兄とお話ししましょう
今日のおやつはサクッと美味しい四層のお菓子でした。
「なるほど、不死者か……」
俺がステータス画面で見た説明を伝えると、兄は真剣な表情でそう呟いた。
どうやら気持ち悪いとかは思っていないらしく、俺は内心胸を撫で下ろした。
「はい…正直毒にも薬にもならなそうなもので、父上達には迷惑をかけそうだなって…」
正直もっと領地の運営とかに割けるような祝福が欲しかったですハイ。
それでぱぱーっと家族を支えた後、引きずることなく人生を終える筈だったのになぁ…
正直まだこの祝福は魔法に向いているのかとかの見当もついていないし、ステータス画面にもそれらしきものがなかったから分からない。
絶望のせいで父親にも聞けなかったからな…
ふて寝じゃなくてそういうの調べたり、聞いたりすればよかった。
…あれ?もしかしなくても俺無能??
そんなことを考えていた俺とは反対に、カリスは未だ神妙な面持ちのまま考え込んでいる。あまりにも難しい顔をしていたので、邪魔をしたら悪いかと声をかけれずにいる俺に、兄は「その祝福は永続発動なんだよね?」とこれまた何処か悩ましげな声で聞いてきた。
「はい、俺が見た説明にはそうありました」
「そうか……」
「どうかしたんですか?」
静かに俺の頭を撫で始めた兄の手は震えている。さっきまで書類を眺める父のような顔をしていたのに、今の表情は泣くのを我慢している子どもそのもので、そのギャップに首を傾げる。
俺なんかしたかな?
「兄さん…?」
「アリオはこの祝福をどう思ってる?」
「どうって…」
正直いらない。
だって死なないって言っても、痛覚云々については書いてないし…痛いのは嫌だ。
それに、死なないということは取り残されるということだ。
朽ちることのない身体ともあったし、老衰も見込みがない。
変化し続ける毎日に恐怖し、周りには置いていかれ、ただ意味もなく過ごす。
前世と変わらない。いや、死ねないんだから前世より悪いか。
「俺はアリオが一人になるのは嫌だな…」
あぁ、なるほど。カリスはこれを悩んでいたのか。
朽ちない体に、生き返る体と来たら、待っているのは孤独だ。知っている人物はどんどん入れ替わり、世界の移ろいを見るだけ。
前世の経験上、孤独は人を殺せるものだ。それは身体的なものじゃなくて、心の問題だが。
孤独感はゆっくり人を殺していく。
例えその孤独感を分けあえる人が現れたとしても、俺の場合はその人にすら置いていかれる。
「俺だって、兄さん達に置いていかれるのは嫌です…」
一度優しさを知ってしまえば、ずるずると離れられなくなる。それに、別れが決まっているなら、人と関わる方が苦に感じるかもしれない。
鬱々とした気持ちの中、頭を撫でていたカリスの手が止まる。何事かと顔を覗くと、兄は覚悟を決めたような顔をしていた。
「決めた。俺はアリオの専属預言者になるよ」
「え…えぇ!?」
突然の宣言に目を白黒させる。
どこからどうやってその考えになったのかが全く分からない。
それに兄は次期伯爵だ。弟の専属だなんて、貴族社会じゃどう考えてもおかしい。
「ま、待ってください兄さん!!それは駄目です!」
「駄目ではないと思うけど」
「駄目ですってば!」
反論はしてみたものの、兄はもう決めのだと譲らない。
おかしい。カリスがこんなに頑固だったことは他にないぞ?
「だいたい俺は、祝福を無くすために旅に出ようと考えてます!」
「だったら丁度いいよ。俺はその手助けをする」
「いや兄さんは跡取りですからね!?それに旅するつもりの俺に対して予知を使うのも大変ですって!」
「大丈夫だ。今日アリオ達が出掛けた後開花したスキルを伸ばしたから」
あの手この手で説得を試みるが、兄は笑顔で躱していく。
ちょっと待って!開花したスキルを伸ばすって何事!?
「というか兄さん!開花したスキルを伸ばすってどういうことなんですか!?」
「あぁ、アリオはまだ知らないのか」
勢いで聞いてみたら、兄はサラリと教えてくれた。
まず、ステータス画面には自身が使えるスキルが並んでいること。
それは祝福によって使えるものと、経験から得たものに別れること。
そのスキルを使用していくことで新たなスキルが開花する可能性があること。
ここまで聞いてなんとなく、RPGで言うところのスキルツリーみたいな感じかと置き換える。
というかステータス画面見た時に、そんなの全然なかったんですけど!?
「に、兄さん…ちなみにそれってどうやって確認するんですか?」
「え?自分のステータス見れるだろ?そこから見れるはずだ」
そう言われて慌てて確認するが、あるのは名前と種族、歳、緑と青の棒、そして祝福だけだ。
…あまりにも少なくないですか?
「兄さん…俺ナニモナイ…」
「急にカタコトになってどうしたんだ!?」
無理…無理です…。
もう生きる希望がないです……。でも死ねる希望もないです!!!
「ま、待てアリオ!とりあえず片っ端から詳細が見れるか確かめるんだ!」
「うぅ…」
あわあわと慌て始める兄に促されて、言われた通りステータス画面を上から下まで眺めてみたのだが……
結果として俺は兄の隣で半泣きしていた。
むしろほぼ泣いてるかもしれない。
…神よ、もう一度聞くが、そんなに俺のこと嫌いか?
いや、うん。好かれるところないと思うけどさ!?
もう少し人並みにしてほしいかな!?!!
カリスに頭を撫でられながら、分かりやすく肩を落としていると、急に頭の中に間抜けな効果音が響いた。
そして目の前にはステータス画面…だが、そこに書かれていたのは一文だけだった。
▶︎『平凡の見せ掛け』を解除しますか?
……何これ?
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