬子達をしげしげと眺める。


「ぼくさ、表の世界の人間は初めて見たよ。珍しいなあ」


「そうかい? 私達みたいにここに迷いこんでくる人間は、あまりいないのかな」


「たまにいるよ。五年くらい前だったかな。表の人間の音楽家がやってきて、こっちの住人の娘を一人、さらって帰っちゃったんだ。あの時は大騒ぎだったなあ。管理人がその娘を連れ戻さないといけないんだけど、いまだに帰ってきてないもんね。今頃、どこで何をしているのかなあ」


 惣也はどこか楽しげな様子で語る。まだ十歳くらいだと思っていた子供が、五年前の実体験らしき事を思い返しているのに、蓬子は少し違和感を覚えた。


 もしかしたら、惣也は見た目よりはいくらか年長なのかもしれない。

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