表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
26/180

24 戦闘

「離れて!」


 明神が叫ぶや、背後に飛び退く。花房は雲雀を押す様にして後方に下がった。すんでの所で、影は明神の足下には届かずにその動きを止めた。


「あらら」


 少女が残念そうに首を傾げる。


「明神、お前戦えるか?」


「無茶言わないで下さい。魔法使いの戦争のやり方なんて知りませんよ」


「何とかしろ!」


「ああもう!」


 明神は破れかぶれになりつつも幾つかの式を取り出す。いつも携帯している護身用の陰陽式だ。明神は戦闘用の式の打ち方など知らない。もしかしたら文は知っているのかもしれないが、教わっていないし興味もなかった。


 自分にこんな状況が訪れると知っていればまた違っていたかもしれないが、軍人でも警察でもない一介の骨董屋店員に過ぎない自分には本来必要のない技術だ。


 半分興味本位で花房に同行したのがこんな事になるとは。追跡式を使えただけでもそれなりに満足していたというのに。


 『守』と書かれた式を足下に置く。半円状の、薄い光の膜が明神達を包む。

 光の前で影はその動きを止める。どうやら少女の影はその中には入って来られないらしい。効果がある事が確認できて明神はほっとした。


 しかし、その周囲は完全に包囲された。


「なるほど」


 少女は感心した様にその様子を見つめる。


 この防護式が破られれば、確実に明神達は捕まる。


 あれに捕まったら、どうなるのだろうか。


 少女は淡々と、明神の張った結界を締め上げている。


 地面に置かれた札に、次第に破れが生じてきた。


「まずいですよ!」


 こんな式は、大した時間稼ぎにもならないらしい。


「おい、お嬢さん」


 花房が声を上げる。しかし、見つめる先は明神達を襲っている少女ではない。

 明神達の背後で小さく震えている奥山雲雀に向けて言っていた。


「神津深雪の音楽は人の精神に直接影響を及ぼす――だったな。それで何とか出来ないか?」


「えっ?」


 雲雀が戸惑う様に花房を見返す。

 明神には訳が分からない。


「何を言ってるんですか。この人は雲雀さんですよ!」


「いいや、違う。彼女が神津深雪だ。こいつらは入れ替わっていたのを元に戻した振りをして、俺達の目の前で主従を入れ替わったんだ。目的は知らないがな」


「何ですって?」


「今言った通りだ。緊急事態だから説明は後にしろ! 出来るのか出来ないのか、どっちだ!」


 雲雀は――深雪は震えながら首を横に振る。


 そんなやり取りをしている間にも、式の破れは酷くなっていく。もういくらも持たない。


 花房は舌打ちをして、懐から拳銃を取り出す。式も魔術も関係ない純粋な殺傷力。こんなものがあるから、式神などというのは世界に必要とされなくなって廃れたのだ。


 しかし、いくら何でも夜中とはいえ帝都の市街地で発砲するのは無理を通り越して無茶苦茶である。まかり間違ってあの少女を射殺してしまったら、正当防衛というわけにはいくまい。真実が認められるはずもなく、花房は生涯刑務所だ。


 花房は撃てない。いよいよとなったら撃たなければ自分の身が危ないが、一撃の代償があまりにも大き過ぎる。


 銃は無意味に強力過ぎるのだ。


「あら怖い」


 そんな花房の思考も読み切っているのだろう。銃を見ても、少女は影で結界を締め上げるのをやめる気配はない。


「探偵様――」


「出来たら俺は殺人犯にはなりたくない。だから銃は使いたくないんだ。何故あんたがメイドの振りをして俺達に付いてきたのか分からない。しかし、余程の事情があるんだろう? ここで俺達があいつに捕まるか、俺が発砲してあの娘を殺せば、何もかもお仕舞いだ。それでもいいのか? あの娘は訳が分からない。恐ろしいのは分かるが、今自分に出来る事があるなら、それをやれ」


「わかり――ました」


 深雪は震える手で、鞄からフルートを取りだした。深雪の本職はヴァイオリンのはずだが、フルートでも代用が可能ということなのだろうか。


 銃を見せられても平然としていた少女の顔が、少しだけ険しくなる。


「いけませんよ。貴女みたいな有名人がこんな夜更けに出歩いては。天才少女さん?」


 少女が右手を水平に上げ、掌を強く握った。

 すると影の締め上げる力がさらに強まった。


「く――」


 駄目だ。もう保たない。


「耳を塞いで下さい!」


 深雪が叫ぶ。明神と花房は急いで耳を塞ぐ。

 まるで音の塊が弾丸となり、それに貫かれた様な衝撃を覚えた。


 別に爆音という訳ではない。ただの笛の音色で、音量がさほど大きいわけでは無い。しかし、耳を塞いでいたのにも関わらず、明神は脳天を槌で殴られた様な衝撃を覚えたのだ。


 目眩に襲われ、平衡感覚が狂っていく。

 集中力が維持できず、結界が壊れそうになるのを寸前の所で踏みとどまった。


 神津深雪の音楽は人の精神に直接作用する。通常の演奏会で観衆を感動させるだけでなく、こういった使い方も可能なのか。


「くそっ、敵味方無差別かよ」


 花房が頭を抑えながら悪態を吐く。

 しかし、耳を塞ぐ事も出来ず、正面から深雪の音を受けた少女の衝撃はそれ以上だった。


「ああっ!」


 悲鳴を上げて膝からその場に崩れ落ちた。瞬間、結界を締め上げていた影は霧散する。


「今だ!」


 演奏が止まった瞬間、花房が飛びかかる。


「くっ!」


 少女は片膝を付きながらも再び影を動かそうとする。しかし、それよりも花房の動きの方が速かった。


 花房は少女を後ろ手で締め上げる。元々腕力はほとんどないのだろう。こうなってしまってはまるで抵抗する事もできない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ