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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
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19 桜ヶ崎女学院

 どうやら話しているうちに神津直が溺死した地点まで辿り着いたらしい。とはいえ、ここが他の場所と違いがあるわけでもなく、ただ川のせせらぎの音が聞こえるのみだ。手すりの下に菊の花が供えてあって、ここで何らかの事故があったらしい事が見てとれる。


「明神」


「分かってますよ」


 明神は陰陽札を川に向けて放った。すると、屋敷の時よりも遙かに多くの光の粒が大気中に現れた。


「当たりみたいですね」


「よし、追跡出来るか?」


 明神は何も書いていない札を取り出し、『追』と書いた。他にもごちゃごちゃと何か書かれているが、花房には読めない文字である。文字というよりは紋様なのかもしれない。


「さっきのは痕跡を探すための式です。それで、これはその痕跡が見つかった場合、それを残した人間を探すための――」


「説明はいいからさっさとやれ」


 花房の態度に明神はかなり不服そうだったが、黙って従った。改めて札を宙に翳す。


「この札を見て下さい」


 言われて覗き込むと、墨で書かれた文字が紙上で生き物の様にもぞもぞと動いていた。しばらくそれを眺めていると、墨が矢印の様な形になり、紙の端のある一点を指している。


 明神はそれを手放した。紙切れはひらひらと、どこやらへと飛んで行こうとしている。


「これを追いかければいいわけです」


「神津深雪も超能力者らしいが、お前の方が余程あれだよな」


「お褒めに預かり光栄です」


「変な壺でも売れば大儲けだろ」


「それが意外と売れないものですよ」


 別に薄月堂は壺を心霊商品として売ってはいないのだろうけども。


「あ、どこかに飛んでいきますよ!」


 雲雀が慌てて言う。明神と雑談している間に式神はもうどこかへ行こうとしていた。三人は急いで式神を追いかけた。


 三人は黙々と式を追いかけていたが、そのうち完全に日が暮れた。


「これってどれくらいの範囲まで追えるんだ?」


 焦れた花房が明神に尋ねる。


「そんなに長距離は無理ですよ。具体的に測った事はないから分かりませんが。というか、実戦で使うのも初めてですし」


「頼り甲斐があるな」


「花房さん程ではないですよ」


 皮肉の応酬はともかく、このまま夜道を探すのはあまり得策ではない。今は未婚の女子までいるのだ。こんな事なら明日にすればよかったかもしれない。


「日を改めた方がいいですかね?」


 明神も仕方なさげに呟く。


「今どこのあたりだ?」


 このあたりの地理を全く知らないわけではないが、こう暗いと分かりづらい。


「本郷区の、そうですね――桜ヶ崎女学院の近くじゃないでしょうか」


「なるほど」


 言われてみれば、道の奥に見える建物は女学校の校舎なのかもしれない。花房には、全く縁もゆかりもない場所である。こんな事でもなければ一生近づく事すら無かったかもしれない。


「女学校に向かってるんじゃないだろうな?」


「はは、まさか――」


 そうは言ったが、式神は女学校に向かって飛んでいく。


「おいおい」


「本当に学校に向かってるみたいですね。どういう事なんでしょう?」


「俺に聞くのかよ」


 それは、明神の術技が間違えているか、犯人が女学校にいるかのどちらかしかないだろう。


 式神は、校門の前でひらりと地面に落ちた。


 桜ヶ崎女学院。


 結局、式が示したのはここだった。


 そして、そこに一人の少女が立っていた。銀縁の眼鏡を掛けた、小柄な少女だ。桜ヶ崎女学院の黒い冬のセーラー服を着た彼女は、ぼんやりと星空を見ながら、校門に凭れる様にして佇んでいる。式神は、彼女の足下に落ちている。


 それに気がついた少女は細い腕を伸ばして式神を拾い上げる。


「あら? 先程の探偵さん達じゃありませんか」


 顔を上げた少女は花房達に気が付き、そう言った。


 ――先程?


「こんな所でお会いするなんて、奇遇ですね」


 少女は花房達を見てにこりと微笑んだ。

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