9 悪戯
つまり、こういう事らしい。
初めに明神と花房を招き入れたメイド服の少女が神津深雪で、客間にいた如何にもご令嬢然とした少女が実は奥山雲雀、と。
「ははは、これは一本取られましたね」
花房は面白そうに言った。内心どう思っているのか明神には分からないが、とりあえず大人の対応である。
「ごめんなさい。私達、時々こうやって遊ぶのです。どうも雲雀の方が大人しくってお嬢様の様に見えるらしくって」
「ええ、雲雀さんの深雪嬢があまりにも様になっていて、すっかり騙されてしまいました」
水を向けられた雲雀が赤面して俯く。そして「お茶をお入れしてきます」と言って逃げる様に部屋から出て行った。
「どうぞ、お掛けください」
深雪に促されて、明神達はソファーに腰を下ろした。
「父の死の調査を依頼されたのですね」
「はい。それで出来ましたら協力していただければと思って、こちらに参った次第です」
深雪は頷く。先程の猫の様に悪戯な表情は消えていた。
「私も、ずっと気に掛かっていました。何故、父があの様な――。調査をなさるというのならば勿論、探偵様に協力は惜しみませんわ」
「ありがとうございます」
「今の私があるのは、父のお陰ですもの。私が父に見出されなければ、きっと私は――あの舞台に上がる事無く生涯を終えていたことでしょう」
そう言った深雪の瞳は、先程の雲雀以上に遠くを見ている様であった。
神津深雪は父である神津直に才能を見出されてデビューする事になり、今に至るという話は探偵事務所で聞いていた。実の娘であるとはいえ、その才能に気づき、開花させる事は決して簡単な事ではないだろう。
「生前、直氏にどこか変わった様子はありませんでした?」
深雪は憂鬱そうに首を振った。
「心当たりはありませんか?」
「――一つだけ」
深雪は明瞭に、花房を見据えて言った。
まるで、自分達を値踏みしている様な――。少なくとも明神はそう感じた。
「最近、私達の身の回りは変わった事ばかりが起こるのです」
「変わった事、ですか」
「何と言えば良いのでしょうか――間尺に合わない、不可思議な出来事です」
――叔父の死には、得体の知れない何かが関わっているのではないかと、そんな気がしてならないのです。
依頼人、宮元正はそう言っていた。
「詳しく教えていただけますか?」
「――よろしいのですか?」
深雪の瞳が、怪しく光った気がした。明神の背中に、何故だか冷たい物が走った。花房が黙って先を促す。
「影が――」
――影が見えるのです。
神津深雪はそう言った。




