量子力学とチェックメイト
なろうラジオ大賞投稿作品です。
「先輩、また難しそうなの読んでるんですか」
肩を叩いてきた後輩の坂口真奈美ちゃんは顔を覗き込んでそんなことを言う。
「難しそうかは分からないけど、今読んでるのはシュレーティンガーの……」
「良いです良いです、説明されてもわかんないんで」
両手をオーバーにふる君に苦笑いしつつ、少しホッとする。
学者になりたいと思った小学生の頃の情熱を失いはじめている。理由は簡単、自分が天才じゃないと気付いてしまったから。
「先輩は頭良いですよねー。マジ天才って感じ」
「ただの秀才だよ、努力してるだけの」
そんな僕を君は天才という。紛い物なのにね。
「あれですね。99%の努力と1%の、えーっと」
「閃き、かな。エジソンだね」
「そっ、それです。先輩は努力してるから天才なんですね」
「違うよ。エジソンの言ってるのは、どんなに努力して基礎を磨いて身に付けても、たった1%の閃きがなければ無駄だってこと、それが天才と秀才の壁なんだよ」
「んー、あれですか。努力してヤマをはって一夜漬けしても、勘が外れたら意味ないみたいな」
「面白い喩えだね」
僕は思わず笑ってしまったけど、君も何故か嬉しそうに笑っている。
「でもでも、一夜漬けのテスト勉強は勘が外れたら意味ないかもしれないけど、先輩の努力はちゃんと意味がありますよ」
君は真剣な顔になって、僕の目を真っ直ぐに見て話してくる。
「なんでそう思うんだい」
「閃きがあるかどうかは私なんかには分かんないですけど、例えば先輩が閃かなくても、誰かの閃きを形に出来るくらいに先輩は頭良いですし、沢山勉強も、なんか色々してますよね」
「なんか色々って……」
「もうっ、……笑わないでくださいっ」
あんまりにもフワッとした内容に吹き出してしまったけど、実のところは泣きそうなくらいに救われた。君はなんで、こうも自分の後ろ向きな気持ちを前へと向かせてくれるんだろう。
「そうだね。自分が閃かなくても、誰かを支える秀才でも、それだってきっと主人公だ」
「そうです。先輩は間違いなく主人公です」
そんな風に笑ってる君は知らないだろうね。
堂々巡りの千日手に陥った僕を綺麗に詰ませたしたなんてさ。
感想お待ちしてます。