不死者is何
今日のお昼ご飯は焼きうどんでした。
FU SHI SYA???
え、不死者って何?あの不死者??
よくラノベやゲームで、魔王やその配下の幹部とかが持ってるあれ?
…んー?
そ、そんなまさかね!
きっと見間違いとかだよな!!
ゴシゴシと目を擦る。目の前の文字は変わらない。
古典的だが頰をつねってみる。変わるはずもなく、画面に輝く不死者の文字。
チクショウメーーーーッ!!!!!
「神官長、それはどのようなものなのだ」
「なにぶん私も目にするのは初めてなものでして…お力になれず申し訳ありません」
「そうか…このことは」
「多言無用ですな。しかしながら、長年教会で若者達が祝福を授かるのを見守ってきましたが…いやはや、長生きするものですな」
まっっっって。なんでそんなに感動な話みたいになってるの?!
(いやまだだ…!)
俺は咄嗟にもう一度ステータス画面を凝視する。こういうのは大抵ステータス画面で詳細が見れるはず。そう思って祝福の欄に鎮座する“不死者”をタップしてみる。そうすると瞬時に画面が切り替わる。
(いけた!!よし、これでお前が無能な祝福だということを証明するんだ!)
大体俺の種族はヒト族だとステータスに書いてある。この場合は、不死者と言っても一回死なない程度の使い捨て機能だったりする。そうそう不死身だなんて上手くは——
*****
不死者:決して朽ちることのない肉体を持つ。
体力が尽きた際、自動で体力を最大まで回復。身体機能も修復する。
ダメージの度合いによるが、修復には長くて一日を要する。
永続発動。
*****
<永 続 発 動>
神よ…そんなに俺のことが嫌いか…?
俺が何をしたっていうんだ…
まだ生まれて十年しか経っていない幼気な少年なのに…
こんなのってないよ!あんまりだ!
こんな祝福じゃ終活なんて出来やしないじゃないか!
異世界体験に喜んで、たった数分で人生が億劫になると思わなかった。これは終活出来るのかな…。役に立つかも分からないし、場合によってはただの無能になり得る。それで生きてくのめっちゃ辛い。もう既に心のライフがゼロになってる。
あまりの絶望に静かに項垂れる。だからこの時俺は聞いていなかったのだ。
「しかしラグダル様、広めぬよう口止めは行いますが…王家の預言者の目に留まるやもしれませぬ」
「そうなれば謁見は免れんな…」
新たな祝福の誕生が、どれだけ重大なことなのかということを。
———…そして俺は絶望と共に帰宅した。
出迎えてくれた母親達への挨拶も早々に部屋に閉じこもる。ショックのあまり、あの後の記憶は曖昧だ。帰宅途中の馬車では父親も無言だったし、尚更だった。
「アリオ?部屋に入ってもいいか?」
控えめなノックと共に、落ち着いた兄の声が聞こえる。ベッドの中でふて寝をしていた俺は、のそのそと這い出ると扉を開く。案の定心配そうな顔をしたカリスがそこにいた。
「何があったか聞いてもいい?」
こくりと頷くと、兄は俺の手を引いて一緒にベッドに座る。そういえばまだ兄に祝福のことを伝えていなかった。でも、これってどう説明したらいいのだろうか。いきなり不死身になりましたなんて信じてくれるか分からない。
「兄さんそのー…祝福がね……」
「うん」
そこではたと俺は口を噤む。
言っていいのか?
正直前世の知識的には、不死身の人間って化け物みたいなイメージがある。これで兄や、家族に嫌われたらそれこそ人生の幕を早々に閉じたくなってしまう。今でさえ絶望感に苛まれてやってられないのに、無駄に傷付くことは避けたい。
途中から黙りこくってしまった俺を見て、兄は「独り言なんだけど」と前置きをしてポツポツと話し始める。それは兄が祝福を授かった時の話だった。
「最初は怖かったんだ。“預言者”なんて言われても、俺じゃ力不足だって思った」
「そんなこと…」
兄は天才ではないが、勤勉で父親を真似て努力を怠らない人だ。実際にその努力は実を結んでいるし、呼ばれたお茶会でも、同年代に限らず注目の的だ。こんな常に将来を怖がって、終活ばかり考える俺とは違う人間なんだと俺は思っていた。
「どれだけ魔法を練習しても、予知じゃなくて他の魔法の方が上手くなる始末だったからね……挙げ句の果てに、初めての予知は弟をこんな顔にさせた。」
「ち、違う!!」
確かに俺は凹んでいたが、それは祝福のせいであって兄のせいではない。むしろ兄の言葉を聞いていたおかげで、あの絶望でも叫び出すようなことはなかった。
「俺は兄さんのおかげで心構えが出来ていました…!でも、祝福がその…ちょっと特殊で…」
「特殊?」
「はい…これを聞いたら兄さんは俺のことを気持ち悪いと思うかもしれません……」
人から避けられるのは怖い。ましてや家族から怪物を見るような目で見られたりなどしたら…。考えるだけでも胃が痛くなってくる。チラリと兄を見上げれば、真剣な目をしたカリスと目が合う。
「月並みの言葉しか言えないけど、俺はアリオのことを大切な弟だと思っている。それは何があっても揺るがないって自信を持って言える」
「兄さん…」
なんでこの兄はこんなにもイケメンなことを言えるのだろうか。不覚にも涙ぐんでしまったじゃないか。
あれだけ言おうか悩んだのに、今なら言える気がしてくる。
兄パワーというものがあるのだろうか、俺はネガティブな考えを頭の隅へ追いやると、兄のことをしっかりと見る。
カリスが静かに頷くのを確認すると、俺は意を決して祝福のことを話し始めた。
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