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帝都の歩き方  作者: 初瀬灯
第二部 たそがれ異界
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29 覚醒

「あ――」


 目を開いた途端に飛び込んで来たのは見知らぬ景色だった。木造の、何かの建物の個室らしい。次いで、自分がベッドに寝ている事に気づく。


 ――ここは病院、かしら?


 どうして自分は病院になんかいるのだろう。初瀬は記憶を思い返す。剱に背負われて浅草の裏通りまで戻ってきた所までは覚えている。そこで、横になったまま剱の語る異世界にまつわる奇妙な話を聞いて、そして――


 ――そうだ。


 初瀬ははっとして上半身を起こす。自分は『失せ物探し』により牛之助と共に影に飲まれた自分の鋏の在処を探ろうとしたのだ。


 能力は過たず発動した。しかし見えたのはまるで知らない町並みだった。


 それはまるで夢の国のようにふわふわしていて、距離感も何もあったものではなかった。いくら漠然とした景色が見えても、その位置が分からなければそこに行くことは出来ない。ひいては牛之助を見つけることも永遠に出来ない。


 もう一度やり直したのだ。今度はさらに深く、限界を超えて。その途中で、凄まじい頭痛に襲われて――そこから先の記憶がない。


「行かないと」


 頭痛に襲われてからの事が思い出せないが、おそらく初瀬は『失せ物探し』に失敗したのだ。それで意識を失い、アケミか捨十に病院に運ばれた、と多分そんな所だろう。


 ――馬鹿か。私は。


 こんな所で居眠りをしている場合ではないのだ。早く牛之助の居場所を探らなければ。


 牛之助は大怪我をしていてすぐに手当が必要だし、あの恐ろしい久世の手に落ちたのだから、一刻も早く助けないと何をされるか知れたものではない。


 『失せ物探し』は初瀬にしか出来ない。初瀬がやらねば、牛之助の居場所も分からないのだ。


 初瀬は目を閉じて意識を集中する。今度こそ失敗はできない。いや、あの頭痛が起きたって、鋏の在処まで突っ切ってやる。


 ずきり、と頭の芯に痛みが走る。駄目だ、この程度の痛みで怯んではならない。自分が、初瀬がやらねばならないだ。


 深く、もっと深く――


「使っちゃ駄目!」


 不意に声を掛けられて、集中していた意識が途切れる。


「え――」


 声のした方向を向くと、派手な化粧をしたモダンガール――アケミが心配そうな顔をしてベッド横の椅子に腰掛けていた。


「アケミさん? どうして?」


 横に座っているという事は、ずっと初瀬の傍にいたのか。声をかけられるまでまるで気がつかなかった。


「昨日からずっといたわよ。初瀬ちゃんがなかなか目を醒まさないから、心配したんだから」


「ああ――」


 どうやら初瀬はアケミに運び込まれたらしい。アケミはいつもの様にどこか軽い調子でありながらも、強い意思を感じさせる声音で言った。


「初瀬ちゃん。言いにくいんだけど――その力、もう使っちゃ駄目よ。その方がいいわ」


「どうして、ですか?」


 この初瀬のどうしてには、二つの意味がある。どうしてアケミがそんな事を言うのか、どうしてアケミにそれが分かるのか。


 問われたアケミは憂いを含んだ瞳をそっと伏せる。


「ずっと黙っててごめんね。あたしも持ってるの。初瀬ちゃんと同じ様な、不思議な能力を」

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