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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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26 遭遇

 三条蓬子が織川苑緒に対して抱いている感情とはどの様なものだろうか。よくそんな事を思うのは、自分が織川苑緒という人間についてまだ掴みきれていないからなのだろう。


 他人の嘘が分かるという苑緒。


 彼女には蓬子がどの様に見えているのか。


 蓬子がずっと心に抱えている、諦めのようなもの。それも彼女には見えているのだろうか。


「ねえ苑緒」


 常夜の通りの煉瓦道で、隣を歩く苑緒に声を掛ける。


「どうしたの?」


「さっきここに嫌な感じがしないって言ったよね。もう少し詳しく聞きたいのだけど、あれはどういう意味だったんだい?」


「ううん、上手く言えないのだけど、こんなにもおかしな事ばかり起こっているのに、何となく自然に受け入れられているのよ。普通なら、もっと取り乱したり混乱したりするでしょう?」


 まるで夢の中にいるような感じなのかな、と思ったが、今は苑緒に夢の話はしたくなかったので言わないままに喉の奥に飲み込んだ。


「本当かい? 苑緒がこんなに肝が太いとは思わなかったよ。驚いたね」


「それをいうなら、蓬子だって落ち着いてるじゃないの。普通ならもっと泣いたり叫んだりするものなんじゃないの?」


「それで帰れるならいくらでもそうするさ。そうならないからやらないだけだよ。だからと言って落ち着いてるわけじゃない。今だって混乱で頭がおかしくなりそうだ」


 実際、苑緒がおらず自分一人だけこの状況にぽんと放り込まれたら、とてもじゃないが気が保たなかっただろう。


 虚勢を張る相手がいるだけでもありがたい。


 しかし今のやり取りを通しても、蓬子のもう一つの不安は育っただけだった。


 先程からずっと感じていた事。どうも苑緒の姿が、この街に馴染んでいる気がしてならないのである。


 これはおかしな事だ。蓬子も苑緒もこの異世界に突然連れて来られた。星の巡りや不可思議な影、何もかもが蓬子の今まで生きてきた世界とは違っている。


 ならば蓬子も苑緒も、この世界にとって異物であるはずなのだ。


 それなのに、この感覚は何だろう。


 まるで苑緒がここにいる事が自然であるような、あるべき場所に帰ってきたかのような違和感のなさ。


 そもそも、環の口振りからすると、ここに連れて来ようとしていたのは苑緒だけで、蓬子はついでの様なものだと思える。


 ならば、その目的は――


――いや、違う。こんなものは私の主観に過ぎない。帰るんだ。私達は元の世界に帰る。必ず。


 蓬子はそう自分の思考を振り切る。


 その時、どこからか、幼い男の子の声が聞こえてきた。


「やあ、珍しいな。外の人間じゃないか!」


「えっ?」


 突如聞こえてきた声に、蓬子と苑緒はあたりを見回す。空が白んできて景色が見やすくなってはいたが、あるのはいまだに蛻の殻の露店とビルヂングだけで、人がいる気配はない。


「おおい、ここだよ! こっちこっち!」


 今度ははっきりと声が飛んできた方向を認識する。


 それは下から、だった。


 水兵の様な、白いセーラー服を着た十歳くらいの少年が、道端にある水たまりから顔を出していた。

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