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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第一部 帝都の歩き方
13/180

12 嘘

 苑緒は他人に自身の能力について問われた時、嘘を吐かない事にしているらしい。


 何となく、公平ではない気がするから。そう言っていた。


 だから蓬子に同じ様な事を尋ねられた時、正直に答えたのだろう。


 勿論、自分から絶対に吹聴しないし、人前で能力を見せる事もしない。そもそも人と関わらない様にしているから、不思議がられる事もないだろう。だから普段は尋ねられる事はない。


 蓬子が苑緒の能力に気付いたのは、偶然だ。クラスメイトの友人の財布が何者かに盗まれた際、同じクラスの貧しい娘が疑いの目で見られた。証拠も無しにただ貧乏だというだけで疑うのはどうかと思ったので、蓬子はその娘を庇った。


 その時、普段は無口な苑緒が珍しく、彼女は犯人ではないと皆に意見を主張した。その様子が、蓬子の様に貧乏だから疑うというのは人道的にどうとかいう漠然としたものではなく、何となく確信に満ちている感じで、不思議に思った。結局犯人はクラスとは関係ない外部の人間だったのだが、後で蓬子は苑緒に「彼女が犯人ではないと思った根拠はなんだい?」と聞いてみたのだ。


 苑緒は正直に答え、蓬子はそれを信じた。


 今回は蓬子が露骨過ぎた。


「はい。私は昔から勘働きが鋭くて、人の嘘が分かるんですよ。だから先輩が嘘をついていない事も分かってしまいます」


 勿論、馬鹿正直にそう言われて蓬子と同じ様に信じるかは、また別の話である。


「冗談にしか聞こえないけど、貴女に言われると、なんだか本当なんじゃないかって気になってくるわね。ふうん、人の嘘が分かる――ね」


 環は苑緒を興味深そうに見つめた。彼女も、どちらかというと信じている様に見える。蓬子の場合と違って今はまるで根拠がないのに。


 少し不思議だ。環はそこまで夢見がちな人間には見えないのだが。


「だから貴方はいつも哀しげにしているのかしら?」


「――え?」


「いえ、何でも無いわ。気にしないで」


 環が優しげに微笑む。

 何だかその笑顔が、とても意味ありげなものに見えて仕方が無かった。


「それでは、ピアノを弾いている人間について、心当たりはありますか?」


「いえ、ないわ」


 環は即答する。


「えっ?」


 しかし、苑緒が戸惑う様に声を上げた。自分自身の反応がおかしかったのか、苑緒は気まずそうに顔を背けた。


 ――これは?


 まさか、今のは嘘だったのか?


 無表情な癖にポーカーフェイスが下手なのは実に苑緒らしい。


 と、すれば瀬川環は音楽室の幽霊の正体に心当たりがあるということになる。


 それはつまり、どういう事だ?


「苑緒さん、どうしたの?」


 当の環はどこか楽しげな様子ですらある。試すような目つきで苑緒を見る。


「いえ、何でもありません」


「そう? ならいいけれど」


 何だか、風向きが変わってきた。

 尋ねているのはこちらであるのに、嘘を見抜く手段があるのはこちらであるはずなのに。


 ――まるで、私達が値踏みされているみたいな。


 嫌な感じがする。


「あら、そろそろ時間ね。部活に行かないと」


 環は立ち上がった。


「ねえ、苑緒さんに蓬子さん。その音楽室の幽霊、きっと今夜も現れるんじゃないからしら? 何だかそんな気がするわ」


 では、と言って環は小さく頭を下げ、環は悠然と去って行った。

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