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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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23 探偵と女学生

 少女は式神の札を指先で弄りながら、落ち着き払った態度で明神達を見やった。これくらいの年齢の少女の平均から考えても小柄な方であろう彼女だが、その態度や風格だけを見ればとても小娘には見えない。銀縁の眼鏡の奥にある瞳は、理性に満ちた輝きを放っている。


 ただの少女では無い。


 そして何より、明神達の姿を見て少女が言った言葉だ。


 ――先程の探偵さん達じゃありませんか。奇遇ですわね。


 先程、とは何時の事なのか。神津邸の屋敷で影を見た時、同時に向こうも明神と花房の存在を認識していたはずである。それの事を指しているのだろうか。少なくとも、他に心当たりが全くない。そしてさらに、明神の式神が彼女に向かって飛んだという事実。


 普段であるならば単に明神が式を書き間違えた可能性も否定できない所ではあるが、彼女の言葉を考えると、きっと明神は式を間違えてなどいないだろう。


 つまり、結論は一つ。


 この少女が影の使役者であるのだ。

 他に考えられない。


 ――こんな少女が?


 それでも、かなり信じがたい。


「驚きましたね。私を追跡してきたのですか?」


 しかし少女は、全く誤魔化そうとも言い訳の一つも語ろうともしない。


 明神達は神津直の死体発見現場から、式の残り香を追跡しここに来たのだ。ならば、その行き着く先であったこの少女は、神津直を殺害した可能性がある。警察は自殺と判断していたが、あの奇妙な影を使って何かをしたというのならば、警察の目を誤魔化す事などさほど難しい事ではないだろう。


 それなのに、少女はあくまで明け透けな態度を崩さない。まるで自分には後ろ暗い事など何一つ無いかのような、そんな確信に満ちた表情をもって、明神達を見据えている。


「お前を追跡したつもりはなかったぜ。ただ殺人事件の犯人の痕跡を追いかけていたら、ここに行き着いただけだ」


 花房が言った。


 行きずりの少女に掛けるような言葉ではない、まだ不確定である殺人についても決めつけている、攻撃的な意志を持った物言いだ。


 しかし少女はまるで意に介する様子はない。


「なるほど。それがこの紙というわけですか。これを使って私に辿り着いたと? 興味深いですね。表にもまだこんな技術が残っていたなんて――」


 表、とは裏の反対の事。少女が言っているのは帝都の裏側の事、と考えていいのか?


「それで? 私に何かご用ですか?」


「お前は、何者だ?」


「あら? これは異な事。見ての通り、この女学校の学生ですわよ。音楽研究部の部長を務めさせて頂いていますわ」


 少女は芝居がかった調子で、スカートの裾を軽く捲り、小首を傾げる。


「子供は家に帰って寝る時間なんだがな」


「あら? 私は見た目ほど子供じゃありませんよ? 案外、探偵さんよりも長く生きていたりして」


「――あの影を操っているのはお前か?」


 少女の調子に合わせていても埒が開かないと判断したのだろう。花房は単刀直入に聞いた。


「そうですよ、と言ったら?」


「お前は神津直を殺したのか?」


 明神の後ろに立っている雲雀が息を呑む。


「はてさて――何とお答えすればよいのやら」


「何か知っているのは間違いないらしいな。話して貰おうか?」


 少女は答えず、ゆったりとした動作で懐から金色の懐中時計を取り出してそれを見つめる。

 時間を気にしているのか?


 そもそも、この少女はこんな時間にこんな場所で何をしようとしているのか。


「私も探偵さん達には興味があります。出来たらゆっくりとお話しをしたいと思うのですけど――今夜はどうしても外せない用事があるのですよ。私の大切なお友達をおもてなししないといけませんので」


 少女はくすりと微笑む。


「ですので――お断り致しますわ」


 言い放つや、少女の足下から放射状に影が伸びた。それはそのまま明神達の足下に向かってくる。

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