使える透視くんと小さい芽
冒険に出させたかったはずがまだ出ていない衝撃
「ちゃんとスキルは使えたか?」
「はい!お陰で違いが分かりました」
スキルから得た情報量は少ないものの、正常に透視のスキルが使えることが分かったことは大きい。
そういえばと、俺は透視の二つ目の使い方を思い出す。ちょうどいいし、弱点看破というのも試してみることにしよう。
さっきと同じように念じてみると、兄の頭と心臓付近がぼんやりと赤く光り出す。
これは予想通りだったと、俺は腕を組み考える。
弱点看破は文字通りどこを狙えばいいかの目印だ。これは戦闘経験のない俺にも優しいかもしれない。
どこまで考えてふと謎になるのが最後だ。
『選択した対象を透過する』とはなんなのか。これこそ透視の正しい能力説明なのではないかと思うが、一体どこまでが対象として認識されるのか。
使った瞬間うっかり服まで透けたら、もはや事故としか言いようがない。
うむ、これは兄には内緒で使ってみよう。
決して我が家のメイドさん達には使わない。紳士だからな!
そう心に決めた俺は、こっそり透視を発動してみる。
(こ、これは……!)
何か不自然なところはないかと兄のことを見てみるが、兄自体には変化はない。
ただ、腰につけている小さめの鞄がぼんやり光るのみだ。
もう少しよく見ようと目を凝らす。するとそこには、手帳やナイフ、瓶に入った飴玉が見えた。
「ねぇ兄さん!その鞄には何が入っているんですか?」
「これか?これにはナイフと手帳…あとはアリオと食べようと思ってた飴が入っているね」
突然の問い掛けにも、カリスは一つずつ物を取り出しながら丁寧に教えてくれた。それは先程見えた中身と綺麗に合致している。
(ちょっと使えるんじゃないかこれ!?)
これで透視の最後の使用方法は判明した。
使用MPゼロでこの汎用性ってこの子良い子すぎないか?
今見てきたステータスの中で俺に一番優しい。
一つ残念なのは、透視は攻撃力もゼロだということ。
危険物を持っているかの区別がつくのはいいが、欲を言うなら攻撃出来る効果も付いていてほしかった。
(ちょっと待てよ?)
そういえばカリスはスキルツリーがあると言っていたな。
カリスが差し出してきた飴玉を口に入れながら、ステータス画面を開いて隅から隅まで見てみる。
だがしかし、期待に反してあるのはさっきと変わらないステータス達。
試しにスキルの概要も見てみるが、何も変わったところはない。
「あ、そうだアリオ。明日、お前さえ良ければ一緒に訓練しないか?」
「訓練ですか?」
ステータスと睨めっこしながら唸っていた俺に、カリスはそう提案してきた。
「そうそう。地道な努力は身を結ぶって父上も言っていただろ?剣や魔法の稽古をすれば、アリオにも良い影響があるんじゃないかって思ってさ」
「ぜひ!参加させてください!」
スキルを身に付けたばかりの俺にとっては願ったり叶ったりの提案だ。もしかしたらこれを機に、新しいスキルを覚えたりするかもしれない。
「あまり無理して何かをするのは駄目だからな?アリオは外ではしゃぐタイプじゃないし、いきなり運動したら体がビックリするかもしれないからね」
「はい!ありがとうございます兄さん!」
「お礼を言われるようなことはしてないよ。じゃあ、そろそろ俺は父上のところに行くから」
「何かあったらすぐ言うんだぞ」と言い残して、カリスはヒラヒラと手を振って去っていく。
最後までイケメンだなこの兄は。
決めた。仮に祝福を消滅させて死ねるようになったら、兄に素敵な奥さんが出来るのを見守る。碌でもない人が兄の婚約者になったら死んでも死にきれない気がする。
そんなことを真顔で考えながらも、俺はベッドに寝転んで分かったことを整理し始める。
まず分かったのは俺はクソ雑魚だということ。
称号はデバフのブースターパックだし、異世界だからこその魔法は、消費MPが HPに変換されて容赦なく俺をぶん殴ってくる。ツライ。
唯一無害な称号は『転生者』だけだが、それも動物に好かれるという使えるのか分からないものだ。
肝心の祝福は、俺にとってはもはや呪いになっている。不老不死って誰が望むんだろう。正直言って正気を疑う。
確かめようにも、不死者の蘇生がどういうものか分からない以上リスクが高い。
何より…
(痛いのは嫌なんだよなー…)
俺は前世の自分のことを全て覚えている。勿論、自分の最期までしっかりとだ。
感じた風圧、体に走った痛みと衝撃、その全てを鮮明に思い出せてしまう。
こちらの世界では感じたことがない為、それは時に俺の中に明確な恐怖心を植え付けていく。
(いけないいけない)
ふるふると首を振って恐怖心を隅へ追いやると、スキルツリーのことを思い浮かべる。
見落としかと思って、もう一度ステータス画面を目の前に出すが、やっぱりそういう類のものは見られない。
これは本気で成長性ゼロで暮らすしかないのか俺。そうなったらいい加減恨むぞ神。
大体、ステータス画面に『平凡の見せ掛け』なんていうものがかかっている時点で、わりと悪意があったように感じたんだけどな。
スキルツリーが無かったら、それはもうイジメだぞ??
(待てよ…?平凡の見せ掛け?)
もしかしてと思いガバッとベッドから起き上がると、ステータス画面に手をかざす。
「スキルツリー解放!」
▶︎・・・
え、無視?
わざわざ三角のコマンドみたいなのが出ているのに無視なのか?
もしかしてポーズや掛け声が違ったとか?
そう思った俺は、今度は某ライダー風なポーズを決める。
「解!放!!」
某死神風に言ってみるがやはり反応はない。
また違ったかと、俺はどんどん試していく。組み合わせを変え、掛け声を変え、数十分ほど試してみたが結果は全敗。
俺に至っては現実逃避で腕立て伏せをしだす始末。ちなみにこちらの結果は小学生の平均以下となった。どうやら俺の貧弱さはこんな所にも影響していたらしい。
▶︎条件を満たしました。
▶︎『スキルツリー』を解放します。
…Why?
え、今?
何で?
俺が今していたことって腕立て伏せ(出来ていない)だけだぞ?
▶︎『スキルツリー』を解放しました。
混乱する俺を置いてけぼりに、目の前のステータス画面が書き変わる。
慌てて画面を見てみるが、なんら変わらないステータス画面が鎮座しているだけだ。
いや違う。なんだか小さい新芽みたいなのがステータス画面の下の方に見える。
これが…俺のスキルツリー?
タイム。一言言わせて。
……え?もしかして俺のスキルツリー小さすぎ…?
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